感謝の祈り
これで終わるかなぁ……と思いつつ書いてたら、終わりませんでした(笑)
「はぁー……」
短い金髪の外国人がため息をつく。
そして、手元にあった十字架を弄る。
「神よ、やっぱり私はあの人たちの元へ戻ることはできないのでしょうか……?」
そう異国の言葉で呟いた。
「ブラザー・フェリス、起きてますか?祈りの時間ですよ」
コンコンッという軽いノックの音がして、若い男の声が聞こえた。
やれやれとため息をつき、異国の男――――フェリスは扉へと向かった。
「わかってますよ、ブラザー・シモン」
ガチャッと扉を開けると、神父服を着た若い男が立っていた。
「どうしました、ブラザー?最近あまり元気がありませんね」
「えぇ、まぁ……」
「どうしたのです?まさか、ホームシックですか?……大丈夫ですよ。国王陛下もご心配されていらっしゃるようだし、もうすぐモルア司祭によって定められた任務期間も終わります。そうしたらあの懐かしい教会に帰れますよ」
そうシモンはニコッと微笑みながら言うと、「さぁ、行きましょう」と礼拝堂の方へと歩いて行った。
「ホームシックなどではないのです……」
そうフェリスは悲しそうに呟くと、シモンの後を追って、礼拝堂へと歩みを進める。
「「すみませーん!!」」
入口の方から可愛らしい少女の声がする。
普段人の訪れないこの小教会に、この日ノ本で陰ながら主を崇める家族が来たのかもしれない。
「はーい!今行きますカラ」
慣れた母国語とは違う、不自然な日本語を使って返事をし、フェリスは入口の方へと颯爽と歩いていく。
「おはようございま……あれ?鈴サンと江奈サンじゃないデスカ?」
そこには、はぁはぁと肩で息をする鈴と江奈の姿があった。
どうやら2人は走ってきたようだ。
フェリスは不覚にも、うるっと来た。
この教会の位置を教えていないはずなのに、探し当てた2人。自分に会いに来てくれたのか……!
そんな感動を一旦胸にしまい、フェリスは尋ねる。
「どうしたのデスカ?こんな朝早くカラ?」
困り顔で質問したフェリスとは正反対に満面の笑みで2人は言う。
「亜里菜ねぇと佐之にぃが結婚するんだよ!」
「それで近々結婚の儀を執り行うから、フェリスさんにも来てほしいの!」
「ほ、ほんとデスカっ!?」
フェリスも思わず頬を緩ます。
なんたって、これまで短い間ではあったが行動を共にした、亜里菜と佐之助が結婚するのだし、再びみんなに会える!
嬉しいことだらけだ。
「どうしたのです、ブラザー・フェリス?」
自分の後を付いて来ない、フェリスを心配して、騒がしい入口へとシモンがやってきた。
普段、「質素・貞操・服従」を掟に生きる彼らとは全くもって縁のない「騒音」に少しばかり眉をひそめていた。
そして、目の前の少女たちを見て、さらに眉をひそめる。
「ブラザー。彼女たちは一体誰なのです?」
嬉しそうにフェリスは答える。
「前に話したでしょう?あの『神の使徒』とその仲間たちについて。その仲間たちのうちの2人です。こちらが鈴さん、こっちが江奈さん」
「あぁ……あのおてんば娘と、大名の娘か」
「ブ、ブラザー・シモン……」
薄い茶色の目で2人をじろじろと見る。言葉が分からないのをいいことに、テキトーなことを言っているシモンに少し愕然とした。
一方、目の前でフェリスと見たことの無い異国人が、聞いたこともない言葉で喋ってるのを見ている鈴・江奈も困惑していた。
鈴が江奈の着物の端を引っ張る。
「ねぇねぇ……この人、誰?」
「わ、私も知らないわよぅ」
「というかフェリスさんにはもう要件伝えたからいいんじゃないの?」
「そ、そうだね……でも日時とか言ってないよ?」
「むぅ……」
唇を尖らせた鈴。それを見て、江奈はさらに混乱する。
(ど、どうすればいいの!?)
そんな様子にフェリスが気づいたのか、声をかけてきた。
「どうしまシタ?」
しどろもどろで江奈が言う。
「え、えーっつとぉ……場所はわかりますね?あのお寺です。あと、日時は……明後日のお昼です!」
「ブラザー。彼女は何と言っているのです?」
「え……詳しいことは後で説明します」
「用件は済んだのですか?」
「そ、そうのようですね……」
「では、私たちは祈りに行きましょう。何かはわかりませんが、私たちの一番の仕事は神への奉仕です。祈りは欠かせませんよ?それに他のブラザーたちも待っておられる……急ぎましょう」
「と、というわけで、鈴サン、江奈サン、また明後日お会いしまショウ。楽しみにしてますネ」
「「は、はいっ!!」」
元気よく返事をすると、2人は走って元来た道を帰って行った。
その日の祈りの時、フェリスは再びあの仲間に見えることを主に感謝した。
「ブラザー」と書くのが地味に楽しかったです←