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完璧キャラのほころび

 任務?

 バラ色の頬をさらに赤らめ、宝石みたいに瞳を輝かせる由真。

 その隣では、五月が腕を組み、口の端すら動かさない仏頂面。

 そして――そんな二人の温度差に、カズマだけが首をかしげる。


「今回の式典は、ただの式ではないの。反対運動が起こっているくらいだから、それなりの警戒体制になるでしょうね。何かが起こるかもしれない」

「こ、校長!」

「いいのよ、灯。納得した上で引き受けてもらわないと。今回の式には、SSS幹部全員、プロフェッショナルジョーカー、そしてこんな学校からも代表を出せと言うくらい政府は警戒している。もう、十年……」


 ――あの日を、忘れられるはずがない。

 揺さぶられた振動。

 耳を切り裂くような衝撃音。

 何かが入り込んでくるような感覚に心臓が悲鳴を上げる。


 あれから十年。

 揺れは止まっても、心の奥底であの日の震動はまだ続いている。


「もちろん、式には私と教頭、簗瀬教官も出席します。教師は当日だけだけど、あなたたちには式準備から学校代表としてスカイ東京に通ってもらう事になります。その道中だって、危険があるかもしれない」


 大人の真顔ほど、子供にとって怖いものはない。

 誰もが深刻な事態であることを理解するしかない。


「ねぇ、五月。だからこそ、あなたたちなのよ。何かがあった時、守れる力が必要なの。SSSの信念は、世界を守ることじゃない。自分の手の届くものを守る事よ?」


 真っすぐにイツキを見つめて語りかける顔は、校長ではなくお母さんの顔。


 2人の様子を見ながら、カズマは亡き母を想う。

 それから思い出すのは、今の家族。

 寂しい……?

 自分の中に疼く感情に、カズマは戸惑う。


「あ、忘れてた! 小早川君には、コレコレ」

 深みにハマりそうだったカズマに差し出されたIDカード。


「君の運転免許証。今回だけの期間限定のものだけどね。君には2人の送迎をやってもらいたいのよ」

 期間限定の仮免許のため、学生証と同じ写真は貼られているが別になっている。


「学内の車はすべて、24時間乗り放題のサービス付きよ?」

 ……面倒なことに巻き込まれたが、そのサービスは悪くない。



「要件は以上です。あとは追って連絡する。帰ってよろしい。簗瀬教官は残るように」


 ビシッと教頭に締められ、不満全開の簗瀬が不満を言っているが、まぁいいだろう。

 校長室を出てから、何も言わない2人の後ろを、カズマは黙って追う。


 空気が重い気がするのは、カズマには由真に後ろめたいモノがあるからか。

 いつも大きく見えている生徒会長の背中は、華奢でどこか頼りない。

 普通の女の子の背中。

 そう感じるのは『お嬢様の由真』を見たからか?

 この前の運転講習の授業中、

 -バケモノ―

 口をついて出たその一言は、なかったことにはできない。

 伏せた顔、何も言い返さなかったあの表情が、今も焼きついて離れない。

 生徒会長と、無能力者に接点などあるはずもない。

 謝らなきゃ……でも、どう言えばいい?

 心の中で何度も問い直す。


 そんなまま、思考をフル回転させながら、エレベーターの扉が閉まった。


 エレベーターの体感は下がっているのに、由真が突然はじける。


「任務よ! 任務! こんなに早く任務もらえるなんて、最高!」

 興奮で頬が赤く染まり、目が宝石みたいにきらめいている。


「ねぇねぇ、在学中に任務とか珍しいよね? 初めてじゃない?」

「相変わらず承認欲求の塊だね、君は」

「あら、アナタの偽善者っぷりには負けるけど?」


 ムカついたら殴れ!の環境で育ったカズマに知的な喧嘩は理解不能。

 エレベーターの扉が開いた瞬間に、誰よりも先に飛び出し距離を取る。

 ――コイツら、気持ち悪ぃ。


「あ、小早川君。面と向かって話すのは初めてよね? よろしくね」


 イキナリ手を取られて、思春期カズマの心臓はドッキドキだ。

 由真の顔が視界いっぱいに迫る。瞳がでかい。睫毛が長い。

 ふわっと香水じゃない甘い匂いが鼻をかすめ、反射的に心臓がドクンと跳ねた。


 ……コイツ、覚えてない?

