ピンズド 意味:的確な補強をした場合に用いられる
「うーん……結局これ、何なんだろ……?」
僕は宗教都市から戻った後、家のベッドの上で寝ころびながら考える。女神から貰ったペンダントを掌に載せ、まじまじと眺めてみた。とりあえず手に持って振ったみたり、意味もなくぷらぷら揺らしてみたりするけど、特に変化なし。
ひょっとしてと思い、ベッドを降りて台所に行き、水に浸したり、思い切ってちょっとだけ火で炙ったりしてみる。ゲーム内のイベントだとこういうのでヒントが出てくるアイテムもあったので期待を持って見守るも……別に炙り出しで文字が浮き出てきたりはしなかった。……頑丈だ、ということは分かったけど。
こういう時は魔法に詳しい人に見てもらおう。ウルタル……? いや、待てよ。神様から貰ったものなんだから、予言者の子の方が詳しかったりしないかな? 予言って神の力っぽいし。ゲーム内のイメージから言うと、きっと道具も詳しそうだし。それで分からなかったら、ウルタルの所に持ち込んでじっくり調べてもらえばいい。うん、それでいこう。そう思い立ち、僕は再び外へと駆け出した。
「……それで私の所に来た訳ですか」
机に頬杖をつきながら、予言者の子は目を閉じて何故か大きなため息をついた。その行動でゲーム内より少し長くなった銀色の髪の毛が揺れる。たぶんゲームの時より大人っぽく見えるのって、この髪型のせいのような気もする。……でも僕がここに最初に来たのは、ちゃんと根拠があるんだよ。
「ゲーム内であなたが魔族を探知する機械を配布していたところから、こういう道具系に強いのではないかと推理したんです。思い出せた自分の記憶力を褒めてあげたい」
「その素晴らしい記憶力をもう少し使って考えてほしいんですけど……あなたに『宗教関係者に近づくな』と注意したのは誰でした? ……それでこれって宗教都市の大聖堂で貰ったんですって? よく堂々と持って来れましたよね」
……何となく呆れ顔の答えが分かった気がする。確かに言われてたっけ。確か『読心魔法は禁呪だから』とか言ってもらえたような……、覚えが何となく、あった。
「すみません……少しなら大丈夫かと思っちゃって……」
「あなた1人であの総本山に行くとか……。まあ、だから付き添いでウルタルとルートが着いていってくれたんでしょうけどね。特に何もありませんでしたか? あったらここにはいないでしょうから、無かったとは思いますが」
あの2人はどうして一緒に行ってくれたんだろう、と思ってたけど。実は僕がやらかさないか注意してくれるためだったらしい。きっと、見えないところで気を遣ってもらっていたのではないか。……否定したいところだけど、今も注意を忘れていたことが発覚したばかりなので大人しく感謝しておく。ほんとすみません。
「ほとんど滞在しませんでしたから。……あ、それで、どうですか、これ?」
「うーん……魔力を込めたら何らかの魔法の効果が発動する、とか……? ……する気配ないですね。……あれ、でも魔力はちゃんと吸うんだ。しかもちょっと異様な速度で」
予言者はペンダントを手に持って、何かぶつぶつ唱えるも、特に何も起こらない。彼女は手元を覗きこんでちょんちょん、とレリーフを慎重な手つきで触ってみたり、撫でてみたりしてる。……ひょっとして、あんなにそっと触らなきゃいけないものだったり……? さっき炙ったりしちゃったんだけど。軽く。
「……あの、仮にですよ? 火とか水に触れさせたりしたら、まずいですか?」
「……えぇー、ペンダントが火に触れる、ってどんな状況……? 普通あり得ないでしょう……え、まさか」
「文字が浮かび上がってくるかと思って……つい……」
「どんな仕組みですか……。魔法具は慎重に扱ってください。ウルタルが聞いたら怒りますよ。こういう珍しい研究対象はすごく大事にする人ですから。……ほら、あなたに対しても彼、丁寧だったんじゃないですか?」
「あれ……? なんだか逆に炙ったのも正解な気がしてきたかも」
炙ったり氷漬けだったり、酸のプールに沈めてハンマーで叩いてもOKな気がしてきた。もちろんしないけど。……でも、確かにもう少しちゃんと扱ってあげるべきだったかもしれん。魔法の道具だから頑丈かな、って軽く思ったのは間違ってた。ごめんね、と思いながら僕もペンダントを撫でる。……するとペンダントは光の反射か少しきらめいて、なんだかこちらに返事をしてくれているような気がした。
「……とりあえず、これを身につけておけば魔力は一定程度吸われます。あなたの話だと、魔力が膨らんでおかしくなっちゃうんですよね。それを抑えるための道具なんじゃないですか? 何か特殊な効果もあるかもしれませんけど……それは分かりません」
「なんと」
女神はポンコツではなかったかもしれない。むしろできる人説が急浮上してきた。……これを身につけていれば、一応魔力の増加は抑えられるらしい。僕の要望にピンズドではないか。女神、有能。機能について説明がほしかったと思わないではないけど、それは贅沢というもの。これは、また教会にお布施をしに行かねばである。
僕はいそいそとペンダントを身につける。さらりと鎖の涼しげな音を立てて、ペンダントは胸元に収まった。初めて身につけるのに、なんだかとてもしっくりくる。とりあえず、聞こえるかどうかわからないけどお世話になった2人に、お礼を伝えた。
「予言者さん、女神様、ありがとうございました」
「いえいえ」
『どういたしましてー』
「!? 何か今、聞こえませんでした!? ……え、まさかこれ」
とんでもチートアイテムのような気がしたけど、別に喋るだけならよくない? という結論に落ちついた