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SSSの日常と秘密

「……で、すっかり授業忘れて簗瀬センセに怒鳴られたワケ?」


 校門前にいつも停まっているキッチンカーのケバブ屋で、ケバブにかぶり付くカズマは仏頂面で無視。


「授業なんか出る気ねぇし」


 思春期反抗期のカズマに相手はただ、陽気に大爆笑する。

 キッチンカーの窓から顔を出すのは、陽気でラテン系っぽいオトコ――通称「ロッキー」。

 誰も彼の素性を知らない。

 外国人なのか、日本人なのか。

 ただひとつ確かなのは、彼のケバブは美味いってことだけだ。


「さすが簗瀬センセ。生徒ほっぽりなげて夢中になっちゃうカンジが期待を裏切らない。ま、相手が幸太じゃそうなるかぁー」

「あいつ知ってんの?」

「おいおい、何年ここで商売してると思ってんだよ? 俺は、お前がこーぉぉんな……」


 ロッキーは親指と人差し指で大きさを示すが、その大きさは五ミリ以下。

 いくらなんでも小さすぎる。


「小さな頃から、ココで商売してんの。SSSの生き字引とは俺のことよ」

 胸を張った決め台詞まで無視され、さすがのロッキーも寂しい。


「あいつらも能力とかだろ?」

「あの二人、超能力ないから」


 あっさりと突っ込まれたカズマは、大きな目を見開いてロッキーを見る。


「簗瀬センセも幸太も、能力ゼロ!」

「はぁ? あの運転! 無能力って……あのデタラメな運転を?」


 超能力的な何かで車を操っていると思っていたカズマは声を荒げる。


「『デネブ』って嫌われてたんじゃねぇのかよ!」。

「星座。夏の大三角?」

「いや、そうじゃなくて!」

「おり姫とひこ星?」

「ソコじゃねぇよ!」

「『ベガ』『アルタイル』?」

「……もう、いい!」


 ロッキーはカズマの反応を見てクスリと笑った。

 ここまで楽しんだなら、もう十分だ。


「『ベガ』『アルタイル』……そして、『デネブ』で『夏の大三角形』。織姫でも彦星でもない存在……まぁ、アレの俗称だな」


「ここでの超能力者様は崇め奉られてるぜ? スゴイ! スゴイってな!」


 カズマは、その浮ついた熱気にうんざりしていた。

 生まれ育った場所では、超能力をひけらかす者などいなかった。力を持つ者ほど、むしろ口を閉ざしていた。


「『スペシャリストランク』ってのは、超能力ランクじゃなかったはずなんだよ。SSSの中で、使えるか使えないかに『超能力』なんて関係ないんだ。任務で使い物になるなら、『超能力』でも『身体能力』でもどっちでもいいってことだろ?」


 ロッキーの声色には、不満めいた色が混じっていた。


「アイツ! 超能力者じゃないの?」

「幸太は『身体能力』。あれは努力の賜物だな」


 努力の賜物ねぇ。そんな芸当が出来る人物をカズマは思い出す。

 ケバブを食べるのが止まり、遠い日を追いかけるように視線が揺れた。

 思い出すのは……。


「なぁ、今月、どうした?」


 ポツリと漏れた言葉にロッキーはニヤニヤが止まらない。


「な、なんだよ!」

「お家が恋しい? ホームシック? カズマちゃん、小さな頃から寂しがり屋さん」

「うるせぇよ!」


 幼い頃を知っている奴は時として爆弾だ。

 それが同郷の幼馴染となると益々タチが悪い。


「小夏ちゃんの病院なら、この俺が付き添いを仰せつかりまして、見事にお勤めをはたしました」

「はぁ、お前が? 慎重に車椅子押しただろうな? あの病院、床がガタつくんだよ。姉ちゃんに振動とかありえないから!」


 カズマの声は思わず強くなる。心配と苛立ちが半分ずつ混じった響きだ。


「ハイハイ。カズマはお姉ちゃん大好きだもんねぇ」


 ロッキーはわざとらしく両手を広げ、からかう笑みを浮かべる。


「小夏ちゃんもお前の心配ばっかりだし! なんなの! この両想い兄弟」

 軽く肩をすくめた後、ロッキーは口元をゆるめる。


「ま、元気なのは俺がしっかり伝えてやるよ。帰るつもり、ないんだろ?」


「……アイツに聞けよ。オレは追い出されたんだよ」


 ヤケクソに頬張ったケバブが喉に詰まる。


「あー、もう、ほら、水」


 ロッキーは苦笑いしながらペットボトルを渡してやる。

 一気に飲み干すカズマを見ながらどうしたものかと考える。

 ホントに頑固なところがそっくりだ。


 上質なレッドカーペットが高級感を演出するフロア。

 SSS養成校の最上階、真ん中に位置する場所に校長室はある。

 一般の生徒はもちろん、教師ですらココに入れるのはごく一部。


 細身のパンツスーツの女性は、形式的にコンコンとドアをノックする。相手の返事がする前にドアを開けた。

 ノックに意味がないことを、長い付き合いで知り尽くしている。


「灯ぅー。久々に幸太帰って来るからはやく帰りたいんだけどー」


 立派な机が似合う熟女が、電子タバコくわえて突っ伏す姿は何かが違う。

 式典などでは聴衆を一目で虜にするSSS養成校校長・影山冴子(カゲヤマサエコ)の真の姿。

 それはSSSが守り抜かねばならないトップシークレットの一つである。


「幸太君、忙しいみたいですね。プロフェッショナルジョーカーはトップチームですから」

「ふふん。さすが私の息子!」


 自慢げに椅子にふんぞり返る冴子の前に、教頭・木下灯(キノシタトモル)は完璧な鉄仮面でファイルを机の上に置く。

 ファイルには、履歴書3枚。


「政府が行う東京大震災十周年追悼式ですが、我が校からも代表を出すように、とのお達しでしたので。今回の式典には反対する者も多く、警戒態勢が厳重です。家柄、能力を考慮するとこの2名が妥当かと」


 冴子は熟知している2名の履歴書に興味はないと、机の上に投げ捨てる。


「打ち合わせなどはスカイ東京で行われることが多いため、運転手を推薦させました。簗瀬の推薦なので腕は確かだと思います」

「へぇ、このコかぁ。楽しみじゃない?」


 3枚目の履歴書を興味深く眺める冴子の瞳が、少女のように輝いた。


お読みいただきありがとうございました。

大人の登場は地味ですね。

次回更新→明日(8/13) 21:00台に更新予定です。

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