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「意味を知ってる」と「実践する」には大きな差がある

「……確かに、石板で確認したら、魔法の才能は皆無だったわね……なんてもったいない……」


 頼みとやらに行く前に、どうしても! ってお願いされたので。今日ちょうどやってるらしい魔法学校の入学試験で使われる石板で、僕の魔法の才能を測ることになった。その結果は言わずもがなだったけど。……まああれだよ。僕の才能って普通じゃ測りきれない所にあるってことだよね。困ったものだ。


 やれやれ、と僕が首を振っていると、シャテさんがこわごわと僕の方を覗き込んできた。


「全然落ち込んでないのが逆に不気味なんだけど……大丈夫よね?」


「いえいえ。ただ、世界が私に早く追いついてこないかな、と思っていただけです」


「何でそんなに上から目線なの!? あの結果で!! ……もう、気にして損したわ!」


 ぷんすかしながら早足になるシャテさんを見ながら、テヴァンが含み笑いをしているのが見えた。


「すまない、彼女はサロナ嬢を傷つけたのではないかと思っただけなんだ」


 わかってるけど、テヴァンってなんかシャテさんの通訳みたいだよね。きっと昔からの付き合いなんだろう。僕がうんうんと彼らの絆に想像を馳せていると、僕たちはいつの間にか街の出口までやってきたみたいだった。……あれ? 街の外に出るの?


 僕の疑問が伝わったのか、彼は街の外に見えている塔を指さして言った。


「実はあの塔に用があってな。頂上に設置されている魔道兵器からアイテムを取ってくる、というのが今出ている最難関の課題なんだが。どうやら魔法が効きにくいらしいんだ。だから一緒に……」


 お、じゃあ僕がそれを取ってくればいいのかな? お任せあれ! 僕は颯爽とダッシュで塔の入り口を目指す。……と、突然、目の前の草むらからぴょんぴょんとホーンラビットが現れて、僕は急ブレーキをかけた。轟音とともに地面に大きな溝を作りつつ、僕はホーンラビットの前で止まることに成功する。




 ……さっそく戦いの機会が来てしまったか。しかしちょうどいい。やはりこの世界での最初の戦いはかつてのライバルが相応しいよね。よく考えたら既にウルタルをボコボコにしてた気もしたけど、あれは戦いじゃなくて教育だから。……さて。


 僕は目の前のライバルを値踏みする。かつて3桁後半を超えるウサギと戦ってきた僕から見ると、目の前のウサギの戦闘能力はどうだろう……。僕がじっとウサギを眺めていると、ウサギの方も僕の方を見て、こちらにそろそろと近寄ってきていた。耳が片方だけ黒い。……お互いが戦闘態勢に入ったと、なんとなく察する。


 ……あれ? でもなんかゲームより一回り小さい気がする……。心の中で僕がそう疑問を抱いた瞬間に、ホーンラビットは一直線に飛んできて、僕の腹部に角を思いっきり突き刺した。


「ごふぅ!」


 衝撃でくの字に僕の体が曲がる。い、いやでも角は皮膚で止まってる。触手が刺さらなかった時の戸愚呂兄みたいな顔をしてるホーンラビットの首に、僕はチョップを叩き込んだ。スパーン! という音とともに、すごい勢いでウサギの首は遠くまで飛んでいった。……ふう。まさか先制されるとは……。


「一体なんなの!? ウサギの首が草むらから勢いよく飛んできたんだけど!?」


 後ろの方からそんな声が聞こえたけど、気のせいだと信じよう。


 さて。どうやら僕の体は力や耐久性は上がってるみたいだけど、反射神経は上がってないらしい。正直ホーンラビットめっちゃ早かった。他の魔物がホーンラビット以下のスピードとも思えないので、気を付けていかねば。




 そう僕が自戒していると、後ろからテヴァンと、鬼の形相でウサギの生首をぶら下げているシャテさんが現れた。……耳掴んでる……なんかお嬢様みたいな人がそんなことしてると余計にやばい人に見える。しかも何か怒ってそう。


