最後の難関
お父様ぁぁぁ!
という感じです。。
「芳明様、客人をお連れしました」
「入れ」
女中の恭しい声に、ぶっきらぼうに答える男。
小さく、失礼しますと言ってから、襖を開けた。
奥には正座をしたまま瞑想している大柄な男がいた。
「では、私はここで」
じろっとこっちを見てから、彼女は襖を閉めていった。
それを確認したかのように男――風井芳明が目を開けた。
「江奈。久しいな」
「……すみません」
江奈姫がきゅっと唇を結んで言う。
満足そうに小さく頷くと、颯介たちの方に顔を向ける。
「おぬしらは?」
「江奈姫を京で保護しました、桜庭颯介と柳井佐之助です」
「女は?」
「旅の一座です。芸名で失礼。亜里菜と沙耶、鈴です。こちらの男は宣教師」
「フェリスと申しマス」
フェリス神父がペコッと頭を下げる。
しかし、芳明はフェリスを無視した。
「ほう。女は田楽でも踊れるのか?」
「一応ですけど」
「あとで舞ってみろ。酒の肴じゃ」
はっはっはと肩を揺らして笑う。
そして娘の方に向き直る。
「で、江奈。今回のことをどう責任取るつもりだ?」
「……私に何をしろと?」
江奈姫が眉をひそめる。芳明はぽいっと折りたたまれた紙を江奈姫の方に投げた。
「織田家から直々に使者が来て、手紙を置いていった。読んでみろ」
飛んできた手紙を開ける。女性の様な細い筆使いだが、意外と達筆。
「『たかが一人の小娘など、惜しむに足らず。嫁がずとも良い。好きにいたせ。……しかし然るべき償いは取ってもらう。我、天下を取らんとする織田信長の実弟なり。今回の由々しき事態、織田の名に泥を塗る行為である。貴殿は如何に責任を取られるか。よってここに記すは貴殿らの然るべき償いである。しかとお目通りいただきたい。
一つ、貴殿の一部の直轄地は織田家所有のものとする
一つ、我らに仇名す者の粛清、情けを掛けるべからず
一つ、戦乱の際、織田の家臣として働くこと
右、必ず遂行すべき。もし裏切るようなことをすれば、風井滅亡は免れぬ。貴殿など恐るるに足らず。 丹波国柏原藩主 織田信包』
……なにこれ?脅迫文じゃない……!」
「お前の招いた災いじゃ。もう風井は終わるぞ?如何に責任取るつもりだ?」
「……泣いて織田に謝れと?それともここで自害せよと?」
キッと父を見据える。しかし肝心の父親はもう吹っ切れたのか、のらりくらりとしていた。
「江奈。近う寄れ……なぁに、お前はわしの子じゃ。わしも人の子だ。可愛い愛娘の死ぬ様など見とうない。ましてや自害なんてもっての外だ。娘の腹から鋼が生えているのは見たくない」
けらけらと笑いながら言う。父の言葉に従うように江奈姫が彼に近づく。
否、近づこうとしたところを颯介が止めた。
「颯介……?」
「行っちゃダメだ。何のためにここに来たんだ?」
「外野は黙っとれ。江奈、父の言うことが聞けぬと言うのか?」
先ほどとは大違い。低い声で呻る。でも颯介は手を放そうとしないし、江奈姫はその手を振り解こうともしない。それどころか、進めた足を後退させた。
それを見て芳明はしかめっ面する。
「江奈、そいつから離れろ。不愉快じゃ」
「別にあんたの機嫌を取るためにここに来たんじゃねぇ……単刀直入に言わせてもらう。江奈を俺にくれ」
あ、間違った。
そう思ったころにはもう遅く、ふて腐れた父は今にも飛び出さんというように目を見張り、隣の娘は顔を真っ赤にして、口を酸欠の金魚の如く口をパクパクさせている。
ちらっと後ろを振り向くと……あぁ、バカを見たような顔でこちらを凝視している5人。
「い、いやっ、ちょっと?いや、大きく間違いました……正確には……っおぅ!?」
耳のそばを何かが超高速で通り過ぎて行ったような?
前方を見る。目を爛々と光らせた男を確認。手が不自然に前に出てる。
そして再度後ろを見る。壁に深々と突き刺さった小刀確認。
前方から呻り声。
「お前……何奴だ?」
あぁ、失敗した。
途中から目線変えちゃいましたね、スミマセン(汗)
wikiで調べたところ、織田信包はお兄様に命じられて丹波国のお城を制圧。しばらく城主として頑張ってたそうです。。『丹波国柏原藩主』という肩書もあそこから引っ張ってきましたw
では、読んでくださりありがとうございました☆