帰宅
「風井様にお目にかかりたく候。どうか通していただきたい」
佐之助が開けた門に向かって言う。
ここは、この辺りでも一際目立つ大きな屋敷――江奈姫の実家。
彼女の結婚を取りやめさせ、俺たちの旅の同行を認めてもらうために7人で乗り込むというわけだ。
佐之助が声を掛けてから数秒後。
奥から槍を片手にした男が4人出てきた。
「ぬしらは何者じゃっ!怪しい奴らめ……何用じゃ!?次第によればひっ捕らえるぞ」
一番ゴツい男が言った。
佐之助が返答する。
「我々は風井様に用事があるのだ。そなたらには関係がない。控えい」
「なんだと……!素性のわからん奴らは通せんことになっておるのだ」
「私は将軍家に仕える、柳井佐之助だ。奉行所方にご確認いたさればおわかり申す。この者たちは皆私の信頼のおける部下である」
「じゃあ、あの異人はなんなんだよ」
男がフェリス神父を指差す。
「あれは……」
佐之助が苦虫をかみつぶしたような顔になる。
それを見た男らがニヤッと笑った。
「怪しい奴らめ……皆の者!こやつらを捕らえよっ!!」
おぉー!っと震えるような声を上げて、男らが走り出した。
「うるせー!」
俺が手を勢いよく横に振る。
すると辺りに甘い匂いが立ち込めた。
「なんだ……こ…れ……?」
猛者たちがふらふらと地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
「ほら、起きろ」
アレの巻き添えを食らった後ろの6人をぺしぺし叩いていく。するとみんな徐に立ち上がり始めた。
江奈姫が前方の様子を見て凍りつく。
「し、死んでない……よね?」
「あったりめぇだ。寝てるだけだ。俺が合図すれば起きる」
「本当……?」
「なんで嘘つかなきゃいけねぇんだよ……ほら行くぞ」
眠りこけた男たちを怪しまれないように門の中へ入れ(道端に大の字になってる男がいたら邪魔だろ?)、何事もなかったかのように門をくぐった。
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「江奈姫様?」
女中の一人が江奈姫の姿を見て叫ぶ。
「江奈姫様、今までいずこにいらっしゃられたのですか?お父上様が心配されておりましたよ」
するするっと彼女に近づいて、裾を目に当て始めた。
江奈姫がおろおろしだす。
「あ、耀、泣かないで……ごめんね、ごめん……」
必死に泣き出した女中を慰める。
「江奈姫。それぐらいにしときな……おい、風井様はどこだ?」
そう言うと、後ろから薙刀を持った女性が現れた。
「なにやつじゃっ!そなたらが江奈姫様を誘拐したのだな!?即刻牢へ!」
喉元に刃を突きつけられる。
「ご、誤解だっ!!というか、俺たちは風井大名に話があるんだっ!」
「ええい、何を申す!芳明様にまで手を出すか!そなたらは」
「やめてっ!!」
薙刀の女たちの手が止まる――江奈姫が彼女らに叫んだからだ。
「その人たちは何も悪くないわ……今回のことも全部私が企てたもの。町に逃げ出して、たまたまそこにいたその人たちに助けを請いたのよ。だから……その手を離して頂戴」
伏目がちに言う。すると渋々女たちが薙刀を下ろしていった。
「私たちは何ら怪しいものではありませぬ。私は柳井左之助。将軍家の会計方で働いております。そちらの方へご確認くださればお分かりになります」
「して、何用じゃ」
一番強そうな(いろんな意味で)女性が威圧的に尋ねる。
左之助は丁寧に低頭しながら答えた。
「私どもは江奈姫様のことで風井様にお目に掛かりたく候。どうか通していただけぬか?」
「……誰か傍へ」
一人の女中が彼女の元へ走っていき、耳打ちされた。そして奥のほうへ走っていった。
数分後、彼女は戻ってきて、女性に耳打ちする。
一瞬眉をひそめたが、頷いて、こちらへ向き直った。
「芳明様がお会いになるそうじゃ。くれぐれも無礼のないように。さぁ誰かご案内してさしあげなさい」
……一応、第一関門突破(かな?)。
左之助のしゃべり……意外と難しかったです。。
読んでくださりありがとうございました☆




