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プロローグ(4)

――お耳に入れたいことが、と。


 食事が終わり自室でくつろいでいる時、不意に老齢の執事が繰り出した一言に。次期領主のロランドは眉をひそめた。




 ……街の祠に御使いらしき存在が現れた、という話。10日ほど前から神殿に住み着いていて、街をふらふらと歩いたり、屋根に上ってぼんやり空を眺めたりしているらしい。


「通常、御使いは何らかの神託を受けて降臨するものですから、何もせずひとところに留まるとは考えにくいそうなのですが。それでも、司祭曰く、魔力の密度が明らかに通常の精霊とは違う、とのことで、御使いであるのは間違いないと」


「……それで?」


「――仮に、御使いだとすると強大な力を持っているはずです。味方につけておいて損はありません。本人から了解さえ取れれば、教会も文句は言いにくいでしょう。……そして、契約を交わせば、ロランド様がその者の力を行使できます。今は力が必要であると思料します。……今後のためにも」


 今のまま行けば、長子である自分がいずれこの領主の地位を継ぐことにはなるだろう。……ただ、15歳になる2つ下の弟が家督を狙っていることも何となくロランドは察していた。そのために、色々動いている気配も。どろどろした権力争いが苦手なのでずっと放置していたが、まずいだろうか。……確かに、今の自分には、力がいる。そして。


 ……神から使命を受けて天下る御使い。単純に、見てみたくもあった。会いたい旨の希望を伝えると、執事は嬉しそうに、屋敷に呼ぶよう司祭に伝えておきます、と返答する。ロランドはふと、疑問に思ったことを尋ねてみた。


「……大司祭は、どうした?」


 この街の神職の最高権力者が、御使いに関わっていない、というのもおかしな話だ。


「……御使いが降臨したその日に、どうやら滅びの予言を受けたらしく。……それから1週間も経たないうちに一家離散したそうです。ほっほ、恐ろしいことで」


 ……人の未来が分かるのか……。それとも、呪いか。どちらにせよそれは、人の持つ領域を超えた力で。……今の自分に必要なものだった。もう少し、知りたい。


 ……他にその御使いの情報はないのだろうか。執事に尋ねると、少々不思議そうな顔とともに返答があった。


「……そういえば、毎日、入浴後にいつも落ち込んでいる様子だそうです。……水が苦手なのですかね?」







****************



 ……僕がここに来てから、早くも10日が経った。いろいろなことに順応するのに精いっぱいでこんなに時間が経ってしまったけれど、正直そろそろ働かないといけないような気もする。家事とかは手伝ってるんだけど、お金がない。


 ……いつまでも人にお世話になるというのもあれだしね。『僕が使命なんて覚えてないし、やることもない』ということをなぜか確信したらしいエリック少年の視線が最近冷たいし。なぜバレたのか。……そんなある日。


「領主様の息子が、姉ちゃんに会いたいって言ってるらしいよ。いつなら都合がいいか、ってさ」


「いつでも暇ですよー」


「そう……」


 数日後、僕はあっさりと屋敷に招待された。なんだろうね。







 現れた次期領主は、ロランドと名乗った。なんか育ちがいいんだろうな、って雰囲気である。長身で、黒髪、ちょっとだけ高圧的だけど、まあ悪い人ではなさそう。目付きは悪いけど。


「……何か、困っていることはないか」


「特にありません。周りの方にも良くしていただいてます」


 職がありません、領主様。……言わないけど。

 

「何かできることがあれば、力になりたいんだ」


「最終的にはしたいことが1つあるんですけど……そっちは具体的な方法が何も固まってなくて。うーん、詳しくは初対面の方には言い辛いんですが」 


「……やはり神託を受けているのか。どんな内容なんだ?」


「神託……? あ、いえ、個人的な望みというか」


 この流れはまずい。使命の話はそろそろやめよう。このままでは、冷たい視線の人がまた一人増えてしまう。何か話題を逸らさねば。……正直、使命の話になるのが嫌であんまり聞けてないから、御使いって何よ? というのもよく分かってないんだよね。






「……ところで、あなたは私の力になってくれる代わりに、私に何をして欲しいんですか?」


 そう言って、様子を見てみる。さっきから、そんな感じの雰囲気がすごい伝わってきてるので。とりあえず、相手が何を求めているかを知ろうではないか。……すると、相手は話し出した。


「……俺は、弱小だが一応貴族の長子で。この街の次期領主、だと思う」


「はい」


 ……それでそれで?


「それはやりがいがあるし、問題ない。生まれ育ったこの街も好きだからな。ただ、俺の弟が出来がいいんだが、家督を継ぎたいらしくてな。……俺は、家を継げないなら、外の世界も見てみたいんだ。他に自分の居場所が見つかるなら、それでもいいと思う。どちらの道を選ぶべきか、正直迷っている」


「……なるほど」


 そう、本心から話す目の前の相手に、僕は好感を持った。どちらの道を選ぶにしても、なんとか頑張っていただきたいものである。……それで、なんで僕は呼ばれたんだろう。





「俺に家を継ぎ、家名を大きくする才能があるか、未来があるか、見てくれないか。そして、よければ俺と契約して、力になって欲しい」


 ……呼ばれた理由は分かった。それは良かった。ただ問題は、僕にはそんなの1ミリもわからないというところである。……僕がどう説明するか迷っていると、彼はそれを変なふうに受け取ったみたいで。


「……そうか、……ないのか……」


 と言い、見るからに落ち込みだした。僕は慌てて言う。


「いえ、その……。わからないんです。未来なんて」


「……大司祭の一家離散を予言したと聞いたが」


「……え? ああ……あれ? いや、浮気してるのが分かったので、そのままだとバレるぞ、って言っただけだったんですけど……」


 そう説明するも、相手は釈然としない様子。追加で質問が来る。


「……どうして分かったんだ? 初対面だったんだろう?」


 ……うーん。まあ……正直に話してくれた相手には、こっちも返すのが誠意だろうか。


「……あの、正直に話してもらったのでこちらも正直に言いますね。……私、人の心が読めるんです」


「……それで構わない!……俺は今、家の中で味方が分からないんだ。判定してほしい。簡単に、白か黒かだけでも。まあ、6:4でこちらが不利ぐらいだとは思うんだが」











「黒」


「黒」


「黒」


「黒」


「……黒。あの、もう、やめません……?」


 次々紹介される使用人の方々。ロランドさん派か弟君派か判別してくれとのことだったので、順番に確認していったけど。……辛いです……。この場に居辛過ぎて終わる前に心が折れそう……。世の中って知らない方が幸せな事が、きっとあると思うんだ。


嘘喰いを徹夜で一気読みしていたら風邪をひきました(←昨日書けなかった言い訳)

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