消えた攻撃と、SSSトップチームのだいぶおかしい日常
前回のお話はーー
放課後の穏やかな時間から一転、カズマたちはSSS東京支部へ呼び出される。
誘拐事件の解析報告とともに、この都市の“鍵”を巡る動きが静かに始まった。
「ぐぬぬぬ……っ! どこのどいつよ、あたしのセキュリティ破ったのはぁぁぁっ!」
机に突っ伏して唸る薫を見て、葵は「やっぱりね」とため息をついた。
責任感とか使命感とかじゃない。
――ただ、悔しかっただけ。
技術屋としての意地。
それが薫らしい。
「もちろん、セキュリティ強化は完了しています」
クールな声で顔を上げる薫。
「私のシステムに手を出すなんて――いい度胸ですよ。……絶対に、倍返ししてやります」
淡々とした報告の裏で、静かに燃える薫の怒り。
――さすが、東雲姉妹。
負けず嫌いも、意地っ張りも、そっくりだ。
「それと、解析できない箇所が……」
薫の指がキーボードを叩く。
スクリーンには、一瞬だけ強い光が走り――何も映らなくなった。
「この瞬間だけ、データがまったく取れていません。映像も、音声も、センサー反応もゼロ。……空白です」
薫の視線が、カズマをまっすぐ射抜く。
その鋭さに、カズマは息を呑んだ。
動けない。
ただ、何かを見透かされたような気がして。
「あっ! ツタがまっすぐ向かってきて、もうダメって思って目をつぶっちゃって……でも、衝撃がなくて、開けたら何もなかったの! 本当に消えたって感じで! ね、そうだよね? カズマ君!」
興奮気味にまくしたてる由真。
けれど、会議室に流れるのは微妙な沈黙。
誰もが理解しきれずにいる。
すべての視線が、再びカズマに集まった。
「……消えた、んだよ、な……気づいたら、何もなくて」
自分でもよく分からない。
あの瞬間、確かに『何か』が起きた。
でも、それが何なのか、説明できる言葉は持っていない。
ただひとつ――あの光の中で、『消えた』ことだけは確かだった。
説明が終わると、照明が戻った。
一瞬、白い光に目が慣れず、空気が少しだけ張り詰める。
その沈黙を破ったのは、もちろん――。
「で、五月はなんで病院に行ったんだ?」
大久保の低い声が響く。
問われた五月は、どこか言いづらそうに口を開いた。
「電話があったんだよ」
短く、それだけ。
予想していた『事件の核心』らしい話は出てこない。
あまりにも素っ気なくて、カズマも少し拍子抜けした。
けれど次の瞬間――。
「よくやった! さすがだ! その危機察知能力は訓練の賜物だ! さぁ、イツキ、共にジムに行こう! 汗を流し、サウナに入り、背中を流してやるぞぉぉ!」
叫んだかと思うと、大久保がその場でイツキをヒョイと担ぎ上げた。
「放せッ! なんでそうなるんだよ! 筋肉馬鹿ッ!」
「はははははは! 反抗期の息子はスキンシップが大事なのだぁぁぁ!」
暴れるイツキ。
締め上げる大久保。
ゴリラと青少年の格闘が会議室で繰り広げられる。
カズマと由真は、ただただ唖然。
『SSSトップチーム』という響きから想像していた光景と違いすぎた。
そして――。
パタン。
糸が切れた人形のように、イツキの動きが止まった。
ほんの数秒の静寂。
「いい加減にしてぇぇぇぇぇぇぇぇーー!」
怒りの右ストレートが炸裂。
大久保の顎にクリーンヒットする。
その隙にスルリと抜け出したイツキの体がふっと揺れる。
代わりに、その瞳に別の光が宿った。
「イツキをいじめちゃ、めっ! でしょ? オヤジ!」
「みっちゃゃゃゃゃゃん! 会いたかったぞぉぉぉぉぉ!!」
――ミツキ様降臨。
中年マッチョが全力で抱きつき、頬ずりを始する。
由真の目には、完全に『変態ロリコン』の図。
「……これが、SSSのトップ……?」
夢と現実のギャップに、由真はそっと視線を逸らした。
「しっかし、こんな珍獣みたいなの誘拐失敗してよかったなぁ。誘拐犯も逃げ出すだろ、これ。ミツキ、なんか心当たりないの? 恨み買ってるとか?」
「恨み買いまくりのバカリクとは違うよ。ミツキはイイコなんだから!」
「お前がイイコだったらオレ様もイイコだよ。それより『バカ』ってなんだ。お兄様と呼べといつも言ってるだろ! お・に・い・さ・まッ!」
ミツキの頬をグニグニと捏ね回す陸。
反発するミツキは何か叫んでいるけど、もはや何を言っているのか分からない。
「ホントに仲良しねぇ」
峰子がため息まじりに笑って、カズマたちに説明してくれた。
「ここは寄せ集めが多いから、自然と家族みたいになっちゃうのよ」
「二人にとって、隊長がお父様で、陸さんがお兄様……ですか?」
「あ、あと『パパ』もいたわね。山寺さんは『パパ』よね、幸太?」
山寺? どこかで聞いた名前だ。
カズマがきょとんとしていると、由真が勢いよく立ち上がった。
「えっ!? 山寺さんって、あの、山寺さんですよね!?」
「……まあ、それは、本人が呼ばせてるんだよ。女の子に『パパ』って呼ばれるの、好きだから、あの人……」
困ったモノを語るように幸太は大きくため息をつく。
これ以上は突っ込まないで欲しい。
「三月って何者? 山寺さんって、SSSの創設者、山寺総一郎社長よ。幸太さんのお父様」
由真がそっと耳打ちしてくる。
けど、カズマにはビッグネームすぎてピンとこない。
屈託のない三月の笑顔を見ていると、ただ『楽しい家族』にしか見えなかった。
「じゃあ、ミツキや姫川にとって、影山さんもお兄さんで、富士山さんや東雲さんはお姉さん?」
「そうだね。僕は二人と一緒に暮らしてたから、もう家族だよね」
「幸太ってば、五月が寮に入るって出て行ったとき、落ち込んでたのよ?」
「ちょっと! 峰子!」
照れ隠しの咳払いをしながら軽く睨む幸太は、完全に『お兄ちゃん』の顔をしていた。
カズマと由真は思わず顔を見合わせて笑う。
「仲間っていうより、家族って感じだね」
「薫と由真は本当の姉妹だし。ね、カズマくん? お姉さまって呼んでみない? かわいい弟っぽく『お姉ちゃん』……あーでも、『アネキ』も捨てがたい!」
勝手に盛り上がる峰子。
ロックオンされたカズマは小動物のように固まった。
「やっぱり『姉さん』がいいなぁ?」
「僕は『兄さん』とかどお?」
迫る二人にカズマは全身で圧を感じる。
この人たち、本気だ!
「……両方いるんで遠慮します」
峰子のお色気と幸太のノリ。どっちも厄介だ。
「えー? やっぱり! カズマ君、末っ子感あるのよねぇ」
どういう感だよ……。
「カズマ君、苗字じゃなくて名前で呼んでほしいな? 基本みんな名前呼びだから、苗字って違和感あるんだよー。ね、フジサン?」
「フジヤマ! 富士山って書いても『フジヤマ』なの! だから苗字嫌いなのよ、どれだけ間違われたか!」
「お察しします」
幸太が確信犯の笑みを浮かべて「ね?」とウインクしてくる。
雲の上の存在みたいだったSSSが、なんだか近く感じていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、三月と五月の過去が明らかになります。




