ヨセアツメと初任務-完璧キャラだったよな?
「五月くん、この後、カフェに付き合ってくれない?」
教室の一角だけ、熱を帯びたアイドルファンミーティングのような空気が渦巻いていた。
「うーん……雲行きが怪しいんだよね」
ふわりと笑みを浮かべ、姫川五月はゆっくりと女子生徒に視線を落とす。
「どうせ君と一緒に行くなら――太陽の光でより輝く君を見ていたいな」
その瞬間、女子生徒の手を軽やかに取り、舞台上の王子のように握り返す。
まるで脚本があったかのような仕草。だが、それは五月の日常だ。
「あー、ずるい! 私も行く! ねぇ、みんなで行こうよ、五月くん!」
「……でも、雨が降ったら髪型が崩れちゃうよ?」
ささやくような声でそう告げ、そっと女子の毛先をすくい上げる。指先が触れるたび、空気が一段と甘くなる。
毛先をもてあそびながら、五月が顔を伏せるとサラリと前髪が落ちる――女子たちの時間は止まった。
その姿に女子たちの瞳は釘付けだ。
少し長め髪はサラサラで、中性的な雰囲気によく似合う。
制服もシャツにベストというシンプルさが、より五月の魅力を引き立てオシャレに見える。
ぱっと見ただけでは、性別が分からないくらいに中性的な美少年。
それだけでも目立つのに、超能力もSSSに数人しかいないと言われる最高位S3ランク。
「あなたたち! 暇なら部活動などいかがかしら?」
由真の一言が入ると、女子生徒たちは露骨に嫌な顔をする。
「生徒会長様は怖いなぁ。ボクたちはただ話してるだけだけど?」
「話してるだけ? その人数が問題なのですよ?」
女子生徒に囲まれる五月の姿はホストのようで、由真は不快感露わに見下す。
そんな視線は軽く受け流しても嫌味はしっかり忘れない。
「友達多くてごめんねぇ。あ、生徒会長もご一緒にどう。かわいい子は大歓迎だよ」
「あなたと話す内容がございませんわ」
由真と五月のその口から紡がれる言葉は友好的だが、目の奥は氷のように冷たい。
不穏な空気がビリビリと教室中にひろがる。
しかし、この2人のやり取りも日常となるほど、クラスメイトたちは慣れている。
「はい、カズマ! 確保」
「は?」
突然やってきた簗瀬はカズマを羽交い絞めにしてニッコリ。
「何すんだよ! 離せ!」
「あと、由真と五月も来い」
簗瀬は、暴れる子猫をあやすような口調でカズマをなだめるが、逃げられないように力を込めて引きずって教室を出ていく。
「えーとー、なんですの?」
由真と五月が目を合わすが、ワザとらしく露骨にそらす。
「とりあえず、行きますか? 簗瀬うるさいから」
一時休戦となった由真と五月も、簗瀬の後を追った。
「はい、乗った!」
専用エレベーターに乗り込むと、4人の視線はデジタルな表示を見上げる。
無機質なエレベーターのドアが開くと、レッドカーペットに木製の壁、ドア、ハイレベルな高級空間が広がる。
学校内とは思えない空間の中央、一番豪華なドアを簗瀬がノックする。
簗瀬が明けたドアに当然のように一番のりで立つと、由真は完璧な挨拶をこなす。
「失礼いたします。校長先生」
警戒し、動かないカズマに簗瀬は顎で『入れ』と合図する。
立派な机の前には入学式で見た美しい校長と、その横に控える右腕でもある教頭。
「堅苦しくなくていいわよ。知らない仲じゃないし」
「じゃぁ、お久しぶりです。おば様!」
由真のその変わりようは、生徒会長というよりお嬢様の振る舞い。
「優秀な生徒会長の噂は聞いているわよ、由真」
チラリと一瞥するように見ただけで、五月はすぐに視線をそらす。
反抗期の息子そのものの態度に冴子はニヤリと意味深な微笑みを返す。
「小早川、カズマくん?」
チラリと見て興味ないと言わんばかりにカズマは横を向く。
興味がないのか、やる気がないのか?
