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咲かせ屋  作者: 玖龍
最終章
36/37

桜と月

今日こそ最終回です……嘘。


プロローグがないのにエピローグがあるというなんとも不思議な小説です。

 「準備が出来ました」

 正徳に向かって尼僧が恭しくお辞儀をする。

 それを見た、正徳は満足そうに笑顔で頷いた。

 「さぁさぁ、わしが小さいころから育てた、亜里菜がどんなに綺麗になったか見て」

 「いや、佐之助が先だと思うぞ、じいさん」

 颯介がしれっとツッコミを入れる。

 「なんじゃと!?颯介の分際でわしに命令するのかっ!」

 「いやぁ……じいさん、諦めろ☆」

 くぅ……っと唸って正徳は颯介を睨みつけた。


 「まぁ、いいじゃないのさぁ。そこの坊さんはあたしを育ててくれたんだ。いわば……父さんみたいなもんさ。とくと見ておくれ、お父さん(・・・・)

 襖がすぅっと開く。

 

 そこから白無垢姿の亜里菜が現れた。

 おぉ……っと歓声が上がる。


 真っ白に白粉を塗り、普段の亜里菜とはまた違った魅力があった。

 はっきり、一言で言うと……「美しい」

 気の利いたことを言おうったって、咄嗟には出てこないものである。


 「どうだい」

 亜里菜はにやっと不敵に笑ってみせた。

 「むぅ……わしがあと40歳若けりゃなぁ……」

 「おいおい……あんた自分が坊さんだって自覚ないだろ」

 颯介がぼそっと呟くと正徳に思いっきり叩かれた。

 

 ちぇっと舌打ちをすると、颯介は別室で着替えていた新郎、佐之助を呼びに行く。

 「おい、佐之助!亜里菜の方は準備できたぞ!」

 「わ、わかってるさ!」

 「……今、言ったばかりなのになんでわかってるんだよ!」

 「そ、颯介……!」

 「とりあえず中入るぞ」

 返事も待たずに颯介は中へ入る。

 

 こちらは随分早く着替え終わっていたようだ。

 

 佐之助は元がいいからか、きちっと正装した姿はなかなか美男子に見えた。


 きっと亜里菜とはお似合いの夫婦になるに違いない。


 そう思うと、なんだかホカホカとした温かい気持ちになった。


 「な、なぁ……おかしくないか?」

 少し顔を赤くしながら佐之助は小声で言う。

 「何が?」

 「お、俺が……」

 ここで冗談を。

 「え、お前が?少なくとも俺がお前に出会った時からお前はおかしかったぞ(笑)」

 からからと笑う。だが、佐之助は全然笑っていなかった。

 「そ、颯介……お前はいつもそうだったな……!人がかなり真剣なのに……!」

 「冗談だよ、冗談!お前も変わらんなぁ。昔っから冗談が通じない固い奴だったよ。それが……あんな美人さんを貰うだなんて……!」

 そう言うと佐之助はさっと顔を赤くする。

 颯介はにっこり笑うと、

 「大丈夫だよ。はっきり言うとめちゃくちゃ似合ってる。かっこいいぜ……亜里菜と幸せにな」

 ぽんぽんっと佐之助の肩を叩いて、颯介は退室した。



 「ねぇねぇ!佐之にぃ、どうだった?」

 鈴がたたたっと走ってきた。

 颯介は笑顔で、いい旦那さんになれるぜ、と言っておく。

 すると鈴の顔に満面の笑みが広がった。

 「よかったぁ……亜里菜ねぇも幸せになれるね」

 うふふっと笑って、鈴は颯介の手を取って急に走り始めた。

 もちろん、颯介も引きずられる形で走り出す。

 「お、おい、鈴!どこ行くん……だ……?」

 

 寺の入り口まで連れてこられる。


 そこにいたのは……笑みを浮かべる江奈とあのフェリス神父だった。

 


 「颯介サン、お久しぶりデス」

 帽子を脱いで、軽く頭を下げる。

 「さぁ、中に入って、フェリスさん」

 江奈は彼を中へと誘導する。

 

 ……途中で颯介が止めた。

 

