病室で裕一と再会した“アンダー東京の真実”に絶句。退院したカズマに、由真と三月の“お出かけ攻撃”が炸裂!! 病み上がりなんだよ? オレ……
前回のお話は――
事故の翌日、簗瀬の部屋に由真が押しかける――「私のランクはニセモノです!」涙ながらに強さを求める彼女を、簗瀬は手料理で励まし静かに支える。
由真を送って、簗瀬が病院に着くころには日が傾いていた。
「カズマー、いい加減起きたかー?」
重苦しい病室のドアを開けると、簗瀬は目を疑う。
ベッドの横、そこに座っている人物の背中。
「変わんねぇなぁ……。一応、教師だろ?」
「な、んで――?」
それ以上の言葉は出てこなかった。
簗瀬の前で、裕一が静かに頭を下げる。
「息子がお世話になってます」
簗瀬の頭は真っ白になる。
む、息子?
誰が? 誰の?
えっと……コバヤカワカズマ!?
「あ! お前、子供!?」
「血は繋がってないけどな。……年齢考えろ」
やれやれと頭をかく裕一。その仕草は昔と変わらない。
「突然姿消したと思ったら……! 何、突然現れてんだよ! 俺が、俺がどれほど探したと思ってんだ!」
ここが病室だということも忘れて、簗瀬の声は感情に任せて荒れた。
互いに言葉を失う二人。
薄暗い空気に、モニターの心拍音だけが響く。
カズマの意識は、まだ霧の中をさまよっていた。
「今までどこに……まさか!」
教官の声がする……?
ぼんやりとカズマの意識は薄く、遠く、なんとなく声が聞こえている。
思考は途切れ途切れで、はっきりとは繋がらない。
「アンダー東京は……今も、存在している」
カズマの耳に、安心する声がした。
ここにいるハズがないのに……まだ理解できない現実。
その違和感だけが、カズマ胸の奥でじんわりと重くなっていく。
「こいつの事、頼むな」
「なんだよ! 裕一! 逃げんのかぁぁぁ!」
踵を返した裕一に、簗瀬がまたも病室で怒鳴り散らす。
「……ん、……」
その声に反応して、カズマがわずかに身じろいだ。
「カズマ! おい、カズマ! しっかりしろ! あーもぉ、誰かー!」
裕一を追いかけることも出来ず、簗瀬は焦りで空回りする。
うるせぇなぁ。
カズマの意識が完全に戻るのは、そのすぐ後のことだった。
目覚ましの音がけたたましく鳴り響き、五月はしぶしぶ目を覚ました。
……布団からは出られない。
相変わらず寝起きが悪い。
子供の頃からずっとそうだ。
追い打ちをかけるように、二個目の目覚ましが爆音で鳴り響く。
「っるせぇ……攻撃かよ」
本来なら、日曜くらいゆっくり寝ていたいのに! 式典会議は休日返上だ。
学生寮の一室はワンルームマンションの作りになっている。
そのすべてに、生活用品は二人分ある。
洗面台にある歯ブラシは二本。
キッチンにも、色違いのお揃いのマグカップに箸。
同時に使うことはないが、二人分。
それがなんだか物悲しい時もあり、苛立つ時もある。
机の上には、由真から預かった手紙。
封はすでに開けられていた。
「……三月」
寝ている間に、入れ替わっていたのだと察する。
三月が表に出ているとき、五月の意識は完全に眠っている。
誰と、どこで何をしているのか、五月には分からない。
それなのに、三月は五月と同じ目で景色を見て、同じ耳で全てを聞いているという。
三月は、自分の意思だけで入れ替わることができるのに、五月にはそれも出来ない。
これが能力の差ってやつか。納得するしかないのか?
どうにも釈然としない。
手紙を勝手に読んでやろうかと手を伸ばしかけ……思いとどまる。
代わりに隣に置かれたノートを手に取った。
『イツキとミツキの交換ノート』
ふざけてミツキが落書きしたものだが、そんなに可愛いものではない。
二人で一つの体を共有すると言うコトは、会話が出来ない。
この交換ノートは何冊目だろう?
『カズマと由真と遊ぶ!』
一言だけ。
しかしページ見開き二枚いっぱいに、太字マジックでデカデカと書かれている。
五月は思わず顔をしかめた。
壁を見ると、制服の隣に服が一式用意されている。
気合いの入った派手なコーデ。
ノートと服を交互に見て……無言の『着ろ!』を理解する。
「マジかよ……」
頭を掻きながら、大きくため息を吐いた――逆らえるわけがないのだ。
カズマが目覚めてから数日、日常生活は問題ないと思っているが、どうも周りに気を使われている。
会場の都合で、式典会議が休日の午前中に終わると聞いた由真は、三月と約束を取り付けていたらしい。
由真が『お出かけ』に選らんだ場所はスカイ東京。
会議終了と同時に五月は三月とチェンジし、スカイ原宿でショッピング。
次は、高級ホテルのケーキビュッフェに連れてこられる。
一般市民レベル男子学生には、高級感に負けそうになる。
大きなソファで借りてきた猫のように落ち着かない。
「カズマ君! おススメ持ってきてあげるね。行こう、三月」
レストランのガラスに映る自分の貧相さに、カズマはなんだか恥ずかしい。
休日は必ず会館前で反対運動が行われている。
少しでも目立たないように、休日の会議は「私服で来い」と言われている。
……それなのに、今日の五月の私服は、華やかすぎて逆に目立っていた。
チェック柄のボンテージパンツに、装飾過剰なカットソー。そこまではいつも通り。
だが今日は、その上からシャツを重ね、アクセサリーまでじゃらじゃらと増量している。
バンドマンか何かと見間違うようなファッションに、顔をしかめるお堅い大人もいた。
「これ、変装ですから。こんな格好したヤツが国家プロジェクトの会議に出るなんて、誰も思わないでしょ?」
……その五月の一言で、なぜか納得してしまうのだから不思議だ。
由真は、いつもなら会議仕様の落ち着いたお嬢様ワンピース。
だが今日は、ほんの少しだけ明るい色合いの花柄を選んでいた。
さらに、いつもはまとめている髪を下ろしていて――その清楚さに磨きがかかっている。
そんな二人の密約など知る由もなく。
カズマはただひとり、冴えないTシャツにジーンズ姿で肩を落とす。
……もう少しマシな服あったよな。
中央カウンターテーブルに並べられた、大量のケーキを嬉しそうに選ぶ由真と三月を見る。
楽しそうによく笑い、話す二人は歳相応の女のコそのもの。
その視線に気づいた三月と目が合う。
嬉しそうに手を振られ、カズマは反射的に反対を向く。
なんなだよ! このめちゃくちゃ恥ずかしい気分は?
お読みいただきありがとうございました。
次回、ケーキブッフェは女子の戦場ですよ? 明かされるそれぞれの心情




