魔王と女神の片方しか信じられないとしたら、どちらを選びますか?
この連載小説は未完結のまま約3年以上の間、更新されていません。
今後、次話投稿されない可能性が極めて高いです。予めご了承下さい。
↑こんなの出るんですね。怖い。
ごめんなさい。あの、お久しぶりです。やっと戻ってこられました。
「……ところで、魔王軍のおやつ会はいつにしましょうか? そろそろ1人1屋台にして、業績を競争する、という制度を導入してはと思うんですけど」
僕はゲームの中にログインした状態で。魔王軍の上司である魔王様を相手に、今度行われるお祭りの屋台制度についてのプレゼンを行っていた。……1位は銅像を建てられる、とかにしたらこの人は本気出してきそうなのでいいんじゃないかな。本気出したらどんな屋台を展開してくるのかちょっと興味あるし。
ところが目の前の魔王様は、被ったフードの暗闇の奥でなぜか溜息(?)をついた。……ん? なんだろう、何かを呆れられている気がする……。
座ったままの彼女が傾けた紅茶のカップは、どこに消えているのかわからないまま、その中身を少し減らした。カップをテーブルの上のソーサーに置くチン、という高い音が、彼女の苛立ちをどこか表しているようで。……苛立ち? いや屋台に対して既にやる気に溢れてるとか? なら感心するけど。
「あの、私もですね。さすがにしのびないというか。もっと気をつけた方がいいですよ。……そこは危険ですから」
急にわけのわからないことを言い出した彼女に僕は首を傾げた。大丈夫だろうか。だって僕たちはほぼ同じ場所っていうか……あれ、ここ……どこだっけ……?
僕が辺りを見回すと、そこは魔王城の庭だった。あ、そうだっけ。……魔王城で、ここは危険だと言い出す魔王ってどうなんだろう。それこそ危ない気がする。どういう立場からの発言なんだ。
「あの、疲れてるんじゃないですか? また一緒に街に行って買い食いとかしちゃいます? それにここ以上に危険な場所って世間一般的にはないらしいですよ」
僕の親切な申し出を、魔王様はじっと眺めた。すっとその白く細い手が伸びて、僕の頬をゆっくりと撫でる。
「私は、あなたのいる場所の方がおぞましいですけどね。……あ、もう時間切れか。私も焦った方がよかったかな。まあでも、そのうち会えそうではありますし。……とりあえず、今これだけは覚えておいてください。いいですか――」
急に辺りから光がどんどんと消え、景色が薄れていく。真っ暗になったその中で、僕はノイズの走った中、最後の彼女の声を聴いた。
「――神※声は※※り※じ※※※とです」
僕が目を開けると、そこにはいつもの家の暗い天井が見えた。手元には、女神に貰ったペンダントが、窓から差し込む月の光に照らされて鈍い光を放っている。体をベッドから起こすと、ふと自分が汗びっしょりなことに気づいた。
……所々だけしか覚えてないけど今のって……? 予知? でも僕にはそんな力はない、はず。最後の台詞だけがよく聞き取れなかった。……神の声がどうとか言ってたんだと思うけど。でも、そもそも今のところ女神も何も言ってないような。あの魔王でもさすがに現実に干渉しつつ異世界にメッセージを届けるってできないだろうから、これはただの夢……?
……僕はそう決めて横になり目を閉じたけど、色んな考えがもやもやと頭をよぎって眠れない。女神の声が何かだと彼女は伝えたかったんだと思う。それはいったい何だろう。僕は手元のペンダントを触りながら考えた。
『……呼んだ?』
あ、その女神の方に繋がっちゃった。でもさっきバックレといてよく出てこれたよね。……もう忘れてるのかな? とりあえず、なぜこの世界に僕が来たかを聞いたら女神は即逃げてしまうらしい。なら、他のことを聞こう。さすがにあなた何か企んでますか? とは聞かないけど。
「私、元の世界に帰りたいんですけど、帰してもらえませんか?」
『うーん……。あ、そうか、そうだね確かに。そうしようか。……いいよー。私が何とかしてあげる』
……今何か隣に相談してなかった? なんかそんな空気だったけど。お、でも帰してくれるんだ。なら細かいことはいいか。
「ありがとうございます! ではいつ頃になりそうですか? できるだけ早い方がいいんですけど」
『ちょっと準備が要るかなぁ……今から育てるとだいたい3か月くらい先になると思う』
「……育てる?」
『ああうん、こっちの話。だから適当に過ごして待っておいてくれたらいいよー。じゃあね』
その言葉を最後にプツンと通信は途切れた。……あれ。帰れる、らしい。思ったよりあっさり。……前に、帰してくれ、って言った時は明らかにスルーしてた女神がそれにOKを出した理由は何だろう。
そう不思議に思いながら。目を閉じて真っ暗な中、僕は再び深い眠りに落ちていった。……今度は、何も夢は見ずに。