 「な、な、なんでここにいんのっ!?」

 フェリス神父は、おやっという顔で颯介を見る。

 「私デスカ?鈴サンと江奈サンに招待されたのです♪今日は亜里菜サンと佐之助サンの結婚式デスカラ」

 「お、お前らか……!」

 颯介は口をパクパクさせながら、得意満面の鈴と江奈を見る。

 「まぁ、細かいことは気にしないの、颯さん♪」

 鈴は江奈と共にフェリスを中へとひっぱっていった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「亜里菜ねぇ、佐之にぃ、結婚おめでとう!」

 

 神前式を終えた2人は、さらにフェリス神父による西洋式の結婚の儀を受けた後、近所の人々にお祝いの会を開いてもらった。

 

 「ありがとう、みんなぁ……」

 亜里菜は感激して泣きだした。

 佐之助はそれを微笑ましく見ている。


 「まぁな、これから2人は支え合って生きていかなきゃならんのだよ。特に佐之助!お前は亜里菜を泣かしちゃダメなんだぞ!!」

 「ねぇ、亜里菜ねぇもう泣いてるよ?」

 「あ、ホントだ!!佐之助サイテー」

 「そ、颯介……!お前、これが終わったら絞めてやる!」

 「あら、嫌だ、佐之助さん。冗談はよして(笑)」

 颯介がそう言うと、会場は笑いに包まれた。


 夜通し行われた宴会。


 みんな酒に酔って、時が経つにつれて大きな騒ぎとなっていった。



 颯介はひとり、酒を手にふらふらとどこかへと歩いていく。

 

 そして満開に咲く、桜の木の元へ腰を掛けた。

 

 「ありがとね、颯さん」

 「うわ、びっくりした!」

 後ろから突然亜里菜が声をかける。

 びっくりした颯介は立ち上がる。

 くすくすっと亜里菜が笑い、颯介の手から酒の入った瓶を奪う。

 「あっ!」

 「呑みやしないよ……さぁ、どうぞ」

 とくとくと颯介の持つ器に酒を注ぐ。

 「ありがとよ……」

 「颯さんこそ、ありがとね……おかげであたし、幸せだわ」

 「そりゃそうかい、良かった良かった」

 ごくっと一気に飲みほすと、颯介は続けた。

 「佐之助は固い奴だが、いいやつだ。真面目だし、優しいし……きっとお前も幸せになれるよ」

 「そうだといいんだけどねぇ」

 あははっと亜里菜は笑うと、じゃあね、と立ち去ろうとした。

 「ちょっと待て……これ、結婚祝いだ」

 「まぁ!」

 そこには大輪の美しい花があった。

 「たまには、俺にも仕事がないとな」

 そう言って、すっと亜里菜の髪に差してやる。

 「そ、颯さ」



 「あ、亜里菜ねぇ浮気だー」


 さらにびっくり。


 声がした方を見ると、鈴、沙耶、江奈、そしてフェリスがいた。


 「びっくりさせんなよっ!!」

 「あはは~」

 笑いながら鈴が颯介の背中に乗る。

 「みんな……ホントにありがとう!」

 亜里菜はひとりひとりに抱きついていく。

 「フェリスさんもよく来てくださいました」

 「いえいえ、とんでもありまセン!亜里菜サンの幸せを願ってマス」

 「ありがとう……ございます」

 


 そうしているうちに佐之助もやってきた。

 「お、美男子新郎のお出ましだ!」

 颯介がそう言うとみんながあははっと笑う。

 佐之助は肩で息をしながら、輪に加わる。

 「颯介……ありがとう!」

 「お、お前もかっ!!」

 「は?」

 「いや、こっちの話だ」

 「はぁ……」

 佐之助が不思議な顔をする。


 「見ろ、桜もお前らを祝福してるぞ!良かったな、亜里菜、佐之助!!」

 颯介が指さす方向を皆が見る――――今日は満月。満開の桜と金色の月に見守られ、7人は笑顔で今日という幸せな日を過ごした。


 (またいつか……この仲間で旅をしたいな)


 そう思いながら颯介は眼を閉じた。

 

 

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