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咲かせ屋  作者: 玖龍
最終章
31/37

巡るもの

 正徳の部屋に招き入れられた颯介は、それが当たり前であるかのように床に座った。

 正徳本人はガサゴソ手紙を探している。


 「……おぉ、あったあった」

 住職にしては物が多すぎるような気がしないでもない机の上から1つの封筒を取り出すと、微笑を浮かべた。

 そのまま既に座っている颯介の元へ歩いていく。



 座っている颯介の顔は心なしか青かった。

 それを見て、正徳はさらに優しく微笑んだ。

 「ほら……手紙じゃよ。……おまえの気持ちがわからんでもないが、もう子供じゃないんだぞ?」

 「わかってる……わかってるけどよぉ……」

 差し出された手紙を受け取ろうともしない。

 手はぎゅっと握りしめたまま膝の上に置かれている。



 そして……しばらく迷ったあげく、そろそろと手紙を手にした。

 その行動に満足そうに頷く、正徳。

 少し躊躇った後、颯介は懐に手紙を――――震える手で入れた。

 「じぃさん……その……」

 「なんだ?」

 伏し目がちな颯介。絞り出すように言葉を紡ぐ。

 「その……あの人(・・・)に会ったんだろ……そ、その……」

 「あぁ、お葉(およう)さんにだろ?もちろん会ったとも」


 お葉……それが颯介の実母の名前だった。しかし颯介はそれを最近知った。


 別れた時はあまりにも幼くて、母親の名前さえ知らなかった。知る必要もなかった。

 その後もただ「母ちゃん」と呼んでたし、次第にそれさえも呼ばなくなった。

 仕事が忙しいとのことで会いに来る回数も減り、いつしかこういう手紙形式になったのだった。

 

 実はそれさえも最近知ったことだった。

 しかしそれは正徳なりの配慮で、颯介に渡すべきではないと思い、大切に保管していた。(颯介が受取った手紙を焼き芋の落ち葉代わりにして読まずに捨てた、というのは正徳には知られていない)

 

 だんだんと手紙の回数さえも減り、いつしかピタッと来なくなった。



 颯介はそれでいいと思った。

 忘れたいと願った母と関係を断ち切れる……それでいい、と正徳にも言ったことがある。



 でも忘れたいなんて嘘だった。

 忘れられない、の方が正しいのかもしれない。


 恋しくないはずなんてない。

 この寺には似た境遇の子供たちがたくさんいるが、一歩外に出てみれば貧しいながらも家族で幸せそうに暮らす子供たちを見て、なんど唇を噛んだことか。


 里親が決まった時は本当に嬉しかった。

 自分にも家族ができる……そう思うと胸がいっぱいだった。




 そして今日に至る。


 久しぶりに貰った手紙。

 直接渡しに来たという。自分が留守だったために会うことはできなかったが……正徳は会ったという。



 「ど、どうしてるって……?」

 「さぁな、手紙に書いてあるんだろう……でも、結構貧しい暮らしをしているとようだぞ」

 「そうなのか……」

 「色街で働いてたとか」

 「!!」

 颯介の眼が大きく見開かれる。

 そんな彼の様子を見て、正徳は笑う。

 「心配せんでも売女(ばいた)じゃないと。下働きだったようだ……今はもう辞めたらしいがな」

 「……当たり前だろ」

 颯介はまた、視線をそろそろと膝へ戻す。 


 

 「なんだ、結局心配なんじゃないか」

 「……ま、まぁな」

 「だったらせめて手紙ぐらい読んでやれ……それがおまえにできる親孝行じゃないのか」

 ははっと笑って、正徳は震える颯介の拳を優しく包んだ。

 おもむろに颯介が顔を上げる。


 ――――その眼にはうっすら涙が浮かんでいた。


 そして小さく頷く。


 

 もう暗くなり始めた外で、今預けられている子供たちがキャーキャー言いながら遊んでいた。

……なんだか納得がいかない……(汗)

納得いかないシリーズですね(汗)))

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