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「あてがある」って結構ふわっとした言い方な気がする

 そうして、馬車に揺られるのも飽きたころ。窓から見える景色に、城壁に囲まれた街が見えてきた。ガタガタと揺れながら緩い下り坂を降りていく馬車の中で、僕は目を凝らす。大きな壁に囲われ、高い尖塔が目立つ、石造りの街。……ぱっと見、ゲームの中と同じような気はするけど……。




 しばらくして到着した城門の前で馬車を降り、僕たちは地面に足を下ろした。うん、足元が揺れないって素晴らしい。……そして、振り向くと、馬車は普通に来た道を戻っていった。あ、馬車も行っちゃうの?






 僕はとりあえず馬車を見送った後、周りを見渡してみる。魔法都市の城壁の外側周辺には、ゲームの時のそれと同じく草原が広がっており、草原の奥の方に塔が立っているのが見えた。爽やかな風が真正面から吹き付け、さわさわと僕の髪を揺らす。うむ、秋真っ盛り。僕は手で風に流される髪を押さえて、遠くに見える塔を見やった。


 ……あの塔、ゲームの中だと、あそこにはボスとして魔族が常駐していたはず。……そういえばここって魔族とかどうなってるんだろう。僕は今更ながらこの世界の状況がどうなっているかについて疑問を持った。もしいるなら、僕もかつてそっち陣営で活動してたので、戻るのもやぶさかではないんですけど。









 ……まあ、現状把握はおいおいするとして。いつまでもここに立ってるのもあれだよね。隣に立ったまま一向に歩き出す気配のないロランドを見上げ、首を傾げながら聞いてみる。


「……これからどうします? 当てがあるって、どのくらい具体的なんですか? 任せっぱなしで悪いんですけど」


「正直、魔法都市に来たら何とかなるんじゃないかとしか思ってなかったがな。……覚えておけ。計画はな、シンプルな方がいいんだ。……俺は今、家から解き放たれて猛烈に自由を嚙み締めている。これだ、俺の求めていた世界は」


 それ計画言わない。単なる思い付き。そして後半は聞き流しちゃったけど、……え、マジで? 家を探すところから? 家に居づらいだろうとか言ってたら、これからは家自体ない感じ……?


 ……いやでも、他人任せだった方も悪いなこれ。僕は内心で、最近の流され生活を深く反省した。人に何でもやってもらえると思ってはいけない。ゲーム内でソロで動いていた時の、あの一匹狼的な心をそろそろ取り戻さなければ。きりり。


「――ぼけっと何もない草むらを一生懸命鑑賞してるとこ悪いが、そろそろ行くぞ」


 気合を入れ直している僕にかかった声に振り向くと、2人は既に城門の方に向かって歩き始めていた。僕も小走りにその後を追いかける。






「……とりあえず住むところは私にお任せください。ある程度の資金は持参してきていますから、私が確保して参りましょう」


 そう言う執事のお爺さんが、神に見える。僕も大学に入った後、下宿を探したことはあるんだけど、コンビニ駅近、ゴミ捨て場完備とかそういう基準しかない。ここでは全く役に立たなそう。


「その間、俺たちはどうすればいいんだ」


「そうですな、資金はおそらくそう長くは持ちませんから、まずは仕事のあてなどを探してきていただけたらよろしいかと。手続きもありますので、3時間後に再びここで、落ち合うとしましょう」






 そう言い残し、足早にどこかへ去っていく執事のお爺さんを見送って、僕らは顔を見合わせる。


「……仕事って、どこに行けば見つかるんですかね?」


「さあ……?」


 なんだかとても、前途多難な気がした。











「そもそもですよ、この世界にハロワがあるかはともかく、ギルド的なものってないんですか? ああいうところでクエストを受注するのがゲーム内での資金稼ぎの常道だったんですけど」