「ふふ。似てるわね。ねぇ、簗瀬?」
五月とカズマを見比べて冴子は意味深に簗瀬に問いかける。
「あー、悪ガキなのはソックリですね!」
言われて初めて気が付いた!
この2人、正反対に見えて本質はソックリだ。
ストンと何かが落ちたように、簗瀬はうんうん、と頷く。
「似てるかなぁ? ね、小早川くん?」
五月は好感度高すぎのキラキラ笑顔でニッコリ。
からかわれているのが見え見えで、それはカズマの癪に障る
「一緒にすんなっ!」
無駄なやり取りに耐えていた灯は威厳ある教頭として、咳ばらいを一つ。
「7月7日に、政府が行う東京大震災十周年追悼式が行われます。我が校の代表を、東雲由真と姫川五月に勤めてもらいたい」
「お引き受けいたします」
「お断りします」
眼鏡越しでも分かるほど片眉釣り上がっている教頭と、両眉釣り上がっている生徒会長の反応とは反対に校長は笑いが止まらない。
「五月! あのさ、一応、国家行事なんだよ?」
「国家? 追悼式? そんな胸糞悪いの関わりたくもない! あ、簗瀬がやれば」
「俺も行く予定だよ!」
「じゃ、よろしく」
そう言うと踵を返し校長室のドアノブに手をかけた五月の背中に校長の一撃。
「いっちゃん、もう帰っちゃうのー。部屋に行っちゃおっかなぁ?」
ちらつかせるカードキーに向かって五月は突進する。
校長はその手をひらりとかわしてカードキーを胸元にしまう。
これで手が出せまいと勝ち誇る少女のような校長に、五月はぐぬぬと拳を握る。
「なんで、ソレ、持ってんだよ。校の寮だからって、職権乱用だろ!」
「人聞き悪いなぁ。保護者が鍵を持っているのは当然よ。お掃除とか、イロイロあるでしょう? イロイロ!」
「あれは掃除じゃないよ。泥棒だと思ったよ!」
数日前、部屋に帰った五月がドアを開けると部屋中が荒らされていた。
泥棒か? と騒ぎになりかけたところで本人の自供により収まったという事件を起こしている。
「ちょーっと探し物していただけじゃない?」
「それで部屋荒らされたら、たまったもんじゃないよ!」
校長相手に怒鳴りまくる五月の姿に、今までの五月しか知らないカズマと由真は驚いてしまう。
その変わりようは誰だコイツ? レベルだ。
「思春期の息子の成長を見守りたいのが親ってもんでしょ? 男の子なら、ベッドの下にエロ本の一つや二つ確認してこそ安心ってものじゃない!」
「ベッドの下に隠すなんていつの時代だよ。古いんだよ!」
「え、そうなの? 陸の部屋にはあったわよ? 大量のコレクション」
「あいつと一緒にするなぁー」
イツキの心の叫びがしっかり声となって校長室に響いたところで、簗瀬は前のセリフを聞き逃さない。
「陸はベッドの下にエロ本コレクション。しかも大量…」
そう無意識に呟いたのを聞いてしまった由真は、虫けらを見る視線で簗瀬を見上げる。
「ベッドの下は古いって言ったわよねぇ? じゃあ、ドコに隠しているのかしらぁ。幸太もベッドの下じゃなかったし、ホラ、白状なさい!」
「だーかーらー、そんなの初めからないって」
「それはそれで心配じゃない! ねね、どんなのが好み? カワイイ系? キレイ系? やっぱりおっぱいデカいのが好みか!」
「……戯れはそこらへんでよろしいですか?」
灯の低音ボイスに2人同時に背筋に寒気を感じる。
長年の勘で、これ以上は危険区域を察する。
「これは学校行事ではなく、任務と思ってくれていいわ!」
お読みいただきありがとうございました。
いまどき、エロ本なんてあるんでしょうか??
次回更新→明日(8/14) 21:00台に更新予定です。