文、そして相談
「俺に文?」
……恋文か?
そう期待した颯介だったが、その淡いものは儚く消え去った。
「いいや……お前の母さんからだよ」
代わりに到来したのは複雑な感情だった。
恐怖?
いや、違う。まぁ、開けたくないのは確かだが。
怒り?
どうして怒ってる?今更文を寄越したことにか?それとも……?
焦燥?
……おい、待て。焦ってどうする?……不安?
でもこれが一番近いかもしれない。
「なんで……今更……!」
顔を伏せ、押し殺したような声を出す。
自分が6つの頃、寺に置いて行った母。
今まで顔を出しに来たこともないし、文を貰った覚えもない。
『母親』という感覚よりも『自分を産んだ人』という感覚の方が強い。
所詮別の場所で異なった時間を過ごしてきた人だ。
今更自分には関係がない。
それなのに何故……?
「それは自分自身で確かめることではないのか?」
正徳は優しく微笑む。
江奈もそっと手を握ってくれた。
「……後で貰いにいく」
今はそう返すしかなかった。
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部屋で悶々と、寝転がって過ごしている颯介。
それを打破したのは、佐之助だった。
「颯介……入るぞ」
「あーどうぞー」
からからっと襖は開く。
「よぉ、元気か?」
「……さっき別れたばかりだろう?」
若干呆れ気味な佐之助の返答。
それに応えることもなく颯介は起き上がった。
「ん?アレか?相談とかナントカっつー」
「……まぁな」
恥ずかしそうに頭を掻きながら、襖を静かに閉めた。
「まぁ、座れや」
「言われなくても」
こころなしか顔が赤い。……ということは?
「なんだ、恋煩いか?」
一気に顔が赤くなる。図星。
けらけらと颯介は笑う。
それを悔しそうに睨みつける佐之助。
「で、相手は誰だ?亜里菜?沙耶?鈴……はないな。あんなガキ。……まさか江奈?」
「それはお前だろう、バカ」
頭に「?」がたくさん浮かんだ。一体何のことか……
理解しかねた颯介を無視して、佐之助は口を開いた。
「亜里菜……だ……」
「ほぅ」
実に照れくさそうな彼を再びからかうように笑った。
「お、お前に訊きたいんだが……!」
「何を?(ニヤニヤ)」
「亜里菜に男は……?」
「……はい?」
……こいつ、大丈夫か?