再び相見えるときまで
「やっと着いたか……ふぅ」
そんなに歩いていないはずなのだが、“俺は疲れたんだ主張”を始める颯介。
「ふふ、お疲れさんでした。どうぞ」
「お、気が利いてるね、お姉さん♪」
寺社前に『一銭一服』という形でお茶屋が開かれていた。
まぁ、この時代にはなんら珍しいことではない。
お茶を銭一文で提供するというだけの小喫茶。
うら若い女性が接客をしていたので、颯介は立ち寄った……という部分もある。
「あ、お茶屋さんだ!」
「何、鈴欲しいの?」
「ねぇねぇ、江奈も飲もうよ」
「ワタシも頂きマス」
……大盛況だな、おいと思ってみたり。
颯介はお茶を飲み干すと、女性に一文渡した。
おおきにぃ、と笑顔で返される。
彼がちょっといい気分になっていたとき、それは起きた。
「「「御馳走様ぁ」」」
「はいはい、おおきになぁ」
……飲み終えた“あずさ組”は白昼堂々と無賃飲食(正確には無賃飲)をやってのけたのであった。
しかし、女性の方もそれを咎めようとしない。むしろ笑顔。
「おい、お前ら金払ってないぞ!」
そう言うと、3人はきょとんとした表情で振り返った。
「え?颯介が払ってくれるんじゃないの?」
「……は!?」
亜里菜の爆弾発言に戸惑う颯介。すると追い打ちをかけるように、残り4人が立ち上がった。
「そうかそうかぁ……颯介、ありがたく御馳走になるよ」
「ふ、ふざけんなジジィ」
「颯介サン、御馳走様デス~♪」
「貴様、国に帰そうか?」
「……(ポン(笑))」
「……(ドカッ(蹴))」
「……あ、ありがとう」
「家に帰すぞ、こら(怒)」
「というわけで残り7文どすえ~(笑)」
あの人の良さそうな女性まで乗ってきた。ちゃんと笑顔つきで。
「……覚えてろよ……!」
懐から7文を取り出すと、7人を睨みながら女性に渡した。
……佐之助め。あいつなにやら相談があるとか言ってたな?俺様がいじってやろう
――そう決意した颯介だった。
「デハみなさん、ここでお別れデス」
突然フェリス神父が零す。
一服した後、普通に寺内に入ろうとしていた颯介たちは動きが止まる。
「……は?」
「ダカラ、私は仲間の元に帰りマス、っていうことデスヨ」
「ど、どうして……?」
江奈が心痛そうな声で訊く。
ここまで一緒に過ごしてきたのに……
というか向こうから寄ってきたはずなのだが……
ここに居ればいいのに……
そういう想いが頭の中をぐるぐる廻る。
「だって、私は神に仕える者デスヨ?お寺に居たらおかしいじゃないデスカ」
それに、と彼は続ける。
「仲間に黙って皆さんについてきたのデス。きっと彼らも心配していマス。だから、ここでお別れデス」
「……そうよね……神父さんだって一人で来たわけじゃないんだし……またいつか会えますか?」
江奈は彼の手を取って尋ねた。
フェリスはその手を握り返し、優しく微笑んだ。
「ええ、きっと。神が望むのならば」
そのあと、颯介たちの方に会釈をして彼はゆっくりと街道を歩いて行った。
みんなでその姿を見送った後、不意に正徳が言った。
「そうだ、颯介。お前に文が来てたぞ」
別れ方が単調で気に食わないです……でもどうしたらいいんでしょう?
……どこまでも他力本願な人間です←