迷子の会員を探しに行こう 【難易度★★☆】
そういえば、異世界で、いつだったか。ゲームの世界ではトアは魔王様だ、みたいな話をしてた時に。「ゼカさんとはゲームの中では会ってない」と言った僕に、ゼカさんは何と言っていたっけ。「私を探してほしい」みたいなことを言っていた気がする。この3人でゲームでも一緒に活動しようよ、とも。その約束を果たさないといけないな。
ちょうど魔王様の居室でくつろいていた僕は、いつものように部屋の隅でガッコンガッコン何かを作っている魔王様に、声をかけた。
「実はですね、私の仲間を探しに行こうと思うんです。同じ会の子で、また一緒にやろうぜ、みたいなことを約束したもので。とっても大事な友達なんですよ」
「……え? はい。突然ですね。ご自由にどうぞ。……で、なぜそれを私に?」
「いや、魔王様も私たちの会のメンバーなので」
「……そんなの入った覚えが1ミリもないんですが……」
「魔王様の部屋で私たち3人は結束を誓ったのです。懐かしいですね。全員で手を上げたあの日のこと、私は今でも覚えてますよ」
「え、この話続くんですか? そんなの覚えてないです。それに私ってこのところちょっと忙しいんですよね」
「ちなみに魔王様の役職は、なんと副隊長です!」
「しかも私トップじゃないんですか。まあそれは構いませんが……」
「トップは私ですよ」
「……やっぱり問題ありました。いくらなんでも頼りなさすぎる……」
「まあ、役職の上下はありませんけど。で、行きましょう! 今から!」
「今から!?」
そのまま手を引っ張って、ずるずると居室から僕は彼女を連れ出した。なんだかんだで、本当に嫌だったら部屋からも出てこさせられないはずなので、問題はないのだ。うむ。
「じゃあ、さっさと片づけましょう。その人はどこに?」
「何1つわかりません!」
シャキン、とその瞬間、何かが抜かれるような音がした。
「……そういえば『探しに行きたい』と言っていましたっけ。いけませんね。つい……」
つい、なんだろう。その先は聞かない方がいいような気がした。
「でも我に秘策あり! です! さあ、こちらへ!」
1つ大きな溜息をついて、それでも彼女はてくてくと僕の後ろをついてきてくれた。
「ななななな、なんですか!? その後ろの人、なんですか!?」
「あ、尋ね人です。ゼカさんっていう人を探してるんですけど」
僕は魔法都市にある、占いの館にやってきていた。この魔法都市も、もはや僕のホームみたいなもんである。大人しく後ろをついてきてくれている魔王様は、しげしげと珍しそうに館に飾られている置物を覗き込んでいた。周りの客もなんだかざわざわとしている。これは早めに撤退した方がいいかもしれない。
占い師の子はどうやら魔王様が気になるみたいで、しきりに僕の後ろに視線をちらちらと向けていた。
「いや、あの、後ろのってもしかして魔」
「今のところ機嫌がいいですけど、早めに内容が解決できないと、ひょっとしたらこの館が消えてしまうかもしれません」
「……ひええ……」
そして、彼女が必死な形相で占ってくれたところによると。
「どうやら、その尋ね人は砂漠の国にいるようです」
「ゼカさん砂漠民だったんだ……」
そういえば、ゼカさんの出身地を聞いておいたらよかったか。そうしたらこのミッションはすぐに解決できた気がする。でもいいや。もはやゴールは間近である。
僕は腰に手を当て、魔王様を振り返って大きな声で宣言した。
「では行きますか! 我々の会の、最後の1名を探しに!」
「あ、はい。……我々ねぇ……」
手がかりを得た僕らは、さっそく砂漠の国へ飛んだ。正確には魔王様の 天空深處で。うーん、使い方が勉強になるなぁ。あっという間に砂漠の国だ。
さてさて、しかしゼカさんはどこに? 砂漠の国って一口に言っても、広いんですけど。どうやって探したらいいというんだ。住所の番地まで教えてくれないと。しかし占い師の子は「行けば分かる」としか言ってなかったし。……そんなにゼカさん分かりやすいところに住んでるの? 「ここは砂漠の国だよ」って入り口で言ってくれる人とかなのかな?
