約束
微妙過ぎるこの空間。
何がしたい……俺……!
そっと重ねた人差し指。今思えば小指がよかった。その行為がどれほどの危険を孕んでいるか……!
……いけねぇ、俺まで可笑しくなったみたいだ。
あの、ちょっとイカれた佐之助のようだ……
「あ、そうだ」
ぱっと手を離すと、慌てて身支度を整える。
江奈はその様子に首をかしげた。
「何してんの?」
――――これは、江奈にも言っておかなければならない。面白いから。
そう思い、颯介は口早に説明する。
「佐之助が亜里菜に……」
ここまで言って思いとどまる。あとで驚かせようと思い。
「……?告白?」
江奈が正解を出してしまったので、ガクッとくる。
……ここまで言えば、当たり前か。
「あぁ、そうらしい……本人はまだ踏ん切りがついてないみたいだがな」
「へぇ……いや、ぶっちゃけ亜里菜さんも同じ気持ちだろうけどね」
聴いちゃった、重大事実。
止まらないにやにやを抑えたまま(いや、この表現はおかしい)、颯介は江奈に続きを促す。
「だって、女の子だけのとき亜里菜さんはぽーっとしたまま、佐之助さんのいる方向をちらちら見てるし、この間もじーっと後ろから佐之助さんのことを見てたし……」
そう言われて、颯介は昔を思い出す。
佐之助がいいところの里子になったとき。
――――亜里菜はわんわん泣いていた。
そういえば佐之助に貰った花(の残骸。もう既に枯れて原形を留めていなかった)を大切に取ってたっけ。
それをその日も大切に持っていた。
そして去りゆく佐之助に叫ぶ――――お嫁さんにしてくれるって言ったのに、って。(そしてその後、俺は亜里菜に振られた)
佐之助に再会した時、平手打ちしてたが……まさか覚えているとはな。
「……10年の時を経てってやつか……」
ふーんと小さく首を揺らしながらにこにこする。
いや、めでたいことだ。もちろん。
「……で、そ、颯介はす」
「えー!!!!うっそー!!」
江奈の言葉は外の騒ぎにかき消された。
「な、なんだ!?」
颯介は急いで襖を開ける。
そこには顔を真っ赤にしたまま硬直する亜里菜、絶叫する鈴、大きく目を見開いている沙耶……それに向かい合う形で佐之助が立っていた。
「い、今……なんて言ったんだい……?」
亜里菜はひきつった笑顔を浮かばせたまま、佐之助に訊ねる。
「……は、恥ずかしいだろ!もう一回言わせるなよ!!」
亜里菜より顔を赤くしながら佐之助は……言った。
「……あの時の約束を果たす時が来たと思うんだ……」
末尾はごにょごにょと小さくすぼむ。
そして俯いて……大きく息を吸い込む。
にやにやと佐之助を見守る颯介。
颯介とは対照的に、ごくっと固唾を呑んで見守る江奈。
そして――――
「お、俺の“お嫁さん”になってくれないか……亜里菜」
……い、言いやがったあいつ……!
江奈と顔を見合わせる颯介。2つの顔はにっこりとなった。