神の声が聞こえる
ペンダントから何か聞こえた、気がする。そのまま僕が予言者の子の顔を見やると、彼女はとても不思議そうな顔をしていた。そのまま少し首を傾けて、尋ねられる。
「私には何も聞こえませんでしたけど……? 何か聞こえます?」
「……多分これ、神の声が、聞こえます」
……自分で言っててちょっとヤバい人の発言にしか聞こえないけど、たぶんこれで正解な気がする。もう一度、呼びかけてみる。この行動できっと、はたから見ると完全にヤバい人になったよね。予言者の子もちょっと引いてる。さっきよりも物理的な距離を感じる。それにちょっと傷つきながら、僕はあらためてペンダントに話しかけてみた。
「……あの、聞こえてます?」
『何か用があるの?』
大聖堂の時と同じ声が聞こえる。……やばいやばい、やばいレベルのチートアイテム来ちゃった!? ……色々段階をすっ飛ばしてるような気がするんだけど、こんなもの貰っていいのだろうか……。だって無敵やん。神様と対話ができるアイテムって。でも、これって勝ち確じゃあ……?
勝利宣言のハイタッチでもしちゃう? そう思いながら僕が笑顔で顔を上げると、何故か予言者は後ずさりしながら顔を青くしていた。そのまま彼女の顔は地平線に沈む夕日のように、ゆっくりと机の向こうに無言のまま隠れて見えなくなる。……なんで? その僕の疑問は、すぐに氷解した。頭の中に直接、彼女からのメッセージが送られてきたことによって。
『それ、私たちにとってまずくないですか……? だって教会関係者が魂に関する魔法を異端視してるなら、女神様だってそうなんじゃ』
その発想はなかった。確かにその可能性はあるな。……でもそれなら、大聖堂に行って接触した時点で既にアウトだったっていうか、今更なのでは……。だって教会の親玉みたいなもんでしょ女神って。ごめん、思いっきり巻き込んで。
……でも話した感じ、特に敵視してるような感じじゃなかった。意外に言わなきゃバレないのだろうか。もう遅いかもしれないけど、それとなく聞いてみよう。僕は恐る恐る、尋ねてみることにする。
「……魔法に、禁忌なんてあるんですか? 例えばほら、魂に関する魔法を学んでいると虐められたり、とか」
『私は魔法の種類で人を異端視したりはしないかな』
「……だそうです」
そう伝えると、予言者は机の影からひょっこりと顔だけを出す。ちょっとまだ信じてない感じだけど、直接聞いてる僕には、能力で嘘か本当かわかった。この力、神様にも一応発動はするらしい。地味にそれもヤバいと思う。そしてその体勢と表情のまま、予言者はこわごわと疑問を投げかけてきた。
「じゃあなんで、教会関係者はああなんですか……?」
『教会はそうらしいね。理由は知らない』
「……だそうです」
「じゃあ止めてくださいよ……。そもそも、どうして、そんな重要なアイテムがこんなあっさり貰えてるんですか……?」
確かに一理ある。でもこの女神様、知っててもあんまり何もしてくれないっぽい。御使いの不具合も、「知ってた」で済ませたもん確か。……あれ、でもじゃあなんでこのペンダントはくれたんだろう……。確かに予言者の子の疑問ももっともな気が……?
『この子にちゃんと物をあげてなかったのは確かかな、って思ったのと、少ししか話せなかった、って言われたから』
「……だそうです」
「それだけ!? あとあなたさっきからそれしか言ってない!」
「……ところでですね、実はさっそく、女神様に聞いてほしいお願い事があるんです」
「どん欲だ」
「はいそこ静かにしてください。……実はですね、私、生きてた時に住んでた場所に戻りたいんです。使命も貰ってますけどそれ以外にも何でもやりますし。……ちなみに使命の内容にずれがあってはいけないので、念のためもう一度確認しましょうよ」
完璧だ。これで、使命の内容を確認しつつ、こちらの要求をとりあえず示せた。……しかし、帰って来たのは不思議そうな声で。
『……使命ってなに?』
「あれ? だって御使いはみんな使命を持って世界に下るって……」
『私は誰にもそんなこと言ったりしないよ』
だって使命があるって、聞いたよ。……これはひょっとして、覚えていないのも責められるようなことじゃなかった……? どうして皆そんなこと……? ん、でもないならそれはそれでいい。使命? 知らんな。それより僕には気にすべきことがあった。
「では何でもしますから、帰らせてください。そもそも私がどうしてこの世界にいるのかもわからないんです」
『…………』
……あれ、急に返事がなくなった。ペンダントを振ってみたりするも、特に返事なし。大声でペンダントに話しかけること15分、僕はようやく、相手がバックレたのを理解した。話はここからなのに!
「もう! ……あっ」
思わず地団太を踏む。また床にびしり、と大きくひびが入り、ズズン、という不気味な地響きとともに、少しだけ部屋が傾いた。
「あー!! 私の家がまた……!」
「意外になんというか……女神様って、子供みたいな方でしたね」
来た時より少し斜めになった部屋の中で、僕たちは今の出来事について整理する。床については弁償する、ということで許してもらえた。いつも弁償してるな。ごめんなさい。
「というか、今のところ声が小さい、すぐ逃げる、めんどくさがりというイメージの方がどうしても……」
「その3つのワードから女神を想像する人はこの世界に1人もいないと思いますよ」
そりゃあこの世界にいる人ならそうかもしれないけど、これは僕という異世界人から見た客観的な評価だからね。ただ、助けてもらったりもしたので、大声では言えない。……でもペンダントだけで有能ではあるよね。僕は予言者の子が入れてくれたお茶を啜りながら、訳知り顔で呟いた。
「私という第三者からの冷静な評価です」
「神の御使いがなんか言ってる!」
結局、その後も返事はなく、僕は家に戻る。神様なら戻すのも簡単なんじゃないかと思ったんだけど、バックレられてしまった。……あそこで会話が終わったのは偶然? 何となく、そうじゃない気がした。『なぜ自分がこの世界にいるのかわからない』、と僕が言ったのが最後の台詞だったはず。……それは女神にとって、会話を打ち切りたくなるような台詞だった……? 大聖堂での会話を思い返す限り、僕が異世界から来たということ自体は認識してたっぽかったけど。
……うん、わからん。でも、そもそも材料が少なすぎるからね。集めないことにはどうしようもない。……ウルタルに調べてもらってるからという理由で自分が動かなさ過ぎたかも。……まずは、ゲーム制作者のおっさんの痕跡が残ってそうなところを回ってみるか……? 海辺の街の副町長なんてしてたんだから、きっとあの辺の出身に違いない。ゲームの中でだけでも故郷の偉い人になってみたかったんだよ、きっと。
けどとりあえず、魔力が膨らんで爆死、っていう危機はいったん抑えられたらしい。そう思うと安心して何だか眠くなってきた。まだ窓の外は人の声で騒がしく、床に入るのはまだ早いくらいの時間だったけれど、もぞもぞと自分の部屋の布団に入り、目を閉じる。……そして、すぐに意識が遠くなり。僕はこの世界に来てから初めて、少しゆっくりと、眠った。おやすみなさい……。
すみません、今年の12月は何だか思ったより忙しくて、ちょこちょこ更新になりそうです……。もう少し早めに話を進めたいとは思ってるんですが( ;∀;)




