「私のランクはニセモノです!」--涙ながらに強さを求める彼女を、簗瀬は不器用すぎる“手料理”で励ます
前回のお話はーー
崩落現場で言い争う神奈川支部。そこへ幸太が180SXで乱入! 刺激的な熱いドライブへとエリーを誘い、炎を裂いてカズマを救出する。その姿にエリーは『運命の王子様』と完全に落ちていた。
地獄の野外訓練とトンネル事故に巻き込まれた翌日。
ピンポーン! ピンポーン! ピンポーーーーーン!
叫ぶ玄関チャイムは容赦なく簗瀬の安眠を破壊した。
郵便や宅配なら帰れ! 俺はまだ眠いんだ。
簗瀬はベッドの中で、夢と現実のハザマで完全無視を決め込む。
ピンポーン! ぴんぽんぴんぽん! ピンポーーーーーン!
更なる攻撃に耐えかね、というより苛ついて飛び起きる。
文句の一つも言ってやる――そう思って玄関に向かったその時。
……あれ? セキュリティゲートからの着信、多すぎねぇ?
最上階住民しか使えない『緊急来客コース』が連打されていた。
そんなもの、普通は使わない。使わせない。
つまり――玄関ドアを開けた瞬間、有無を言わせぬ迫力で、こじ開けるように由真が入って来た。
「カズマ君は、カズマ君の意識は戻りましたかッッ?」
「いや、まだ連絡はない……」
一瞬顔を曇らせたが、すぐにいつもの生徒会長スマイルを装備する。
「簗瀬教官、お話がありますの。失礼いたします! あ、コレお土産です。すっごく美味しいケーキなんですよ! どうぞ」
寝ぼけた頭のまま玄関を開けてしまい、気づけばケーキの箱を渡されていた。
……そこでようやく、はっと我に返る。
由真はすでに部屋の中だ。
ヤマシイ物は無いつもりだが慌てて後を追う。
「うわぁー。なんか意外。教官のことだから、もっと汚いと思っていました」
由真はリビングを見回して感嘆の声を上げる。
「どういうイメージだよ、俺は?」
「言葉通りです!」
にっこりとした鉄壁の天使スマイルだが……この小娘は顔に似合わず毒舌なのを寝ぼけた頭で思い出した。
もっとも、この毒舌は一部の限られた人間のみだと知ると、許せてしまう。
トンネル内でのことは、三月から粗方聞いている。
昨日の今日で、こんなトコまで押しかけてくる理由に察しはつく。
「景色キレイ! ね、教官! 先生ってお給料いいの? こんな高級マンションに住んでるなんて!」
「学校の寮だよ。こんなトコに住めるほどいいワケねぇーだろ」
煙草くわえながら、キッチンを物色する。
いつもはコーヒーだが、年頃の女の子は紅茶か? もらい物があったハズ。
紅茶を発掘し、やかんをかけて、ティーカップが存在しないことに気づく。
所詮、男の一人暮らしなんてこんなもんだよな、と頭を掻く。
黙ったまま窓際で景色を見ている由真の後姿は、制服と違って私服のせいか、少し大人びている気がする。
「紅茶でいいかぁ?」
「あ、お茶まで入れられるんですね! ありがとうございまーす」
『だからどんなイメージだよ!』と突っ込んでやりたいが、更なる毒舌が返ってくるのは分かっている。
ソファに座り紅茶を飲む由真は、清楚なお嬢様に見えて……マグカップで紅茶は申し訳ない気がしてしまう。
この罪悪感はなんなんだ!