 悶々と悩んでいた自分が馬鹿らしくなる。

 ――なんだよそれ、ふざけんな。

 自分になのか、相手になのか、分からない身勝手な怒りが込み上げてくる。


「コバヤカワクンって長いのよね。これからは一緒に任務をやるわけだし……カズマ君! カズマ君でいいかしら?」

「いいね。じゃ、ボクもカズマ君で」


 一気に距離が物理的にも関係的にも迫ってくる恐怖。

 しかも二人同時は恐怖も二倍だ。


「な、馴れ馴れしい! な、なんなんだよ、お前ら仲悪いのか良いのかどっちだよ?」


 会話からでは2人の関係性は読み取れない。


「悪い、わよ!」

「悪い、だろうね?」


 同時に返ってきた答えに、説得力は皆無。


「ただの幼馴染みってだけよ!」

「えー、昔から知ってる腐れ縁くらいじゃない?」


 鬼のように由真が睨みつける。

 けれど五月は、涼しい顔でさらりと流す。

 ――どうやら、五月の方が容赦ない。


「だ、だいたい、なんなんだよ! お前、断ってたじゃねぇかよ」

「それよ、それ! SSSとして、断るなんてありえないんだけど」


「すっかり仲良しだね。君たち」

 矛先が自分に向いたところで五月は物理的に距離を取る。


「で、結局やるのよね? 清々しいまでに利益計算が上手だこと」

「君も同じだろ? 今、僕に引きずられてボロが出ちゃってるけど? 猫、かぶる利益のある相手ではないってことだろ? カズマくんは?」


 任務の嬉しさに浮かれて、つい五月相手で……忘れていた。


「つまり君は、見下しているんだよ? 詰めが甘いね、生徒会長さん」


 空気が一段、冷えた気がした。

 五月の言葉は由真を追い詰めていく。


「別に、俺に利益ないんで」

 幻滅するでもなく、拒絶するでもなく。

 カズマはただ、自虐のように、笑いもせずに呟いた。


「君もよく受けたね? 断ると思ったのに。あーあー、君に乗っかってボクも断ろうと思ったのになぁ」

「はぁ、俺なんか関係ないだろ? 断る気ねぇくせに!」


 なんで?

 見透かされているような気がして、五月の内心が揺さぶられる


「ま、まぁ、僕がやらないと、誰かがやることになるからね」

「お前、スカしたヤツかと思ってたけど、身内には素直なのな!」


 スナオ?


「あー、それ私も思った! 家族には大声出したりするのね。初めてみたかも?」


 家族?


 反撃とばかりに由真のターンが乗ってくる。

「ママには弱いのねぇ」


 ママ?

 誰の事言ってるんだよ……。


「この歳で部屋入られるのってキツイよな、家族だからってさぁ……」

 勝手に部屋に入られるのもイヤなのに、掃除までされていた時の怒り!

 カズマにも苦い想いが蘇る。


「え、カズマ君も……」

「あ、ば、エロ本なんか隠してねぇよ!」

「ふぅーん……」

「お前、絶対信じてないだろ!」

 面白がる由真と、イラつくカズマ。


 いい加減にしてくれよ。


 目の前で自分をネタにされてるから不愉快なんだ。

 五月は飲み込まれそうな感情に終着点を見出そうとする。


「あれ? お前ら、まだ居たの?」


お読みいただきありがとうございました。

幼馴染みって厄介だよねって言ってみたい人生でした。

次回更新→明日(8/15) 21:00台に更新予定です。

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