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彩色の欠片  作者: 奇逆 白刃
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失踪通達

運命恵人には、四人の兄が居るという。

上から順に、健人、優人、啓人、直人。

全員で同居しているのかとも思ったがそうではないそうだ。 

長男、健人は大阪でバイト。

次男、優人は驚くべき事に、アメリカの超有名研究開発機関、Dynamic Radiant Generate Novelシステム(通称:ドラゴン)の実質最上位権威者として君臨しているそうだ。

三男、啓人は音信不通、行方不明だが、生まれつき生命力が強い男なので、きっとどこかで生きているだろうとの事。

そして、四男、直人と末っ子である恵人だけが同居しているそうだ。

両親は、恵人が五歳の時に二人共交通事故に遭って亡くなった。


と、言う事を。

七月十日午前十時十二分、あたしは夢うつつに訊いていたのだった。

「……い、いやいや、ちょっと待てよおいっ!」

跳ね起きる。側頭部が何か柔らかい物に当たった。

「ぐがっ」

声のくぐもり具合からして当たったのは誰かの顔面だったらしい。いやぁ、悪い事をしたなぁ。

「……じゃなくてですね。一体誰が話してるんだというより誰に当たったんだあたしは」

レイムは、間違ってもそんな事は知らないし、独り言でそんな事は言わない。加えて、今当たった顔面はどう判断しても人間の物だ。しかも、会話は明らかな男声ボイス……

……と、すると。

恐る恐る、今まで寝ていたあたしの頭があったであろう場所に目を落とす。

そこには、レイム以外の人間の膝があった。

続いて、首を約百二十度程左回りに回す。ギリギリギリ……と骨が鳴る。


そこには。

能面の様な表情で。

眼を射る様に鮮烈で鮮やかな緑の。

人が、居た。

「け、けいっ……」

あまりの動転に、呂律が上手く回らない。

何の感情も浮かんでいない瞳が、あたしを見る。

「やっと起きたか。眠り姫の生まれ変わりかと思ったぜ、ったく」

そしてようやく、口を開いた。

鼻の頭だけが、少し赤い。


「恵人……何で、ナンデアタシハアナタノヒザノウエデネムッテイタノデショウカ?」

「全然起きねぇから。この兄ちゃんがさっきからずっと呼んでんのによ」

『そうですよ。しょうがないからぼくがはなしのおあいてをしていましたが……では、これでぼくはしつれいします。なつねさんもおきたことですし』

「おう。あんがとよ、レイム」

レイムが出て行って、部屋のドアが閉まる音がした。足音が遠ざかって行く。

「レイムってさ」

恵人はそうポツリと呟いた。

「ん?レイムがどうかしたの?……あ、人間っぽくないなってのは無しだよ。あんなんだけど一応人間外の立場ではあるからね」

「違げーって。んなことじゃねぇよ」

「じゃあ、何?」

ああ、と恵人は遠くを見る様な目つきになった。「なんか…似てる」

「似てる?」

「そう。……優人に」

優人……って事は、次男だな。

ああ、あのドラゴン最上位権威者か。凄い人ね。

「恵人さ。その優人ってお兄ちゃんに脳味噌少し持っていかれたんじゃないの?」

「間違いねぇよ。二分の十位は持ってかれたな」

「何個あるんだよ」

どんな構造してるんだ。

「でも優人は、今年の五月にドラゴンから抜けたんだぜ」

「はぁ?何でよ」

「分かんねぇよ、そんなもん。今は日本に戻って、教育委員会で仕事やってるってよ」

「……へぇ」

世の中には色々な人が居るもんだ。

あたしだったら、間違ってもそんな地位を投げ打とうなどとは思わない。

「でもさ。レイムはそんなに賢くないけど」

「そこじゃねぇ。口調とか、物腰とか。優人あいつ、めちゃくちゃ躾が良いもんでさ」

思うなら見習えよ、恵人……。

あたしが言う事でも、ないけどね。

「さて、と。雑談はこれ位にして本題に入るが」

恵人があたしの方に向き直った。

「俺達の話、聞いてたか?」

「うん。まあ取り敢えずだけどね」

「よし。夏音、折り入っておまえに協力を願い出たい」

「え……っと。はあ、まぁそりゃあ、何なりと」

「じゃあ、単刀直入に言うが」


あ……何だろう。

なんだか今、凄く嫌な予感がした。

この言葉を聞いた瞬間、とてつもない運命に巻き込まれてしまいそうな、そんな感じ。

しかし、もう遅い。

恵人の開いた口を、押し留めることは出来ない。

言葉が飛び出す。

空気の波を伝わって、あたしの耳に入り、鼓膜を震わせる。

震わせた声が信号となって脳に伝わり、改めて声という音に変換される。

瞬間感じる恐怖。

逃げられない罠に捕らわれた様な。

そうだ、逃げられない。

あたしは今、完全に、捕まってしまった。


「直人が……消えた」


あたしの諸器官さえ狂っていないのであれば。

それは確かに。

そう、聞こえた。


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