その時、「ピコン!」と僕の元に新しい通知がやってきた。……なんだろ? いちおう僕はプレイヤー向けの通知も入るようになってるから、たいていこういう時は新しいクエストとかそういうやつだけど。
「隠しクエスト『僕らは、ひとりでは強くなれない。』が発生しました」
おっ。やっぱりそうだ。どれどれ。隠しクエストだって。これ知らないかも。
「――砂漠の国に、このところ謎の盗賊が現れるという。その者は問いただされても『群れに答えなどない』という一言を言い残して姿を消すのみ。その正体を暴き、奪われた財宝を取り戻せ」
こ、このセリフは……明らかにゼカさん……。ゲームの世界でも変わらずぼっちなんだ……。いや、ここに我々がいるぞ。待っていてくれ。僕は心の中で涙を拭き、前を向いた。……あれ? でもなんか注記がある。なになに。
「発生条件:砂漠の国に魔王軍幹部が2体以上、同時に現れること」
「この盗賊には魔王軍も興味を示しているという情報がある。魔王軍より先に盗賊を捕らえた者には、さらなる富が与えられるだろう」
……へ、へえー。僕は隣の魔王様を振り返った。
「なんだかプレイヤーと競争しないといけないみたいですよ。向こうより早く見つけないといけないんですって」
「勇者とですか? ……ほう……いいじゃありませんか。要は全員斬ればいいんでしょう?」
「よくありません! 支配者の器使用禁止!」
「では仕方ありませんね。他の武器を使いましょう」
「まず斬ろうとするのやめて!」
とりあえず、僕は魔王様と約束した。喧嘩は売らない。売られたら買ってもいい。概念ごと斬る 支配者の器はプレイヤーを斬った時の現実世界への影響が怖いので、使用禁止。他の武器は使ってもいい。……あれ? なんか結構押し切られたな……。
「じゃあとりあえず、その盗賊の情報を得るところからですかね? 私ちょっとそのあたり聞いて回ってきますよ」
「私はその間、どうすれば? 広場で立って、勇者が絡んでくるのを待ちますか?」
「……どこか宿を取るので、そこを基地にしましょう! 魔王様にはそこで待機してもらう感じで!」
返り討ちにする気満々やんけ。当たり屋かな? 僕はなんとか魔王様を宿に押し込み、聞き込みに出かけることとした。魔王様には後で屋台で仕入れた食べ物を持っていこう。少しでも大人しくしてもらわないと、この国に来るであろうプレイヤーが即全滅してしまう。さすがに人探しで迷惑をかけすぎな気がするし、それは避けたいところだ。よし、それでは聞き込み開始!
「最近出るっていう盗賊の話、何かご存じありませんか?」
「さあ……?」
「中二病な15歳くらいの女の子、見ませんでした?」
「ち、中二病? 知らないなぁ」
「ゼカさんっていう女の子を知りませんか。黒髪でちまっとした子なんですけど」
「珍しい名前だから知ってたらわかると思うんだけどねえ……」
……駄目だ。盗賊も、ゼカさんも知っている人がいない。どこかに手がかりをくれるキャラがいるはずだけど……。
僕は街角のテラス席でサンドイッチをもぐもぐと頬張りながら、今後の作戦を練った。……あ。そうだそうだ。掲示板見ればよくない? ヒントくらい載ってるんじゃないかな。……どれどれ……。
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≪掲示板≫
〈【朗報?】ヤバそうな隠しクエストが砂漠の国で発生している件9【悲報?】〉
〈総合攻略スレ PART172〉
〈【1人は確定】砂漠の国に来てる魔王軍幹部ってあと1人は誰だと思う?〉
〈NPCを(合法的な意味で)愛でるスレpart970〉
〈なんでも雑談 109〉
〈こちら追跡班21 今サンドイッチ食ってる〉
〈ピラミッドの小部屋出る時「扉が開かない!」とか演技したらみんなビビっててワロタ〉
〈ウサギが倒せない女の子を見守るスレ88〉
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おっ。あるじゃーん。どれどれ。……ふむふむ。
……しかし、結論としては、何もわからなかった。まだ誰も手がかりを手にしてはいない……? 少なくとも投稿してくれてはいないか。僕が手にしたら絶対黙ってるだろうから、そこは仕方ない気もする。でも、掲示板の雰囲気を見る限り、あまりみんな進んではいなさそう。なるほどなるほど。
あとなんか気になるスレがあったので、上から3つ目を覗いてみる。確定してる1人も気になるけど。そもそも君たち幹部そんなに知らんやろ。えーっと。
〈【1人は確定】砂漠の国に来てる魔王軍幹部ってあと1人、誰だと思う?〉
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「組み合わせ的にアルテアかな?」
「アルテアさん希望」
「町に来てても目立たないってことだろ? 5人くらいしかいなくない?」
「俺ギーがいいわ。口からビームはロマン」
「↑じゃあいっそのことペルセトリアでよくね」
「イングリット・ジークリットの双子しかない。あの2人にいたずらされつつ左右から挟まれて死にたい」
「↑ロリコン乙」
「ちょっとわかる」
「おまわりさんこいつらです」
……あれ? なんか普通に名前がバンバン出てるな……。なぜ……。あとこの「1人は確定」ってなんかたぶんなんだけど、僕のことな気がする。ま、まあ前科からして仕方がないか。自分のこれまでの歴史というのは、常に自分とともにあるものなのだ。
僕はサンドイッチを食べ終わり、何となく空を見上げた。きっとゲームのゼカさんは、同じ空の下のどこかにいる。それだけで、なんだかすぐに会える気がした。だって、確実に同じ世界にいるんだから。
僕は少しだけ笑って立ち上がる。さてさて、じゃあゼカさんを早く1人の状態から救い出してあげなければ。……まだ、あては全然ないけど。