次の朝、ロランドがそわそわしながらどこかに出かけてしまったので、僕はウルタルの研究所へ向かう。いちおう彼にもこのペンダントが何か、っていうのを聞いて、その後に海辺の町へ行こう。そう綿密に今日の予定を立てながら僕は研究所の扉を開けた。適当に過ごせ、って女神は言ってたけど、一応製作者のおっさんの手掛かりと自力で帰る方法は探そうと思う。
「おはようございまーす」
「おはよう! あれ、何か元気ない?」
ルート先輩が今日もニコニコしながら僕を迎えてくれる。いえ大丈夫です、ととりあえず首を振ると、彼女は椅子を指さして、さあ座って座って! と言いつつ、なんだかわくわくした感じで僕の方をじっと見ていた。朝から元気。そして何か言いたいことがありそうである。その予測通り、彼女は指先をもじもじさせてしばらく溜めた後に、話を切り出した。
「……ねえ、よかったら今日お昼過ぎ、ちょっと学校の方に出かけてみない? 私にもついに妹弟子ができたんだぞー! ってみんなに紹介したいの。っていうか自慢したいの! 今までの分まで!」
えーっと、今日は予定が……。そう思って断ろうとした僕を、先輩は捨てられた子猫のような目でじっと見る。と思ったら突然向こうを向いて、ふう、と聞こえるように溜息をついた。
「……そうだよね、やっぱり嫌かぁ……」
「いえ、嫌ではないんですけど。ただ、今日はちょっとやりたいことがあるかなーって。ところでウルタルはどこですか?」
昨日の晩、夢で最高司令官にも「ちゃんとせえや」って言われた気がするし、ここは予定を優先せねば。ちゃんと朝起きて予定通りに動くことが魔王軍幹部としての第一歩なのだ。
「先生は今日は研究家の会合に出かけてるよー。すごく警戒して行ったから、一番やばいのだと思うな」
なんと。今日は始まったばかりなのに、早速僕の予定の半分が頓挫してしまった。そして一番やばいのって、複数やばいのがあるのがおかしい。そもそも研究家の会合ってそんな警戒する要素あったかな? ああそうか、禁呪だっけ。
でもこれもう予定通りとか無理だし…ルート先輩の方を優先していい気もする。僕がそう今日の予定を臨機応変に組み替えていると、先輩はソファーのクッションに倒れ込んだ後にぐしゃっと顔を埋め、低い声で呪うように呟いた。
「今日もみんな後輩を連れてくるんだけど、私はどういう顔で1人で参加したらいいのかなぁ……。いつも私だけ余ってるんだよ? 2人分がセットになってるお菓子も私が2人分を1人で食べるんだよー……?」
顔を上げ、ぐいぐいこちらの袖を引っ張ってくる先輩だったけど、いつもそうならそもそも2人分セットのお菓子なんて用意したらアカンやろ。でもかわいそう。……よし、行こうか。
そう思う僕の考えを先取りしたように、僕の手がいつの間にか先輩の手をぎゅっと握り、高らかに宣言しているのが聞こえた。
「行きましょう! さあ今! すぐに!」
……どうやら僕の同居人は、相変わらずぼっちに敏感のようだった。お昼過ぎって言ったやんけ。
「この子がルートの後輩なんだ。……なにこれかわいい持って帰りたい。ふわっふわじゃん」
「ルートちゃんよかったねー! あ、こっちにも貸して」
一通り僕が撫でまわされた後、集まった先輩たち3人はきゃいきゃい何か学校の話題で盛り上がっていた。……ルート先輩って学生だったんだ。20歳くらいに見えるけど、いくつで卒業なんだろう。そう思っていると、トントン、と後ろから肩を叩かれる。
「ねえ、あなた。いきなりでごめんなさい。でも……その魔力は何……? クラスは?」
振り向くと、後輩なのだろう。2人の若者がこちらを覗き込んでいた。1人は女性、1人は男性でどっちも10代後半くらい。女性の方は金髪巻き髪のお嬢様チック。男性の方は長身細見のイケメンで、なんかできる人的なオーラを醸し出していた。
「クラス……?」
「あたしはシャテアンナ、こっちはテヴァン。あたしたちは2人とも最上位クラスなんだけど、あなたは見たことないから」
クラスっていっても3年1組とかではなさそう。たぶん魔法学校のクラス分けの話なんだろうね。……魔法学校か……魔法の才能がないと入れないんだろうなぁ、やっぱり。僕はちょっと遠い目をしてその質問に答える。世の中には9と4分の3番線に入れない人間の方が多い、残念ながらそういうことなのだ。
「私はサロナ、クラスはありません。そもそも学校に入学していないので」
「……どうして!?」
シャテさんがでっかい声を上げたかと思うと、いきなり僕の肩を両手でつかんで思いっきり揺らしてきた。ガックンガックン僕の首が前後に揺れる。
「サロナ嬢はそんなに魔力があるのにどうして入学していないのか、とシャテアンナは言いたいようだ」
解説してる暇があったらこれを止めてほしい……、酔いそう。僕が自分で外してもいいんだけど、力加減を間違うと、ポキッといっちゃいそうで怖い。仕方ない、事情を話して納得してもらおう。
