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咲かせ屋  作者: 玖龍
江奈姫の運命
26/37

別れ

本題はすごく短いです。。

 「おい、なんで俺の部屋いるんだよ?」

 うぅー……というか左之助いねぇ。確かあいつと一緒の部屋だったような気がするんだけど。

 うぅー……頭痛ぇー……変な夢見たな。うん。くそぅ……ったっく……んだよ……はっ!さっきから同じこと言ってる!

 


 で、本題。


 目の前の江奈はなんだ?


 なんでこの部屋にいる?



 「ま、まさか……お前、よ」

 「違うわ、ドアホ」

 「痛ー!!」

 思いっきり脇腹を蹴られる。ぐはっ……寝起きにこれはないだろ……。

 江奈はふんっと小さく鼻を鳴らして、すっと横に膝をついた。

 「もう朝だし、颯介起きないし、左之助さんが『颯介、死にそうなんだけど』とか言い出すし。……で、あたしが来てやったわけよ!感謝しなさい!!」

 「別に頼んでね……い、いや、すみませんでした……ご迷惑お掛けしました……」

 お願いだから睨まないで。

 お兄さん、泣いちゃうかもしれない。

 ね、女の子は怖い顔しちゃダメなんだよ?

 え?なんだって??そんな顔してないよ?そう見えるのは、俺の心理を反映しているから?


 

 ……じゃなくて



 「ていうか、なんで左之助が来ないんだよ」


 すると江奈が挙動不審に陥った。

 顔が赤くなったり、青くなったり。「えぇーっとぉ……」とか口ごもり始めたし。


 「と、とにかく!は、早く起きて」

 「おう……いてっ」

 あぁ、あの夢の後遺症。頭痛。

 起き上がろうとしたら、ひどい頭痛が襲ってきた。

 それを察したのか、江奈が心配そうに顔を覗き込む。

 「颯介……?大丈夫?顔色が悪いわ……今気づいたけど」

 「今かよっ!遅いな……じゃなくて、平気だよ。これぐらい」


 嘘だけど


 まぁ、男がこんなことでどうするよ。

 あんな嫌な昔話ぐらいで。バカじゃねぇの?俺には何にも関係ねぇ。昔の話だ……あ?


 突然冷たいものが額に当てられた。


 ひんやりしていて気持ちよかった。


 ……って、これ江奈の手じゃねぇか……


 「うぅーん……熱はないと思うけど……薬師呼ぼうか?」

 「なんで薬師なんだよ。……というか何してんだよ」

 「ふえ?……い、あ、あのぉ……ご、ごめん」

 いや、全然大丈夫だよ。全く問題ない。

 「なんで謝んだよ?ありがとな。おかげで頭がすっきりした」

 はははっと笑って、江奈の艶々とした長い黒髪をくしゃくしゃっとしてやる。

 あ?折角梳いたのに何してんだよ?

 ……そんなの関係ねぇや。また梳けばいい話だろ?

 


 「失礼……しました」

 『颯介がいつまでも起きてこない&江奈が戻ってこない』ということで偵察に来たのであろう亜里菜が襖を開けて、閉めた。即効で。

 「もしもーし、亜里菜さーん?なんでしょうか」

 廊下の方に声をかける。

 しかし、無視された。

 「颯介……ちょっと」

 「あ?」


 俺(達)にしたら別に普通の光景でも、端から見たらこれは結構危なげなものなのだろう。

 (自発的に)膝に乗っている江奈と、その髪を撫でてる俺。

 江奈は顔赤いし、俺は笑ってるし。

 ここ……寝室だし。



 「何やってんだ、俺はっ!!……というか江奈!部屋帰れっ!!」

 「あ、亜里菜さんっ!!これは違うのですっ!!全部あいつが悪いのです〜!!」

 「何言ってやがんだよぉぉぉぉ!!」




******************************


 「では、お暇させていただきます」

 正徳じいさんは、ここの城主である、江奈の父親に言った。


 どうせ俺たちも行く先ないわけだし、一回育った寺に帰ってもいいかな?と思ったり思わなかったり。

 じいさんの後ろについてぶらぶら帰るわけだよ。


 「お、お父様……」

 「なんだ、江奈」

 もじもじとしながら出てきた江奈は、多分最後になる、別れの言葉を言おうとしている。

 そして上目遣いに父親を見て……

 「お体に気をつけて、お元気で」

 「言われずともそうするわ」

 バツの悪そうな顔で引き下がろうとする江奈を彼は止めた。

 「江奈。お前こそ元気でな……だが、二度とここには帰ってくるなよ」


 うわ、なんだそれ


 とどの詰りにフェリス神父があの『ナントカ教』の『ナントカ』のお話を始める。

 「江奈サン。聖書にはこんな一節があります……『心を尽くして父を敬え、母の産みの苦しみを忘れるな』『生きている間に彼を悲しませてはならない』……つまり『父と母を敬え』ということデス。これは『最初の掟』と呼ばれマス。子供としての責務デス。そうすれば天に居られる我らが父が、あなたを祝福されて幸福になることができるのデス」


 そんなんで幸せになれるんだったら、俺だってとっくの昔にやってるよ




 ……おい、江奈。泣くな




 「ふっ、その『ナントカ』というやつもいいこと言うんだな、はっはっは」

 芳明の笑い。

 いやぁ、親にしたらいいことしかないですからね、はい。


 「デモデスネ、お父様にも役目があるのデスヨ」

 「うん?」

 「『子供たちを怒らせてはなりません。主がしつけ諭されるように育てなさい』……江奈サンはとてもいい子ですから、お父様はこの責務を果たされたのデス」

 「そうか、そうか、はっはっは」

 さっきから笑ってばかりだな、おい。


 「では、これにて……僧侶としては違う宗教の話を聞くのは辛いですからな。はっはっは」

 「そうですな。ではまたいずれ」

 「江奈!!元気でね」

 


 いやぁ、江奈って幸せものだよ。

 風井家に仕える、あんなにたくさんの武士やら侍女やらに見送られ、たまたま家に帰っていた姉さんに幸せを願われて……そしてあんなに反目していた親父殿に泣かれて……



 「よかったな」

 ぽんっと江奈の頭を叩いてやる颯介だった。

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