ロッキーのケバブは世界一! 英雄の忘れ形見と、夕焼けの商店街
前回のお話はーー
式典直前、五月の失踪が判明し、代役としてカズマが指名される。一方ノーザンクロスでは、三月が穏やかな朝を過ごし、新たな仲間との絆が静かに芽生えていく。
「天気がいいねぇ、お姫サマ」
校門前、いつものエプロン&キャップ──『学校前の風物詩』みたいなケバブ屋スタイルのロッキーが、なぜか光のエフェクトまで背負って登場した。
それはもう、気持ちよさそうに空へ伸びをしながら。
「ロッキー、もしかして!!」
三月は勢いよく立ち上がり、そのままロッキーに詰め寄る。
「カズマが言ってた! ロッキーのケバブは世界一って!!」
ロッキーの彫り深い顔立ちが、さらに影と光をまとって『劇画モード』に進化した。
「……分かっているじゃねぇかぁ~~!」
一人芝居みたいに何度も何度も頷きながら、ロッキーは感極まって涙目になり、鼻をズズッと啜る。
「食べたい、食べたい、食べたい! ミツキ、今すぐ食べたい!」
「では──天気もいいですし、お姫サマ。ワタクシとデートなど、いかがでしょうか?」
くるり、と指先でキッチンカーの鍵を回すロッキー。
その瞬間、三月の胸がふわりと浮いた。
初めて乗るキッチンカーは、思っていたより目線が高い。
それだけで、街並みがまるで別の世界に見えた。
胸の奥が、そわそわと落ち着かない。
「ハイ、到着! 本日はココでお仕事です!」
ロッキーが軽やかにハンドルを切り、キッチンカーはどこか懐かしいレトロ商店街の入り口で止まった。
車から降りた三月は、まるで探検に来た子供のようにキョロキョロと周囲を歩き回る。
駅はある。
それなのに──出入りする人影は、ゼロ。
三月は、思わず足を止めた。
「なんで誰もいないの……?」
クビをかしげる三月の横で、ロッキーは慣れた手つきで開店準備を始めていた。
「ハイ。できたて第一号〜!」
渡されたケバブは、袋からあふれそうなくらい肉がモリモリ。
嗅いだ瞬間、脳が揺れるほどの食欲刺激が三月を襲う。
……三月の手はピタッと止まったまま。
「ん? どうした? うまいぞ?」
「……お金、持ってない……」
しょんぼり俯く三月。
空腹と遠慮のはざまで、三月は小さく身をすくめる。
その様子を見て、ロッキーが放っておくはずがなかった。
「そんなコト気にしなくていい! カズマなんて払ったこと一度もないぞ! ほら、食え!!」
「わぁ! いただきまーーす!!」
次の瞬間。
三月は王族の品位など完全に吹き飛ばし、ソースで口がベタベタになろうが気にせず、ケバブへかぶりついた。
「おーおー、いい食いっぷりだ!」
ロッキーは満足げに笑う。
その視線に気づいた三月が「なに?」と見返すと、ロッキーは笑いを堪えながら台布巾を渡した。
三月は気にも留めずゴシゴシ拭いて──満面の笑み。
「おかわり! もう一個!」
「ハイハイ、お姫サマは育ち盛りだな〜」
二個目のケバブとジュースを受け取った三月は、持参の折りたたみベンチに座って幸せそうに頬張る。
「いい匂いだなぁ、俺にも1つ!」
「ロッキー、今日も来たのか!」
老若男女がどんどん集まってくる。
人が食べていると食べたくなる──その見本みたいに、三月の存在は立派な『看板娘』になっていた。
夕方になる頃には、完売御礼。
店仕舞いをしながら、三月はちょこちょこと掃除や片付けを手伝う。
「よーし、終わり!」
ロッキーがエプロンを外し、軽やかに車から降りてきた。
「さぁ──行こうか? お姫サマ」
どこへ? 何が?
胸がワクワクで跳ね上がるのを、三月は止められなかった。
いつの間にか陽が傾き、夕方の商店街は活気に満ちている。
すれ違う肩が触れあうほどの賑わいに、三月は不安になってロッキーのシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
そんな時――。
「アラっ、ロクちゃん! ちょっとアンタ、なにそのお人形さんみたいなコ! いい歳して独り身だと思ったら……やるじゃないのぉ〜?」
「ちょっと待て、オバちゃん!? どう解釈したらいいの! 娘? それともロリコン扱い!? どっちだよー!」
八百屋の店先で、ロッキーは見事に捕獲された。
ロリータ服の三月はどうやらこの商店街ではレア中のレアらしい。
視線が集中し、三月は思わずロッキーの背中に隠れる。
「オバちゃん、怖がらせないでよ! 大丈夫だよ、お姫サマ!」
ロッキーは三月の頭を大きな手でぽん、と優しく撫でた。
その仕草は、子をあやす父親というより──家族への『愛情』のようだった。
ふっと見せたロッキーの瞳のやさしさは、三月が幼い頃、母が向けてくれたあのまなざしにそっくりで。
胸がじんわり熱くなって、三月は慌てて俯いた。
このまま見つめたら、ロッキーの『過去』まで視えてしまいそうだったから。
「……このコは、英雄の忘れ形見だよ……」
ぽつりと呟いたロッキーの言葉に、オバちゃんたちの表情が一変する。
「え……英雄の……? あぁ……そうかい……」
驚きと、懐かしさと、少しの寂しさ。
みんなが何かを思い出したように三月を見つめ、すぐに温かく笑った。
「優しい雰囲気が、そっくりだよ。ほら、大サービスだよ! 持ってきな!」
オバちゃんは一瞬でしんみりを吹き飛ばし、カゴ山盛りの野菜を次々袋に詰めて三月に押しつける。
「あ、あの、お金……!」
「サービス! サービス! こんな可愛いコに会えたんだ、今日はお祭りみたいな日さ!」
「よっ、太っ腹だねぇオバちゃん!」
「ロク、その言い方だとアタシの腹が立派って言ってるみたいじゃないかい! ……いや立派だけどね!」
オバちゃんは自分の腹をポンッと叩き、豪快に笑った。
「ロクちゃん! これも持ってきな!」
「お嬢ちゃん! ウチの焼き鳥食べな! 上手いぞ!」
商店街は、店と店の距離が近い。
三月が歩けば、別の店に捕まり『かわいい!』『人形みたい!』『天使?』と大絶賛。
恐るべし商店街ネットワーク。
さっき八百屋で話した内容が、もう通り全体の『常識』として共有されていた。
夕日が路地をオレンジ色に染める頃、
ロッキーと三月はコロッケを食べながら両手いっぱいの袋を提げて歩いた。
お読みいただきありがとうございました。
次回更新→来週更新予定です。