「えーっと、私それよりやりたいことがあるんです」
「何? 何? やりたいことって? この国の最高峰であるこの学校を出て国の中核に就職する以上に大事なの?」
シャテさんは僕の両肩を掴んだまま、めっちゃ早口で話してくる。異世界ではこれが初対面の挨拶なのか。もっと焦りなさいと夢の中で言いたげだった彼女に見せてあげたい。これはこれでやばいですよ魔王様。
僕は助けを求めてルート先輩の方に目をやった。ヘルプヘルプ。すると彼女はなんだか微笑ましいものを見るような目でこちらを見て笑顔になった後、小さく手元でグッと拳を握り、謎のサインを送ってきた。うん、どういう意味かはよくわからないけどたぶん違う。そうじゃない。……いかん、妹弟子を初めて連れてきたことでテンションが上がっておられる。
「すまない、シャテアンナはこんな格好なんだけど貧乏貴族だから出世に敏感なんだ。許してやってくれ」
「あなたは黙ってなさい! で、何をしたいの?」
……僕がしたいことは、日本に帰ること。でも日本って言っても通じないか。どう言おう。まあ一般的な感じでいいや。
僕は真剣な顔で、相手の目を見て言った。
「……一言で言うと、自分の家に帰りたいんです」
「いや帰ればいいじゃない!! 何なら今すぐ!! 学校入るのと関係なくない!? 毎日帰ってるでしょ!?」
「いえそれが、時間を遡るか世界を超えないと帰れないので」
「あなたどこに家があるの!? じゃあそもそも今日どこに帰るのよ!? ……駄目、疑問が多すぎる」
ふむふむ、と隣で聞いていたテヴァンが、指を立てた。
「なるほどだいたいわかった」
「今ので!?」
最上級クラスってすげー! まあでもこういうのは的外れなことも多いので期待はしないけど。
そう失礼なことを思ってる僕をよそに。テヴァンは口に手を当てながら考えつつ、持論を述べた。
「いやなに、俺も御使いが降臨したという話は聞いていたからな。御使いといえば、他の世界から召喚されるものだ。故郷に帰りたいと言って暴れることも多かったらしいからそれか……? そもそも、サロナ嬢の魔力は聖属性のようだしな。非常に珍しい。これは御使いか大僧正にほぼ固有の魔力だが、後者には見えないから、前者の可能性が高いと見た」
……最上級クラスってすげー! 僕とシャテさんは、おおーと大人しくテヴァン氏の推論に聞き入った。……え、この人にアドバイス求めたらいいんじゃないだろうか。何かいい答えを示してくれそう。製作者のおっさんはウルタルに頼んでるから、もう1つの、自力で帰る方法を聞いてみよう。……なんか神の声について、魔王様が忠告してたような気がするし。
「あの、時間遡行か世界を超える魔法って、何かご存じじゃないですか?」
「時空魔法は過去に研究されていたこともあるらしいが……今は残されていないな。世界を超える魔法、というかその手段については1つ、心当たりがある……というほどでもないが」
「え、心当たり!?」
「え、あれを心当たりって言うの!?」
僕とシャテさんは同時に声を上げる。……おや? シャテさんも知ってるのだろうか。彼女の方を見ると、なんだか複雑な顔をしていた。
「いやまあ、あの子は確かに世界を超えて旅したいと言ってたけど。でも実現できないじゃない。それを心当たりとして話すのはどうなの……」
「いえそれでも何かの手掛かりになるかもしれないので! ぜひ教えてください!」
「もちろん教えよう。ただ今は彼女は留守じゃないかな……。その前に、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが、協力してくれるか?」
もちろん。そう頷く僕を見て、テヴァンはニヤリと笑った。……あ、この人笑うと悪役っぽいわ。敵幹部にいそう。情報をくれた恩人に対して、僕はそんな失礼な感想を抱いた。
いや、あの、間が開いてすみませんでした。
ちょっと他の業界に勉強しに行って来いと言われ出向したり、遠くに行ってたりで。この前の10月に帰ってきたんですが、続きを書かねば! と思ってこの前ページを開いたら、その辺の事情を全く書いてませんでした。やばい。すみませんでした。2016年12月に行ったので、いや、すごく前ですね。もうあんまり覚えてる人もいないかもしれませんが、途中なのはあれなのでちょっとずつ書きます。
……で、感想とかメッセージが何件も来てるよ! って表示がされてるんですが、ちょっと私は今3年分のそれをすぐに受け止められません! せっかくなのにごめんなさい! 私自身いつも楽しみにしてたんですが、絶対怒られてる気がするので! これが完結したら、心の強いときに読みます。完結自体はあと2か月くらい? 何をやりたかったかはなんとなく覚えてます。




