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あんなに不可思議で、とっつきにくい奴も中々いない。あいつはいつも奇妙な笑みを浮かべて、何が起きてもヘラヘラとしているのだ。ことが深刻な状態に陥ろうが、何だそんなことかと鼻で笑い、しまいには3歩歩けばその内容を忘れている。能天気もほどが過ぎると不気味である。それにあいつが声をあげ怒りに飲まれたところも、感情をあらわにしているところも、これまた見たことがない。いつもあの張り付いた作り笑顔を浮かべ、世の中を平然と渡り歩いている。そう、おかしなことに、あいつの周りの連中はその道化に気がついていない。どういうわけか、誰もがあいつのことを必ず「心の良い人だ」と言うのだ。表面上は勿論、紳士的な振る舞いをするのには間違いないが、あれを真に受ける程人間は頭の弱い生物だったのか、はたまた自分があいつの道化を見破るほどの才能の持ち主だったのか、真相はわからない。ただ一つ言えるのは、あいつは人間じゃあない、ということだ。