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ケーキビュッフェで交わした“約束”女子二人の強さに、オレだけが置いていかれる気がした

前回のお話はーー

病室で裕一と再会した簗瀬『アンダー東京の真実』に絶句。退院したカズマに、由真と三月の『お出かけ攻撃』が炸裂!! 病み上がりなんだよ? オレ……

「お待たせー! すごいよー、いっぱいなの! ミツキ全部食べるからね! いっただっきまーす!」


 三月はやる気満々の笑顔で両手を合わせる。

 あれは、挑戦者の顔だ。

 その前にあるのは――もはや原型を留めないほど山盛りにされたケーキ。


「三月は盛り方が美しくないのよ! ……はい、カズマ君」


 由真の皿はというと、まるでパズルのようにきっちり収まったケーキ。

 量は三月と変わらないのに、なぜこうも印象が違うのか。


 それとは別に、カフェのような美しい一皿を、カズマの前に置いてくれる。

 通常のショートケーキより小さく繊細なケーキたち。

 キレイだな……。

 カズマが見とれている間にも、三月の皿はケーキがものすごい勢いで消えていく。


「あ、ちょっと三月! ほら、口についてる!」


 丼飯でもかき込む勢いでケーキを食べる三月。

 口の周りについたチョコを、由真がペーパーナプキンで拭ってやる。


 ……良かった、いつも通りだ。

 トンネル事故の後、意識が戻ったカズマに泣きながら謝罪する由真は痛々しかった。

 正直、置いて行かれたとも、由真のせい、とも思っていない。

 それでも、由真をそこまで追い詰めたのは自分だと思うと申し訳ない。


 アレは事故だ。

 誰のせいでもないが、薄れる意識の中で見た光景。

 幸太の神業のような運転がカズマの頭から離れない。


「カズマ君はどうしてSSSに入ったの? 超能力者だからじゃないでしょ?」


 声は遠慮がちだが、興味津々な顔で由真と三月の視線が向けられる。

 答えたくなくて、でも嘘もつけなくて、カズマはしどろもどろに口を開いた。


「……無理やり、入れられて」


 それだけを言った瞬間、胸の奥がずしりと重くなる。

 事実だ。最初は本当に、校門前に置き去りにされたんだから。


「今は……運転、上手くなりたい」

 苦し紛れに付け加える。けど、それは自分でも笑っちゃうくらい小さな理由だった。


「カズマはコータと同じになるの?」

 カードライバーとは送迎や運搬ではなく、車を『戦闘機』と位置づけた戦闘要員である。

 カーチェイスを主とし、スナイパーとコンビを組むことが多い。

 SSSで唯一スポーツカーが使用され、ドリフトなど高度な技術が要求される。


「ミツキ、カズマも由真も大好きだから! ずっと一緒にいたい!」


 小さな子供のような三月の笑顔に釣られるように、由真は微笑む。

 三月の言う『大好き』は素直に心に届く。


「ミツキね……ホントは、ココ、好きじゃなかったの。お仕事も大嫌いだし」

 それは儚く、消え入りそうな声にカズマは何も言えない。


「ねぇ。三月って、プロフェッショナルジョーカーなの?」

 三月相手では、さすがの由真も本当に躊躇いがちに尋ねる。


「手伝ってる、かな? ミツキとイツキは小さい頃からSSSに面倒みてもらってるから。働かざるもの食うべからず! って峰子が言ってた。お礼参り?」

「お礼奉公、だと思うわよ?」

「働かないと、ミツキもイツキも生きていけないから。カイショーナシのイツキの面倒見ないとね? ミツキは!」

 胸を張る三月が、カズマにはやっぱり儚く見えてしまう。

 それは、由真も同じだったのか? 大きくため息を付いて重い口を開く。


「あたしも、ココじゃなきゃ生きていけない、かな? 東雲家はね、一族全てSSSの人間だから。東雲家に生まれた者に、それ以外の世界はないの。生まれた時から決まっているのよ!」