 僕は視線を合わせないように明後日の方向を向いた。そうしていると、視界の端でシャテさんがぐいっとウサギの首をこちらに突き出すのが見える。水戸黄門じゃないんだから、そんなことしても……いや、いきなり現れてウサギの生首をこちらに突き出す奴がいたら平伏してしまうかもしれん。怖くて。


「……いきなりこれが飛んできたんだけど、あなた知らない?」


「いえ知りません」


「こっちを見てから言いなさいな」


「すまない、これが飛んできて、シャテアンナは悲鳴を上げて尻餅をついたんだ。正直笑ってしまった」


「あんたはどっちの味方よ! 黙ってなさい!」


「……塔の頂上が目的なら、早く行きませんか?」


「そうだけど! あんたに言われるのだけは絶対! 納得いかない!!」





 やたらこっちを気にするシャテさんとテヴァンと一緒に、僕たちは塔の入り口に辿り着いた。……僕も歩きながらウサギの首を次々に射出する訳じゃないんだから、ずっと警戒しなくてもいいと思うんだけど。


「大丈夫ですよ? もう首なんて出ませんよ」


「いやさっきのを見たら、もしかしたら次も、って気持ちが拭えないわ! 御使いって得体が知れないってお爺様も言ってたもの!」


 お爺様もそういう意味で得体が知れないって話したわけじゃないと思うの。まあいいか。そのうち飽きるだろう。






 ……塔の中でこっちに突撃してくる岩の蛇を思いっきり僕は蹴り飛ばした。すると、蛇はバラバラになりながらシャテさんの周りに着弾する。キッとこっちを見てくる彼女と目を合わせられず、僕は塔の天井を一生懸命眺めた。……いや、だってさ。なんか結構な確率で敵が飛んでいく先にいるんだもん……。シャテさんに全てが吸い寄せられるゾーンでも彼女は展開してるのだろうか。もうあんまり敵を倒さないでおこうと僕は心に誓った。


 そして階段を上がり、僕たちは無事最上階につく。他の2人も、最上位クラスなだけあってなんなく敵を倒していた。まあ最上位クラスがどれだけすごいかは知らないんだけど。階段を上がったところにある大きな扉に手をかけるテヴァンを制して、僕は言った。


「きっとこの先で相手は待ち構えているはずです。こちらもそのつもりで行きましょう」


「そうだな、呪文の詠唱は済ませてから行こうか」


 2人が呪文を詠唱している間、僕はその辺をうろうろして時間潰しをする。……だってすることないから……呪文の詠唱長いし。ていうか、魔法もいちいち詠唱が必要で呪文も多数あるらしい。僕ますます絶対使えないわ。魔法使いになる道は諦めざるを得ないみたいだった。


 僕は散歩しながら思考を戻す。この塔について、1つだけ気になることがあった。……ここにいるのがゲームと同じく岩山の竜、№19のペルセトリアなら。ゲームで魔王城のある場所に行けば、魔王がいることになる。……なら、きっと昨晩の夢の続きを直接聞けるのでは。……あれ、でも昨晩のって僕が知ってる魔王だったような……。なら会っても意味ないのかな? まあ見に行くくらいなら……。


 そう考え事をしていると、2人の詠唱も終わったらしいので、僕は扉に手をかける。さあ、どうだろ? ギギギ、と大きな軋みを上げて、大きな扉が開く。





 ……その先にいたのは岩山の竜ではなく、壊れた機械の破片と、小柄で細身の女性だった。年齢は15,6歳くらい。黒髪を後ろで括った髪型で、活発そう。こちらを振り向いたその目は金色で、どことなくいたずらっぽい表情の子だった。


