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人付き合いの時に気をつけることは、意外にどこの世界でも変わらない

また遅くなっちゃいました……。

 ロランドをウルタルの研究所に連れて行って以来、ロランドはどこかに朝から晩まで出かけるようになった。……まあ、いいこと、なのかな……? 中にこもってるよりは。



 とりあえず僕に就活は手伝えないので、せめて毎日お弁当を持たせてあげることにした。今日の献立はなんかの肉を焼いたやつである。執事のお爺さんに教えてもらって、段々僕も料理を練習しつつあるので、その実験台とも言う。帰って来たロランドはお弁当の中身や今日の献立等について毎回あれこれ品評をしてくれるので、参考になるし。……ふむなるほど、やはり牛乳に魚は合わないか……。


「……そういえば、私ちょっと、明日から出かけてきます」


「どこに行くんだ?」


「えーとですね、宗教都市に行って。神の声を聞こうかと」


 客観的に聞いたら電波発言だけど、実際聞けるらしいもんね。問題なし。詳しく説明するのは、面倒だからやめておいた。追加で聞かれたら答えよう。ロランドはそれを聞いて眉を一瞬ひそめ、そのまま興味なさげに頷いた。


「そうか。気をつけて行ってこい」


 ……てっきり、『俺も連れていけ!』ってなるかと思ったけど、別にそんな感じでもないね。


「ロランド様は試験に向けて準備がありますからな」


「試験……?」


 まあ、資格は大事だよね。頑張っていただきたい。もぐもぐと朝ご飯を食べながら、僕はそれ以上ロランドについて考えるのをやめた。





**************







「……そういえば、神の声を聞くって、すぐにやってもらえるものなんですか?」


「御使いである君なら、あの街ではいくらか尊重してもらえるだろう」


「普通は何週間も待たされて、駄目だ、って言われることも多いらしいよねー。直接申し込まないといけないから、そこで立ち往生。あそこで宿屋を開いたらきっと儲かると思うよ」


「なるほど」


 魔法都市から宗教都市までの街道を馬車で揺られながら、僕は同伴者の2人からそんな話を聞く。……あれ、そういえば。誰かが宗教関係者には近づくな、って警告してくれてなかったっけ……? 忘れてた。……まあ、ぼろを出さなきゃいいよね。余裕余裕。とりあえず宗教都市までのしばらくの間、僕はちょっと背伸びをして窓から外を眺め、流れていく景色を楽しんだ。……あ、ウサギがいる。よかった、ゲーム内と一緒だ。なんだろ、めっちゃほっとする。








 宗教都市に着き、馬車を降りた後、街の中央にある大聖堂に僕らはまっすぐ向かった。大聖堂は相変わらずのなんだか歴史のありそうな石造りの大きな建物で。尖った塔が併設されていて、たぶんそこからか、ガランガランと鐘の音がする。……いっつも鳴ってない、あれ?



 ……そして、教会の偉い人に通された大広間で、僕は設置された台の前で神の言葉を待った。同伴の2人は待合室で待機。正面には大きなステンドグラスが陽の光を受けて、七色に輝いていた。外の人の話し声も往来の雑踏の音もまったく聞こえない、その静謐な空間の中で……少しの間があり、不意にどこからか声がする。

 

「――何が聞きたいの?」


 透き通った、女の子の小さな声。どこか歌のような。そして確かに死んだあの日に聞いた覚えがある声だった。……あれ、でもなんか……違和感。どこに……? 僕は内心ちょっと首を傾げる。





 でも今は、それより先に確認しなければいけないことがあった。なぜなら希望者が多いだけあって時間制限があるらしいからである。貰った時間は1分。短かっ! まあそれでも予約なしに入らせてもらっただけ、優遇されていると言える。


「あの、御使いが2年経たずに頭がおかしくなって死ぬ、っていうのは本当ですか? 私それは嫌なんです。どうすれば回避できるんでしょう?」


「……あのね、御使いに私があげた魔力って、どこまでも膨らむの」


「はい」


 なんだろう、早くも答えが見えた気がする。そして嫌な予感。魔法が使えないくせに膨らむのか。プラス要素ゼロですやん。そのままお返しするので返品したい、すぐにでも。


「だからそのうち暴走するみたい」


「それは、どうやったら回避できるんですかね……?」


 知ってたなら直しとけよそんな不具合。でも今更言ってもあれなので、ここからどうするかを考えねば。……うーん、魔力があるからおかしくなるのであって、僕自身は帰れさえすれば魔力そのものにあんまり未練はないかも……? どうせ魔法使えないし。


「あげた魔力は使い切ったら、なくなるよ」


「それだ!」


 さすが神かつ製造元。すぐに答えが出る。そうそうそれそれそういうの、なんだ、簡単やん。やはり何事も作った人に確認するのが一番だよね。魔力ってなくなっても大丈夫? そうなら今すぐお願いしたいところだけど。


「魔力がなくなったら体を維持できなくなるから、御使いは死ぬね。暴走して息絶える原因はそれ」


「……それを回避したいって話でしたよね」


 ……あれ、なんかこの女神、ポンコツじゃない……? 段々と嫌な予感がしてくる。なんていうか、打っても響かないっていうか、うまく言葉のキャッチボールができないっていうか。嘘はついてないけど。






「死んでも生まれ変わるよ? また私の元に戻ってきて、次のどこかに行くの」


「うーん……どこか、って中に日本が含まれてるとしても。賭けるにはギャンブル性が高すぎる……」


 死なずに、魔力の暴走を抑えつつ、帰る道を探す、かぁ。出所がなくて貯まる一方な訳だから、僕の場合は暴走までが結構早そうな気もするのがネック。考え込んでいる僕に、女神から慰めの(?)声がかかる。


