想いの行方
「……はい?」
いやいや、待て待て待て。こいつは俺の知ってる佐之助じゃない。きっと、しばらく見ぬ間に頭が違う方向に成長してしまったんだ、きっとそうだっ!!
ひとり悶絶していた颯介はちらっと前方を見る……そこには答えを今か今かと待っている佐之助がいた。
若干顔を引きつらせながら言った。
「いやぁ……どうかね?おまえがいなくなってから寄ってきた男は何人かいるんだが、俺の知るかぎりでは……この先は言わせるな(はぁー)」
「じゃ、じゃあ今は……?」
ごくっと唾をのむ。
「……お!?思い出したぞ!唯一亜里菜と仲良くしてた男をなぁ!!」
佐之助の顔がさっと青ざめる。
「だ、誰だっ……!?」
ニヤニヤしながら佐之助を見つめる。
そしてすぅっと息を吸い込んだ後、
「おまえだよ、佐之助」
「……は?」
かなり呆けたような顔で颯介の顔を直視する彼。
当然かなりの空白があるし、別れ方も別れ方だったので無理だとは思っていた。
それに亜里菜は美人だから、男のひとりやふたりいてもおかしくない。
自分のことなんて、きっと忘れてる――そう諦めてた。
しばらくするとふにゃふにゃっと床にへたり込んだ。
「どうしたー、モテモテの佐之助さーん(笑)」
茶々を入れる颯介をキッと睨む佐之助。
「颯介……!」
「いいんじゃねぇの?お似合いだぜ、おまえら」
「!?」
さっきまで青ざめていた顔が、うって変わって熟れたリンゴのように赤くなる。
「し、しかし、亜里菜にも想い人がいるのでは……!」
「さぁ、知らね。でも、それはないんじゃないの?」
「な、なぜ……?」
呆れたように頭を振る。
「亜里菜……ずっとおまえのこと追いかけてるぞ」
「……!」
「まさか気づいてないとはな」
ししっと笑う。そして未だ床にへたり込んでる佐之助の肩をポンポン叩く。
「早くしろよ?大事な亜里菜がほかの男に取られちゃうぞ?」
「……っ//」
さらに顔を赤らめる佐之助。
しばらく考え込んだ後、佐之助は「また考えておく……」と依然顔が赤いままで部屋を出て行った。
「……ふぅ、いつまでもあいつは純情君だなぁ……ははっ」
彼が去った後の襖を見て、くすくす笑う。
そしてはぁーっと深いため息をつく。
「そろそろ……取りに行くか」
あの手紙を。
よいしょっと立ち上がり、半開きにされた襖から部屋を出て行く。
向かうは……住職の部屋。
そこに母からの手紙がある。
ゆっくり、ゆっくり、しかし確実に進んでいく。
反対側の部屋――女子の部屋からは笑い声が聞こえた。
向こうの部屋からは読経の声が。
でも廊下には人っ子一人いない。
隔絶された自分。
一歩踏み出す度に心臓が早鐘のように打つ。
何が……待っているのか……?
「颯介、ぼーっとするな。邪念を捨てろ」
無意識のうちに下げていた顔をはっと上げると、そこには正徳がいた。
彼がニヤニヤしているのは錯覚だろうか。
「遠くから見てると……幽鬼みたいだったぞ」
「う、うるさい……俺だって真面目に考え事してるんだよ」
恥ずかしそうに上目遣いで見る。
「手紙を……取りに来た」
そうぼそっと言うと、正徳が入りなさいと部屋へ招き入れた。