「教官……あの……その……」
言い難そうに切り出しては黙る――を繰り返す由真に、簗瀬はどうしたものか? と迷う。
察しがついているだけに、言ってやるべきなのか、言わせるべきなのか。
ふと目に入った時計は昼を過ぎている。
腹が減った気がする。
簗瀬はキッチンに立つと、手際よく包丁を使い、野菜を刻む。
そんな簗瀬の手元を、由真はカウンター越しに覗く。
「料理も出来るんですの?」
心底驚いて目を丸くしている由真に苦笑するしかない。
ホントにどんなイメージかじっくり聞いてみたい。
フライパンを使おうと、背中を向けた瞬間に由真が切り出した。
「教官! 私のスペシャリストランクはニセモノです!」
面と向かって言えなかったのだろうと察して、淡々とそのまま料理を続ける。
「お前のは身体能力の評価だからホンモノだよ!」
「違う! 偽造ですよ。東雲家の人間が能力低いとマズイから。あたしの評価じゃない!」
東雲家、その名門一族の名はどれほど子供たちを苦しめるのか。
ホントに良く似た姉妹だ。
かつて教え子だった姉・薫を思い出しながらフライパンを揺する。
「あたしは……お姉ちゃんみたいに優秀じゃないから。でも、がんばってるつもりだから……評価されるなら、実力で評価されたいのに」
「ホラ、食え!」
由真の前に、出来立てのオムライスを差し出す。
歪んだが、ケチャップで『ゆま』の名前も書いてやった。
ベタ過ぎたか、由真はじっとオムライスを見つめたまま動かない。
「教……」
「いーからッ! 食え!」
簗瀬は訳が分からない恥ずかしさがこみ上げ、由真の言葉を遮る。
ダイニングテーブルに座り、由真はフーフー冷ましながらオムライスを一口。
「……おいし……」
聞こえるか聞こえないかくらいの小声を、簗瀬はしっかり拾い満足気に向かいに座る。
「美味いだろ?」
「まあまあですね」
返って来た答えが由真らしくて、コーヒーを噴出しそうになって苦笑する。
「なぁ、由真。一度決まったランクは変えられないんだよ」
「でも! それじゃ、嘘ついてるみたいで……」
『上げろ』と言った生徒は今までいっぱいいた。
しかし『下げろ』と言った生徒は始めてだ。
それほど、由真の正義感は強い。
「スペシャリストランクは、超能力ランクじゃない」
「わかってます」
「身体能力が認められているだろ?」
「わかってます」
「昨日はテレポート出来たんだ」
由真の食べる手が力なくテーブルに置かれる。
「でも、あたし、カズマ君置いてきちゃって……あたしが、あたしが……」
今まで我慢していたのだろう。
堰を切ったように泣き出す由真は、まるで幼い女の子そのもの。
「もっと、あたしに、力が……ち、ちからがッ……」
「あ、ホラ、ティッシュ。泣くか食うかどっちかにしろよ」
大泣きしながらもオムライスは食べる由真の前にティッシュの箱を置く。
「カズマは、きっと、大丈夫だ」
自分に言い聞かせるみたいに言うコトしかできない。
「カズマ君死んじゃったらどうしよう!」
「縁起悪いこと言うなよ!」
簗瀬は、ぽんっと由真の頭に手を置く。
「お前の能力が低いと知った時、あの二人は何か変わったのか?」
由真は言葉に詰まった。
能力が低いとバレたあの日。
カズマも三月も――本当に、何も変わらなかった。
『……超能力じゃなくても、それだけ動けるってスゴイんじゃね』
『うん、由真すごい! ホントだよ?』
トンネルの薄暗さの中で、迷いもなく言われたその言葉。
気を抜くと、今でも胸の奥がじんと熱くなって顔が緩んでしまう。
カズマが目を覚まさない状況で、こんなこと思うのは…… ちょっと不謹慎かもしれない。
それでも。
それでも、あの瞬間だけじゃない。
今でも――由真は、嬉しいのだ。
だからこそ、強くなりたい。
胸を張って二人の隣に立てる自分でいたい。
「納得するランクになればいいんじゃねぇか?」
「そのつもりですッ!」
いつもの調子で怒鳴られ、やっぱり気なんて使ってくれない。
簗瀬は肩をすくめた。
言いたいことは山ほどある。
あるが――。
教師ってやつは、こういう時に黙って飲み込むのが役目なんだろう。
そう思って、口をつぐんだ。
オムライスは完食だ。
これ以上の『ごちそうさま』がドコにある。
「俺のケーキもうまいぞ! 作ってやろうか、誕生日ケーキ?」
「……ご遠慮いたします」
軽蔑と興味のちょうど真ん中みたいな視線で見るのは勘弁してほしい。
カズマの事は気がかりだが、今は箱からケーキを出している由真に安堵していた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、簗瀬と裕一、10年ぶりの再会。簗瀬の知る真実とは?




