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咲かせ屋  作者: 玖龍
最終章
30/37

想いの行方

 「……はい?」


 いやいや、待て待て待て。こいつは俺の知ってる佐之助じゃない。きっと、しばらく見ぬ間に頭が違う方向に成長してしまったんだ、きっとそうだっ!!  


 ひとり悶絶していた颯介はちらっと前方を見る……そこには答えを今か今かと待っている佐之助がいた。


 若干顔を引きつらせながら言った。

 「いやぁ……どうかね?おまえがいなくなってから寄ってきた男は何人かいるんだが、俺の知るかぎりでは……この先は言わせるな(はぁー)」

 「じゃ、じゃあ今は……?」

 ごくっと唾をのむ。

 「……お!?思い出したぞ!唯一亜里菜と仲良くしてた男をなぁ!!」

 佐之助の顔がさっと青ざめる。

 「だ、誰だっ……!?」

 ニヤニヤしながら佐之助を見つめる。

 そしてすぅっと息を吸い込んだ後、

 「おまえだよ、佐之助」

 「……は?」

 かなり呆けたような顔で颯介の顔を直視する彼。

 

 当然かなりの空白があるし、別れ方も別れ方だったので無理だとは思っていた。

 それに亜里菜は美人だから、男のひとりやふたりいてもおかしくない。

 自分のことなんて、きっと忘れてる――そう諦めてた。


 しばらくするとふにゃふにゃっと床にへたり込んだ。

 

 「どうしたー、モテモテの佐之助さーん(笑)」

 茶々を入れる颯介をキッと睨む佐之助。

 「颯介……!」

 「いいんじゃねぇの?お似合いだぜ、おまえら」

 「!?」

 さっきまで青ざめていた顔が、うって変わって熟れたリンゴのように赤くなる。

 「し、しかし、亜里菜にも想い人がいるのでは……!」

 「さぁ、知らね。でも、それはないんじゃないの?」

 「な、なぜ……?」

 呆れたように頭を振る。


 「亜里菜……ずっとおまえのこと追いかけてるぞ」



 「……!」

 「まさか気づいてないとはな」

 ししっと笑う。そして未だ床にへたり込んでる佐之助の肩をポンポン叩く。

 「早くしろよ?大事な(・・・)亜里菜がほかの男に取られちゃうぞ?」

 「……っ//」

 さらに顔を赤らめる佐之助。


 しばらく考え込んだ後、佐之助は「また考えておく……」と依然顔が赤いままで部屋を出て行った。




 「……ふぅ、いつまでもあいつは純情君だなぁ……ははっ」

 彼が去った後の襖を見て、くすくす笑う。


 そしてはぁーっと深いため息をつく。

 

 「そろそろ……取りに行くか」

 あの手紙を。

 よいしょっと立ち上がり、半開きにされた襖から部屋を出て行く。



 向かうは……住職(正徳)の部屋。


 そこに(自分を生んだ女)からの手紙がある。



 ゆっくり、ゆっくり、しかし確実に進んでいく。

 反対側の部屋――女子の部屋からは笑い声が聞こえた。

 向こうの部屋からは読経の声が。

 

 でも廊下には人っ子一人いない。

 

 隔絶された自分。


 一歩踏み出す度に心臓が早鐘のように打つ。


 

 何が……待っているのか……?




 「颯介、ぼーっとするな。邪念を捨てろ」


 無意識のうちに下げていた顔をはっと上げると、そこには正徳がいた。

 彼がニヤニヤしているのは錯覚だろうか。

 「遠くから見てると……幽鬼みたいだったぞ」

 「う、うるさい……俺だって真面目に考え事してるんだよ」

 恥ずかしそうに上目遣いで見る。


 「手紙を……取りに来た」

 そうぼそっと言うと、正徳が入りなさいと部屋へ招き入れた。  

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