 由真の痛烈な怒りは、ずっと虚空を彷徨っている。

 怒りで由真のフォークを握る手が震えているのを、カズマは見てしまった。


「由真?」

 三月に呼ばれて、由真はハッと我に返った。


「あ、うん。ごめん、大丈夫! ああ、そう、東雲家って、本筋は忍びの家系なの」

「ニンジャー?」

 三月の発音は間違った日本観の外国人そのもので、カズマと由真は思わず顔を見合わせる。

 重かった空気が一変して明るくなる。


「忍者。あたしは『くの一』っていうのかな? その修行させられているからね。テレポートしているみたいに見えるだけで、身体能力なんだけど」


 優雅に高級ティーカップで紅茶を飲む由真はサラリと言うが、カズマにとってはその身体能力だってスゴイと思う。


「簗瀬教官は『身体能力のランクだ』って言ってくれたけど、やっぱり私のランクは上の嵩増しだと思う。そういうの、悔しいじゃない? だからあたしは、絶対に本物のテレポーターになって、上に行くわ! もう絶対失敗しない!」


 決意表明のような由真の真剣な瞳に、カズマはドキッとした。


 由真は、生まれたときからずっとSSSに縛られている。

 三月は、生きるために……そして五月のために、ここにいる。


 目指してるものは違う。

 だけど二人とも、自分の『今』を諦めてなんかいなかった。


「カズマぁ、それで終わりじゃないよね? ミツキはおかわり行くよ? まだまだ盛るよぉ」

 立ち上がり、空になった皿を見せ付けて三月の二回戦は始まる。


「あたし、……余計なことしちゃったかな? お店に行けば好きな服、買えるかなって思ったの……でも、三月、買わなかった」


 スカイ原宿の憧れロリータブランド。

 店員さんまで巻き込んで、ミニファッションショーみたいに試着して――あんなに目を輝かせていたのに、三月が選んだのは小さなリボンバレッタひとつ。


「……やっぱ、そういうことじゃなかったんだよね。あたし、ちょっと空回りしちゃったかも」

 由真が、どれだけ三月を大事にしているのか、ひと言ひと言に、それがにじんでいた。


「そんなことないんじゃね? あんなに楽しそうなミツキ、オレ、初めて見た……」

 次を言おうとしたカズマを三月が遮った。

「二人で何のはなしー?」

 三月の皿は再び隙間なくケーキで詰められている。

 ……女子ってすげぇな。


「次、どこ行く、ってハナシよ!」

 さらりと由真が誤魔化すが、三月は目を輝かせた。


「遊園地でしょー、海でしょー、キャンプも行きたいし! 冬になったら雪山で雪合戦……あっ、お花見! 春になったら絶対お花見! お弁当忘れないでね? 約束だよ、絶対だよ、約束!」


 カズマの小指を取って、三月が勝手に『指切りげんまん』と歌い出す。


「約束破ったら針千本ね、カズマ君? あたしも、もう一回行こうかな」

 由真がひょいっと立ち上がる。皿はすでに空だ。

「ミツキも行くー!」

「食べてからにしなさいよー」

 シェフのフランベがぼっ、と上がる。

 炎を見てはしゃぐ由真と三月。


 そんな二人を眺めながら、カズマは少しだけ表情を曇らせた。


 ――二人が、ものすごく重いものを背負っているのは分かる。

 それでも、ちゃんと受け入れている強さ。


 オレ……何やってんのかなぁ。


 最初は置き去りにされた。でも、ココに戻るって自分で決めたのに。


 三月はいつだって「大好き」と言ってくれる。

 由真の強い決意がまぶしくて、胸が痛くなる。

 自分だけが空っぽに思えて――。


 約束、かぁ。

 指切りした小指を眺めて思う。

 オレは、本当にここにいていいのかな?

 カズマの心に、小さなひびが入った。


お読みいただきありがとうございました。

次回、カズマは実家(アンダー東京)に強制的に帰ります。


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