「せっかく元の場所に戻ったんだから、ずっといなよ」


「元の……? ……あ、そういえば。あの、貰った翻訳魔法の宝石、ありがとうございました。助かりました。……大量生産品だったって分かって一瞬ショックだったりしたんですけど、よく考えたら、あれがないとどうにもならなかったので……感謝してます。1分しかないのでちゃんと話せませんでしたけど、それだけは伝えないと、と思って」


 そう言いながら、僕は中空に向かって最敬礼した。頭を上げた後にふと上を見上げると、広がる明るい天井が目に映る。天井も、色とりどりのガラスがはめ込まれていて、そこに日が射し込んで、とても綺麗だった。……ゲーム内でここに来た時には周りを見渡す余裕なんてなかったけど、あそこにもここと同じ光景が広がっていたのだろうか。


 そんなふうに、ちょっとの間、違うことを考えていた僕に、女神はしばらく沈黙し、口ごもった(?)のちに不思議そうな声色で言った。


「…………私、何もあげてないよ?」


「なんでこのタイミングで嘘つくの!?」


 能力使わなくてもわかるわ。お前以外いねーだろ。……でもありがとう、あなたはポンコツなんかじゃなかった。ちゃんと理解してたもんね、言語を理解できるかどうかで左右される難易度の違いの大きさを。僕なら絶対そのまま送り出しちゃうと思う。そこにちょうど、係の人がやってきてちょいちょい、と袖を引っ張られた。


「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、お時間です」









 女神との交信を終えて、待合室に待たせている2人の所へ向かう僕に、最初に案内してくれた教会の偉い人が走り寄ってきた。そのまま、こちらに何か渡してくれる。……ペンダント?


「あの、女神がこれをと」


「何ですか? これ」


 じゃらん、と鎖を垂らしてぶらぶらと揺らしてみるけど、別に見た感じ、おかしなところはない。金の鎖の先に、なんだろ、魔法陣的なものをかたどった金属のレリーフがぶら下がってる。


「女神から賜りました魔法具です。我々には何に使うかは分からないのですが、あなたに差し上げるように、と」


 貰える理由がない。……え、まさか……慰謝料、とか……? 大量生産品は文句を言われたから、もっといいもの追加であげるよ、みたいな。そういう意味で言った訳ではなかったんだけど……せびったみたいでちょっと後ろめたい。……ええもちろん、くれると言うならありがたくいただきますけれども。




 順番を優遇してもらった件と新しく物を貰ったせめてものお礼にと、財布の中身を教会の受付にほとんど渡して僕は待合室に戻った。なんかね、あのままだと罪悪感がやばかった。助けてもらった恩人相手に追加で物をせびる、という……。


 これからはもう少し言葉を口に出す前に気をつけよう。相手がどう受け取るか、分かったものじゃないもんね、うん。……でも、感謝の気持ちは伝えられてよかった。これからはいいことは伝えて、悪いことは考える、これが攻守ともに最強なのではないか。うむ。






 そう考えて、僕はウルタルとルート先輩の元へと急いだ。2人は何も言わずに僕を迎えてくれ、そのまま僕たちは建物の外に出る。


「さあ、帰ろうか」


「あれ、せっかく来たんだから何かしていかないんですか? 私の用は済んだから、付き合いますけど」


「ふむ、私はこの街には特に用がないが。ルート君はどうかな」


「私、お守り買っていきたいです! 友達にたくさん頼まれたので!」


 そして立ち寄った売り場で、ルート先輩は両手いっぱいのお守りを抱えて購入していた。僕も売り場の棚を見ると、なんだか恋愛成就のお守りばかりずらりと並んでた。これだけたくさんあると逆にご利益ないように見えちゃうんだけど、きっとそれは個人的見解だろう。



 僕もロランドと執事さんに何かお土産を、と思い、お守りを買う。恋愛成就のお守りはあげたくないので、あえて「家内安全」と「学業成就」にしておいた。なんか試験受けるらしいし。……それにしても、翻訳魔法って絶対ヤバいよね。僕のどこをどう読み取ってそういう表示にしてるんだろう。またちょっとこれも開発者に直接聞いてみよう。








 ……そして、収穫があったようななかったような、宗教都市への訪問はいったんは終わり。家に帰って、僕がロランドにお守りを手渡すと、彼は怪訝な顔をした。


「何だこれ」


「お土産です。……試験受けるんですよね。いい結果が出ますように、と思ったので。応援しています」


 詳細も全然分からないけど、せっかくなのであげよう。……実を言うと、自分が不当に何かをせびってしまった後ろめたさを、僕も何かをあげることによって中和したい、という気持ちもあるんだけど、それはさすがに口に出すのはねえ。プラスのことだけ、口に出す。うん、覚えた。僕はその内心がバレないように、さりげなく視線を外す。




 ロランドはしばらく不思議そうな顔をしていたが、不意にはっと何かに気づいたような顔をした。


「そうか、俺のために宗教都市までわざわざ行ってくれたのか」


「それはちょっと、いえ、だいぶ違いますね」


「そうか! よし! わかった!」


 彼はうんうんと頷いた後、有頂天になってどこかへ走り去っていった。僕は執事さんにもう一つのお守りを手渡しながら、もう1つ学ぶ。……うん、プラスマイナスがどうとかよりも、人によって対応を変える、っていう方が優先順位としては上かも。……なんかほら、相手がどう受け取るかは、相手が誰かによって違うって、今再認識できたから。

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