「ぎるど……?」


 ないのかよ! それとも知らないだけ……? うーん、でもとりあえずこのままだといけない。分からない時は聞いてみるべし。僕がきょろきょろと声かけ対象を探していると、ロランドがチンピラみたいな兄ちゃんに声をかけていた。1つ聞きたい。なぜあえてそこに行った。……ええい、ちょっと悪そうな方がいい人って可能性もあるし、行ってみるしか。


「おい、ちょっといいか、そこのお前。聞きたいことがある」


「あぁ?」


「あの、いきなりすみません。お仕事を探しているんですけど、どこに行ったら紹介してもらえますか?」


 初対面とは思えないほどいきなり険悪になってる2人の間にぎりぎり割り込んで、要件を伝える。


「できるだけ短時間で大金を稼ぎたいんだ。頼むぞ」


 後ろからいらない注釈を入れてくるロランド。そんな仕事ある訳ないやん。あってもやばいやつ、それ。あと人に物を頼む態度ではない気もする。


「……え、なに、君仕事したいの?」


 いい人だった。よかった。その人は僕の姿を上から下までじっと眺めて考え込む。……何を迷ってるんだろう。彼はしばらくたって考え事を止め、僕にニッコリと笑顔で微笑んだ。どことなく、闇金漫画でよく見る種類の笑顔な気もしたけど、偏見だろう。僕もえへへと愛想笑いを返してみた。採用面接の練習、練習。


「大金ね、いいよ、君次第だけど」


『顔はいい。ちょっといろいろ小さいが、そういうのが好みの人間もいるし。……使い終わったら売ればいい。最悪死んでても買い取ってくれるか』





「おい、大金だと。聞いたか」


 後ろからロランドがつんつんと背中を突っついてくる。ここに僕以上のアホが自己申告してるやんけ。こっちをまずカモにせんかい。……でも今は、とりあえずこの場を去らねば。全速力で。……僕はそのまま、後ろにいるロランドの手をぎゅっと掴んだ。











「……手を引っ張られて宙を浮いたのは初めてだ。どうやったらあんなに早く走れるんだお前」


「いや、あの、引っ張った私が言うのもなんですけど、……腕、大丈夫ですか? 取れてません?」


 腕をさすりながらぐるぐる回しているロランドを見ると、大丈夫そうである。よかった。いや、今になって取れた、って言われても困っちゃうけど。


「どうするんだ、大金を得るチャンスを逃したぞ」


「向こうも多分今頃そう思ってますよ」


 僕はそう答えながら、ふむ、と考える。……仕事。そして、僕の目的にも沿うし。魔法都市にいる、ゲーム内の友達であるNPCの元を訪ねてみようか。きっと、それで今後どうすればいいかは分かるはず。あの子、占い師だったしね。……そうと決まれば。



「しょうがないですね、私にあてがあるんで、ついてきてください」


「あ、ああ、じゃあ頼んだぞ」







 そこからいくつか角を曲がって、通りを真っすぐ行ったところに。ゲーム内と同じく、予言者の館はあった。相変わらずの小さな一軒家。占いの看板も出てるし、いい流れが来てる気がする。このまま行けるとこまで行っちゃおう。なんたって、僕この家で(体感)1か月くらい暮らしたこともあるんだから。





 僕はそのまま入口をくぐり、居酒屋にやって来た常連のように軽く声をかける。


「こんにちは、私です。お元気でした? 近くまで来たんで寄っちゃいました」


「……えぇー……? ……え、あの、すみません。どなたですか……?」





 ……行けるところは、結構すぐ行き止まりだった。

前話を何度読んでも、街を出たいぞ、というあたりが無理やりだったような……


あと、ロランド氏が路頭に迷ってもあんまり心は痛まない、みたいな主人公の感想がありましたが、家を出るって言った要因は君が作ったんじゃない? という部分が引っ掛かったので、路頭に迷うと寝覚めが悪い、という風にこっそり変わっております。生後2週間の成長期ということでご了承ください。

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