「……あれ? あれが魔道兵器ですか?」


 ペルセトリアでもないな…あいつ強いから違ってラッキーではあるけど。しかし最近の魔道兵器はかわいいいたずらっ子な女性型もあるのか……。魔道兵器って確かゲームだとこの近くに出てたキラーマシンみたいなやつだった気がするけど。ちょっと人が死んで生まれ変わってる間に進化したもんだぜ。……あ、でももう自虐はやめよう、なんか胸が痛くなった。心理的な意味で。


 しかし、僕がテヴァンに尋ねると、彼も首を捻った。


「いや、鎧を纏った機械のような外見だったと聞いているが」


 なら僕の知ってるのと一緒だ。進化してなかった。じゃああれ誰よ? ひょっとして同じクラスの人なんじゃないの? ……でもそうすると2人のリアクションがおかしいか。あ、忘れたとか? ……よし。直接聞いてみようではないか。


 僕はとてて、と彼女の前に歩いていき、笑顔で尋ねた。


「あの、いきなりこんなこと聞いてすみません。あなたはどなたですか?」


「あなたこそ誰かな?」


 おっと、そういえばそうだった。名乗るときはまず自分から。……名前だけだとあっさり過ぎるかな?


「失礼しました。私はサロナ、といいます。えーっと、職業は……ウエイトレスですかね?」


 実験協力者が職業かどうかわからなかったけど、ウエイトレスは職業だ。週2であっても。よかった肩書があったよ。そう自己紹介して一礼する僕に、目の前の彼女も笑って一礼してくれた。


「初めまして。あたしの名前はゼカユスタ。一応魔王軍の幹部、ってことになるかな」


 ……あれ? 誰……? 知らんぞこんな奴。忘れた、ってわけじゃないと思う……んだけど……。一応確認しておこう。


「あの、突然なんですが……あなたの№はおいくつですか?」


「へえ、魔王軍に固有の№があることを知ってるんだ。誰が話したんだろ?」


 クスクスとおかしそうに笑いながらこちらを見る彼女は、こちらを興味深そうに眺めた。と、横からシャテさんがくいくいと僕の袖を引っ張る。


「あの子、物凄い魔力なんだけど。勝てる自信があってのんびり話してるのよね……?」


「ちなみに私は魔力の量がわからないんですが、あっちとこっち、どちらが大きいですか?」


「それすらもわからないのよ……今までに見たことがないくらい。それに、魔王軍って伝承にしかないはずなのに。ねえ、慎重にいってちょうだい」


 あ、そうなんだ。その辺もあとでシャテさんに聞かないと。じゃあ伝承の魔王軍が復活してたってことでいいのかな? それは大変めでたい。テヴァンも油断なくゼカ……なんだっけ? を見据えてるけど、その頬には冷や汗が伝っていた。


「……あたしの№は7だよ。ふふ、死ぬ前に教えてあげ」


 目の前の自称魔王軍が最後まで言い切る前に、勝手に動いた僕の渾身のボディーブローが彼女のみぞおちを捉えた。相手はごふっ、という音とともにその場で崩れ落ちる。……一番駄目な番号を引き当てるとは、運の悪い奴。


 僕が憐みの目で相手を見下ろしていると、後ろからまた、くいくいと袖を引っ張られて、僕は振り返った。そこにはシャテさんが、言いたいことがいっぱいありそうな顔でこちらを見ていて。結局彼女はそこから一言だけを絞り出した。


「ねえ、……慎重に、の意味って知ってる……?」


 高々と上がった僕の右手が勝利ポーズを決めているのを見ながら。僕はどう答えても駄目なその質問に対して聞こえないふりをしつつ、薄い胸を精一杯に張って宣言した。


「――勝てる自信が、ありました!!」


 ……その直前に魔力の量がわからないと聞いたことを僕が思い出すのは、もう少し後だった。

書けるときはどんどん書いちゃえ、って感じですが、たぶん2,3日に1度投稿になるんじゃないかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 後書きの部分を見てサロナかな? って思っちゃった。
[良い点] おぉ!?お帰りなさい(*´∇`*)
[一言] 懐かしい作品が更新されてて驚きました。 おかえりなさい!
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