崩落現場に180SXで乱入する幸太にエリーの心が大暴走!? 炎を裂く救出劇に、エリーが完全に落ちた。
前回のお話はーー
崩落事故の救助現場で、由真は意識を取り戻す。だが、カズマの姿はない。 救助本部では茅ヶ崎エリーが命を懸けて救助に向かおうとする。福利厚生No1《神奈川支部》ついに登場!
プロフェッショナル・ジョーカー用のテントから、現場本部の騒ぎを見ていた陸が目を輝かせた。
「あっち揉めてるっすね! それより! なんすか、あのすんごい縦ロールお嬢様は!?」
「管轄は神奈川県なので、神奈川支部です。陸くんは最近来たから知らないかもですね。トップチーム・ロザリオの名物お嬢様、茅ヶ崎エリー。峰子の公式ライバルです」
葵がニヤリと峰子を見やる。その目はムフフと心底楽しそうだ。
「その公式ライバルってやめて。学生時代からの腐れ縁よ。ホントに嫌いなのよ! あの女」
「幸太さんを巡っての三角関係は、全女子の注目ですよ!」
「はぁ……」
葵の熱意に、峰子はもう反論する気をなくす。
事実は事実だ。
昔からエリーの幸太へのアプローチは直球だった。
絶対に気づいているくせに、のらりくらりとかわす幸太が憎らしい。
「アレ、人気カフェのキッチンカーじゃないすか?!」
「神奈川支部は福利厚生も人気も全支部NO.1です。陸くん! 少しは他チームや常識を覚えてくださいまし!」
「えー、別に興味ないし。……ねぇ幸太さん?」
そう言って振り返った瞬間、陸は気づく。
──そこにいたはずの幸太がいない。
あれっと思ったのもつかの間。
次に見たものに、三人は同時に頭を抱えた。
ゴォォォォォ……グォゥゥン!
スポーツカーの咆哮。
本部テントの横に、青い180SXがドリフトで突っ込んできた。
砂煙と焦げたタイヤの匂いが立ちこめる。
「うわっ! びっくりした!」
「わ、180SX!?」
ルナがドリンクを落としかけ、江ノ島が慌てて下がる。
「横浜隊長。ご歓談中に乱入する非礼をお許しください」
荒々しい車から降り立ったのは、正反対の温度をまとった幸太。
彼は一礼し、助手席のドアを開く。
「刺激的な熱いドライブに、ご一緒していただけませんか? エリー嬢」
キラキラの笑顔を向ける幸太はエリーの運命の王子様。
「どこまでもご一緒いたしますわ! 幸太様ッ!」
ご立派な縦ロールを揺らしながら、エリーは舞い上がり、何のためらいもなく助手席に飛び乗った。
嵐のような展開に、ロザリオの面々はただ黙って180SXを見送るしかなかった。
……そして数秒後。
フリーズしていたルナがようやく再起動する。
「てかさ、ご歓談中って言ったよね? 言い争いの間違いじゃね?」
「嫌味よ」
雅があっさり返す。ルナはきょろきょろとまわりを見回した。
どうやら気づいてなかったのは自分だけらしい。
「マジかぁー……」
やっぱ嫌な男だな……ルナは深々とチェアにふんぞり返った。
燃え盛るトンネルの中を、青い180SXだけが突き進んでいく。
外から見れば、まるで奇跡のような光景だっただろう。
進む先の炎が、まるで道を譲るように弱まっていくのだ。
「さすがエリー嬢。走りやすい道を開けてくれて助かるよ」
ハンドルを握る幸太の横顔には研ぎ澄まされた鋭い視線だけがあった。
アクセルが踏み込まれるたびに、エンジンが咆哮し、視界が揺れる。
エリーは、シートベルトを握りしめながら震えていた。
ああ、もう、このまま死んでもいいっ! と心の中で叫ぶ。
その高貴なる姿に見惚れて力が分散しそうなほど、幸太はかっこいい。
180SXは炎をすり抜け、最短で突き進んでいく。
幸太の走るルートだけが確かに安全な道へと変わっていた。
だが、その奇跡の光景をカズマはまだ知らない。
くすぶる炎より、煙の方がよほど厄介だった。
吸い込むたびに肺が焼け、頭がぼんやりと遠のいていく。
……もう、ここまでか。
そう思った時だった。
グォォォォォ……!
轟音とともに、炎の向こうから光が差し込む。
180SX!!
炎を裂き、まるで道そのものが屈服するかのように、一直線にこちらへと突き進んでくる。
「大丈夫? カズマ君!」
誰かの声が、夢の奥で響いた気がした。
次に気づいたとき、カズマは後部座席に抱え込まれていた。
目の前には、炎すら従わせるようにハンドルを操る幸太の横顔が見える
アクセルを踏み込むたび、車は獣のように咆哮し、炎が避けていく。
まるで奇跡を見ているみたいだ。
なんだよ、これ。かっこよすぎだろ。
胸の奥で、声にならない言葉が溢れた。
意識が闇に沈む最後の瞬間まで、その姿だけが焼き付いて離れなかった。
もっと、見ていたかったな……カズマの意識は静かに深淵の底へと落ちていった。
そして次の瞬間――トンネルの出口を、咆哮とともに180SXが突き破った。
炎を裂き、煙を蹴散らし、ドリフトで横付けされた車体の傍に、救助隊が駆け寄る。
カズマはすぐに担架へと乗せられ、運ばれていった。
助手席のドアを開け、手を差し伸べる幸太の手を、エリーは夢心地で取ると車を降りる。
「ご協力ありがとうございました。エリー嬢」
ハンドルを握る荒々しさなど、まるで幻だったかのように。
礼儀正しく一礼する幸太は、まさに王子様そのものだった。
どちらの幸太様も、素敵すぎますわ……!
ああ、ここはあたくしの手を取って、そっと口付けしてくださってもよろしいのに。
そんな妄想が脳内を駆け巡る中、
「また、お会いできるのを楽しみにしていますね」
彼は優しい笑顔だけを残して去っていった。
その言葉だけで、今日一日のすべてが報われた気がした。
「……リー? エリー? ねぇ、エリーってばッ!」
ヒロイン気分に浸るエリーへ、ルナの怒声が容赦なく飛ぶ。
「あたくし、幸太様と一緒に炎を駆け抜けましたのよ!」
誰に聞かれてもいないのに、エリーはドヤ顔で宣言する。
「はいはい、大丈夫そうだよ」
「……まあ、いつも通りだな」
雅が涼しげに肩をすくめるその様子は、まるで日常が戻ってきた証のようだった。
トンネル崩落は、奇跡的に死亡者を出すことなく解決した。
誰もが事後処理に追われながら、現場は静かに収束へと向かっていった。
お読みいただきありがとうございました。
次回、ちょっとだけ閑話休題? 由真と簗瀬の休日。




