37.予想外
「ごぶさたしております」
「どうも」
「外が騒がしいようですが」
「ええ、まあ。サキさんはご存じないので?」
「しばらく大陸を離れておりましたので」
「そうでしたか。どこから話したものか」
領主は執務机からソファへとよろよろとすわり、執事の注いだ紅茶に手を付ける。
以前の闊達な姿が嘘のようだ。
「麦の刈り取りが終わったころ、中央山脈で噴火がありまして。
早急に調査隊を編成し様子を見に行かせました。
幸い領内には被害は何もなかったのです。
調査隊は領境に陣を作り、そこから火山を観測しておりました。
噴火は夜半を過ぎても続き、白い噴煙を上げ、溶岩が山肌を焼いておりました。
ところが、朝日が昇る頃には何事もなかったかのように収まっていたのです。
いいえ、何後もなかったように元通りだったのです。
稜線も焼かれた森もすべて元通りに。
そう、早馬が知らせてきました。
それから1カ月間、毎日毎日噴火しては元通りというのが繰り返されていました。
そして突然8つすべての火山が噴火しました。
これも同様に噴火しては元通りというのをこの6か月間繰り返しております。」
「噴火は大変恐ろしいものですが、被害はなかったのでは?」
「ええ、ヒトやモノ、建物などには全く被害はありませんでした。
神の御業でしょう。
領民たちも直接的な被害がなかったことから、1月もすれば慣れてしまいましたし」
「それは何より」
「ところがです。
聖王国からの避難民が続々と詰め掛けてきまして。
調査隊からその知らせを受けた当初は救援が必要と空き地を提供し、避難村を設けました。
同時に国へも報告し、対応と資金援助を求めたのです」
「大変立派なご判断だと思います」
「国からも援助物資が届きました。
火山の観測や聖王国との交渉は国の所轄となり、仮設住居や食料の提供が我々の仕事となりました。
しかし日に日に避難民は増え、領境では間に合わなくなり、一つの村を新たに開拓ました。
それでも間に合わず、避難村から領内各地に避難民は移動し、勝手に集落を作っていきました。
さすがに領民保護、領地保全、治安維持の面から見過ごすことからできず、勝手な避難民は領外へと追放しましたが、すぐに戻ってきます。
そうして忘れもしない10月。
国から一通の指令書が届きました。
聖王国避難民に対して、亡命するならば支援を続ける、ただし教義を捨てることと。」
「それは」
「国は今回の噴火を聖王国がなにがしか神の怒りに触れる行いをしたのだと言っております。
改心せよと」
「半数近くの者が戸惑われてましたが、宗教を捨て亡命することとなり、他領開拓地への移住などに向かいました。
そしてわが領に残ったのは、教義を捨てず、国からの支援の当てのない避難民。
支援がなくなったことから、奴らは一切こちらの指示に従わず勝手に集落を形成しました。
こうなるとわが領を不法占拠していることとなります。
強制立ち退きを要求し、騎士団を向かわせました。
奴らは領内を散り散りに逃げ、教会や信者に保護を求めたのです。
同じ宗教を持つものとしてでしょうか、
領民の中に避難民の受け入れをするべきという声が膨らみ、
それは暴動となり、
今に至るというわけです。」
やらかしたわ




