忘勿草(わすれなぐさ)
“影姫の物語”最後です。
うちな、うちの純潔をあんたにあげるつもりやったんね。
あんたのもんなりたいと思うとったんや。
せやけど、穢されてもうた。
あの狂ろうた王にわやされたんや。
うちの恥ずかしいとこみな晒して、口でいえん恥ずかしいことさせられた。
薬やら魔法やらで操られて頭がわやになっとった。
おとうはんおかあはんや弟の肉削いで、うちの餌にしよった。
おかげで、魔物に喰われてもうたときんこと、うちがそん魔物やこと思い出してもうた。
痙攣で締まりようなるゆうて、首吊られたり刎ねられたりする。
どんだけ惨いあつかいされても回復してもうて死なれへん。部屋そのもんにそない魔法かかっとるかもわからん。
王は白い枯れ木が衣纏うたみたいやった。長い髪白うて肌白うて、痩せほそってかさかさやった。うちを刑吏にまかせながら、仮面のよな笑み貼りつけて、赤い眼だけねちっこく光らせとった。蛇のよな眼に晒されて、うちは怯えて竦んどった。
死なせて、うち死なせて。はよう、うちに飽きて死なせてえな。そう願うた。
跳ね橋吊り上げる機械みたいなんで、体吊られながら尻に尖った鉄杭のさきっちょあてごうて、じわじわ下げられるんが怖ろしいさけ、辛抱たまらんなったんや。
何べん使われとったたかわからんよな、錆だらけで血やら糞やらいろんなもんがこびりついたんが、うちの腹ん中にめり込んでく。腕は括られて動かせんから、便壺に腰かけとるよながに股で、足じたばたさせて暴れたわ。うちの体がすっかり串刺しなって、仰のいた口から杭突き出るまで、長うかかって精根尽きた。
うちの口から突き出とるもんみながら、汚いな思うた。うちはもうなんもかも汚いんや思うた。
手枷嵌めて壁ぶら下げられとる。
ほったらかしやから、脇毛もなにもぼうぼうや。髪ぃ抜けたな、もしかして禿とるかわからん。
うちは掃除せえへん便所や。あんま臭そうて汚のうて、鼻まがるし吐き気するやろ。
うち、あんたからみられてええよに、ほんま身ぎれいにしとったんよ。こないなとこみられとうないな。
あは、あはは……。ひぃ、ひぃっく……。
うち孕んどるみたいや。誰の子やろな。
白い枯れ木みたいな王やろか、口のきけん刑吏やろか。
あの憎そい王が召喚した黒い靄のよな蛸足やろか。
あんたん子やったらよかったわ。
あの王は子ども忌んどるみたいやった。
うちは薬漬けされたまんま、臓物ひきずりだされてようやっと死ねた。
うちとあんたとん稚児、生まれるまえ流れてもうたわ。
かんにんな。うちもう生きていとうないんや。
姫様に拾ってもろて、いまの体もろて、全部忘れさせたろかときかれた。
体が変うたかて、こんこと憶えとるかぎり、うちは汚れたまんまなんや。
そいでも、あんたんこと忘れなあかんなら、こん想いがのうなってまうんやったら、うちはこんまんまでええわ。
あんたに嫌われるかわからん、汚のうて蔑まれるかわからへん。
せやけど、うちはうちのまんまで、もいちどあんたにあいたいんや。
あんたに抱かれて死ねたらええな。
ほんまうち、あんたにあいたいわ。
――あわせてやろう、ルシィーリア。
あれはいま、一人でしごとをしておる。
使いを差し向け、妾の暗殺を依頼した。
そなたは妾のかわりとなれ。
そして、待つがよい。
“残念な王女の物語”につづく予定。
たぶん、これは王女の前世?
『転生した私はゴブリンのお手つきになっていた』
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