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介入の始まり


「いい上玉を連れてきたじゃねぇか。服は高く売れるし、容姿もいい。天辺から爪先まで金になるぞ」


「…………ふう」


「ん、どうしたシュレイド? 溜め息なんて吐きやがって」


「いや、何というか……感心してるんですよ、ボスに」


 なんとか警備員の追撃を逃れたシュレイドは、倉庫街の入り口付近で身を潜めていた他のメンバーと合流し『サハスラット』の根城である廃工場に戻っていた。サハスラットの名の通り、シュレイド達は定期的に住処を変える。今回派手にバレた為、近い内にまた別の場所に移らなければならないな、とシュレイドは考えていた。この廃工場は倉庫街から比較的近い。追手は撒いたとはいえ、油断はできないだろう。小さな油断により今まで幾多の犯罪グループが壊滅してきたのを、シュレイドは嫌というとほど知っていた。


 それよりも――シュレイドは隣に佇む少女を横目で見やる。

 あの時は暗くていまいち全体像が掴めなかったが、こうして間近で見ると際立った容姿をしていることがわかった。炎のように鮮やかな赤色の髪は自分が見てきたなかの誰よりも美しく、ルビーのように紅い瞳は誰よりも輝いてみえる。背格好から判断するに年齢は14、15程度だろうか。シュレイドは18歳なので年齢的にはあまり変わらないかも知れない。


「さて……名前がないお嬢ちゃん。いくつか質問があるんだが」


「ふぁ……何でしょうか」


 欠伸を一つして、少女はボスに返事をした。周りにいる数十人の部下は眉をひそめるが、ボスは何とも思っていないようなので特に行動は起こさなかった。犯罪グループ『サハスラット』の特徴は、ボスを中心に築き上げた結束力にある。ならず者が集まる組織を束ねることができるボスは、部下から多大な信頼を寄せられていた。2mを超える山のような体躯に、全身から滲み出る威圧感、そして鬼のような顔。犯罪グループの首領に必要なものを、ボスは全て備えていた。


 欠伸をした少女を見て、ボスは傷だらけの顔を崩して笑う。何本も抜けた歯を見せて笑うそれは、伝説上のゾンビのそのものだ。

正直笑った方が怖い顔になってますよボス、とシュレイドは言いたくなったが口をつぐんだ。ボスはああ見えて顔について指摘するとすぐにしょんぼりしてしまうのだ。


「おっと、悪いな。そういやもう午前4時か。日陰者の生活を続けていると、昼夜逆転が当たり前になっちまう。……おい、ベン」


 部下の一人であるベンがボスに向かって頭を垂れる。


「へい」


「宿直室のベッドメイクを頼む。嬢ちゃんはお疲れの様子だ」


「わかりやした」


「ってわけだ。嬢ちゃんは行く当てがないんだろう? 今日は泊まっていくといい。安心しな、若い奴らに手は出させねえからよ」


 色めきだっていた数人がすぐさま落胆の表情に変わった。当たり前だろうに、とシュレードは溜め息を吐いた。ボスがフェミニストなのは昔からだ。しかし、ボスも犯罪組織の首魁である。


「まあ、しかしだ。嬢ちゃんを助けた見返りってのもこちらとしては要求したいところだ。シュレイドからの話を聞くに、あのままだと嬢ちゃんは警備兵に捕まっていたからな」


「んー……いいですよー」


 少女は変わらぬ調子で相槌を打つ。それを聞くと、ボスはニヤリと口元を歪めた。やっぱり悪い顔の方が似合ってるよボス、とシュレイドはつくづく思った。


「じゃあ嬢ちゃんが着けてる宝石だらけのカチューシャを貰おうか」


「これですか?」


 少女は躊躇いのない動作でカチューシャを外し、目の前のボスに手渡した。


「はいどうぞ」


『マジで!?』


 サハスラット全員の声が工場内に響いた。


「はい本当です。私には必要のないものですから」


 当の本人は何でもないかのように微笑んでいた。シュレイドは内心こうなるのではないかと思っていた。あってまだ数刻しか立ってないが、この少女はどこか浮世離れしている。なんというのだろうか、人間味が感じられないのだ。でなければあんな高価なカチューシャをおいそれと手放すはずがない。


 少女は全員が静まったタイミングを見計らって口を開く。


「その代わり、一つだけお願いがあります」


 その時、チラッと少女がシュレードに向かって笑った気がした。


「私の目的のお手伝いをしていただきたいのですが」


「目的……? それはいったい?」


「勇者の捜索を手伝ってください」


 勇者の――――?

 工場内にどよめきが走った。無理もない。最初聞いたときはシュレイドも怪訝に思ったのだ。勇者を見つけろ、なんて伝説上の生き物を見つけろなんて言っているのと同義だ。いや、それよりも見つかる可能性は薄いかも知れない。


 ボスはしばらく目を伏せて考えていた。やがて口を開き、


「……わかった。最低限、やってみよう。この宝石のカチューシャに比べればやすいもんだ。しかし、保障はできんぞ?」


「はい」


「一応聞くんだが、嬢ちゃんは勇者を見つけてどうしたいんだ?」


「言えません」


 今までの少女の口調とは違う、きっぱりとした物言いだった。ボスは何か言いたげだったが、追求はしなかった。


「……わかった。じゃあ、今日はゆっくり休んでくれ。お前らも今日はこれで解散だ」


 ボスの合図により、今日のミーティングは終了となった。少女は部下の一人である女性に寝床まで案内される。


 シュレイドはそんな少女の後ろ姿を見送り、あることに気付いた。

少女の長髪に隠れる形で、白い布に巻かれた棒状の物を背負っているのだ。長さから推測するに、剣の類だろうか。



 勇者を捜す少女。彼女の目的は何なのか。

 シュレードは少女に対する興味が尽きることはなかった。


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