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彩色の欠片  作者: 奇逆 白刃
9/22

灰狼襲来

その日は、突然にしてやって来た。

七月二十日、一学期終業式。

一か月前の時の様に。

それは、突然にしてやって来た。


「くぉら、てめぇら!!チャイム鳴ってんのに何で座ってねぇんだぁ?ああ゛ん??」

八純先生の怒号が飛ぶ。怒号というよりは、いや、どうみてもヤンキーのカツアゲだ。

さすが、虹色ヤンキー。感嘆感嘆。

「とにかく!てめぇら今から校内三十五週全力疾走!免除されたきゃ指一本と引き換えだ!始め!!」

ドタバタと、怒られた男子達が走って行くのが見えた。

まぁな。走りたくないが為に指を切って渡す人はいないわな。

ドアからお馴染みの髪の毛が見え、そして怒りに身体を揺らすその姿が現れた。

先生はあたし達を一瞥し、腕を組んで黒板に寄りかかる。

「とっとと全校集会に行け、と言いたい所だが」その言葉に、早くも席を立った数人の男子(良輔もその内の一人だ)が、すごすごと席に戻る。「転入生だ」

……!?

転入生!?この時期に?

しかも、夏休みの前日に?

「時間が無い、入れ」

朝っぱらから(可哀想な事に)先生に怒鳴られて入って来たのは、またしても男子だった。

髪は黒く、整った顔立ちをして僅かに微笑んでいる。一見、どこにでもいそうな中学生だ。

だが、特徴的なのはその眼。

その色は、艶めいた灰色だった。

恵人の様に、カラコンを入れている訳じゃ無い。これは、地の色だ。

そして、全身から妙な気配を放っている。

これは……獣の様な。

偶然山で出会ってしまった、飢えた野犬の様な。

あるいは……つい数日前に見た、黄金の狼の様な。

獣、だった。

「狼灰爪輔、です」

先生が書き殴った字と共に、その少年は名乗った。

「おれの事は呼び捨ててくれていいです。皆、宜しくお願いしますね」

笑って開けた口から見える犬歯は、異様に鋭い。


朝の会、そして全校集会終了後。んで、休み時間。

あたしの前に座った(何故かあたしの周りだけ空席が異様に多い)爪輔の肩を突く。

「ねーねー」

「えっ?……ああ。どうしたの、夏音……ちゃん?」

「夏音で良いよ、夏音で」

「あっ、ああ。それで、何?」

「家で、犬かなんか飼ってるの?」

唐突なこの質問に、爪輔は一瞬動きを止めた。たぶん、考えているのだろう。

「あー、うんまぁ、飼ってる……かな?悪い、臭ったか?」

うわ、怪しいー。何だこの曖昧さは。

いや少しだから、とあたしは首を振り、今度は後ろを向いた。爪輔に聞こえないよう、声を潜める。

「恵人、あんたはどう思う?」

「何がだよ」

「爪輔の臭いについて。てか、気配に付いて。獣みたいじゃない?」

「ああ。……それと俺な」

「うん」

「この臭い、どっかで嗅いだ」

嗅いだ?いや……まぁ犬を飼ってるんならこれ位の臭いはあってもおかしくないか。放し飼いなのかも、うん。きっとそうだ。

いや、そうなのか?

さっき、明らかに嘘っぽい口調だったじゃん。

「犬にしても微妙とはいえ、全部の個体が違う臭いを持ってるんだよな。それに、人間の体臭と混ざれば臭いだって変わる。……だったら、どこで嗅いだんだ?……おかしい、会った事は無い筈なのに」

あ、恵人が思考モードに入った。

うーん。まだ答えを聞いて無いのにな。

て事は爪輔、前に一度恵人と会った事があるのか?

……いやいや。会った事は無いって恵人自分で言ってたじゃん。

じゃあ何で?

本当に犬を飼ってるのか……いや違う。だったら爪輔のあの答えはおかしい。

というより恵人、どうやら本当に爪輔の臭いを嗅いだ事があるらしい。

あいつの嗅覚は馬鹿にならんからな。


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