《神奈川支部》ついに登場!! 救助現場で、由真は意識を取り戻す。だが、カズマの姿はない。 救助本部では茅ヶ崎エリーが命を懸けて救助に向かおうとするが――!!
前回のお話はーー
トンネル内で出会った謎の青年から三月に視える過去の記憶。全員が手をつないだ瞬間、仲間を守りたいという由真の強い願いが、奇跡を引き起こす!……がそう上手くはいかないよな。
「…………ま、由真!」
由真は懐かしい声にゆっくりと目を開けると、ぼんやりとした人影がハッキリ見える。
「ゆまッ!」
「……おね、ちゃん? あたし……」
幼い頃、木から落ちた由真を泣きながら名前を叫ぶ優しい姉が見える。
ホッとした表情を隠して、薫は無表情を繕う。
姉に支えられ、由真は寝かされていた救助用シートから、重くはっきりしない頭を押さえ起き上がる。
「教官! 由真が!」
「バカ野郎ッッ! どれほど、心配したと思ってんだよ!」
教官の怒鳴り声と、突然抱き締められた感覚に由真の心臓は跳ね上がる。
「少しは気ぃ使ってくれよ……教師が生徒の心配すんのは当然なんだよ!」
その腕の中で、由真はほんの一瞬、安堵する。
助かった。帰ってこれた。
けれど、その安堵はすぐに裏返る。
「カズマくんッ!」
気づいてしまった、あの時――。
「教官! カズマ君はッッ?」
「現れたのは、五月とお前だけなんだよ。五月は三月と変わってたから知らないっていうし……何があった?」
「あたしと、五月って……? あとお兄さんがいたハズなんです! 気弱そうなお兄さんで、銀色の髪をした!」
銀色の……髪……?
簗瀬と薫の目がとっさに合う。
ただならぬお互いの表情から、同じことを考えている事を察する。
「でも、あたし……フワッて体が浮いたみたいになって、カズマ君の手がすごく熱くて、つないでられなくて……離しちゃった……でも、ちゃんとお兄さんとはつないでたよ! 手!」
あの時、カズマに伸ばした手は届かなかった。
消えゆく意識の中で、カズマが手を伸ばしていた気がする。
「わ、私……手を……」
震える声で呟いた瞬間、あの時の痛みが右手を貫く。
自分の手が離れたから。
自分だけが、助かってしまったから。
安堵のぬくもりは一瞬で消え、罪悪感が胸を締め上げる。
由真の視線は、光の途絶えたトンネルの奥へと縋るように向けられていた。
トンネル内に闇が戻った。
あの時、まぶしい光に包まれ視界が真白に弾けた。
カズマは必死に手を伸ばす。
「カズマ君っ!」
由真の瞳が、苦しそうに揺れていた。
必死で掴もうとしてくる。
けれど――届かない。
次の瞬間、由真と三月の姿は光に溶け、トンネルの闇から消えた。
……まぁ、こういうこともあるだろう。
シン、と音が消える。
焦げ臭い空気と、冷えた闇だけが残るトンネル。
「さてと、どうするかな……」
肩をすくめて、ため息をひとつ。
不安も焦りもない。
――アンダー育ちはピンチに強い。
自分でもそう思うくらいには、図太く育っているらしい。
「納得できませんわッッ!!」
本部テントの布が震えるほどの声量だった。
その中心で仁王立ちするのは――
茅ヶ崎エリー。
炎のように燃える深紅の縦ロール。
ひと目で分かる『華やかさ』と『気の強さ』。
いや、もはや気品と暴走を紙一重で同居させたような、規格外の悪役令嬢スタイル。
まるで「この場の主役はあたくし以外におりますの?」と全身が語っている。
対するのは、きらびやかなヒロインではない。
SSS全女子の憧れにして、誰もが頭が上がらない絶対的エース神奈川支部隊長・横浜未来。
無駄のない立ち姿。
視線ひとつで雑音が消える、静かで研ぎ澄まされたカリスマ。
「火災が弱まるまでは待機。要救助者二名のために、何人を犠牲にするつもりだ?」
その声は低く、冷たく、完璧に整っていた。
普通なら、誰も逆らえない。
「そんなの、ありえませんわ!」
だが、エリーは違う。
ヒールを『コツン』と鳴らし、胸を張る。その仕草すら芝居がかっていて、やけに絵になる。
「救助待っている人がいるんですの! あたくしだけでも行きますわ! 諦めるだなんて――SSSの名折れですわよ!」
「馬鹿を言うな!」
未来隊長の声がテント内を一瞬で凍りつかせる。
気温が数度下がったかのような静寂。
その鋭い視線は、まるで刃物のように真っ直ぐ。
初めて、エリーが口をつぐんだ。
強烈な個性と絶対的カリスマ。
火花を散らす二人の中心で、空気はきしみ、誰も動けない。
神奈川支部、恐るべし。
張り詰めた空気を、ふわりとほどく声が飛び込んできた。
「エリーちゃん、気持ちは立派よ? でもねぇ、タンクローリーの薬品が原因なんだから……ほら、仕方がないわぁ。火って怖いのよねぇ」
ゆったりと仲裁に入ったのは鎌倉鶴子。
おっとり天然、柔らかオーラの塊だが、その落ち着きが『癒やし』なのか『単なるマイペース』なのか判断が難しい。
「ですから、あたくしだけで行きますわ! あたくしは火炎能力者ですもの!」
エリーが再び高らかに宣言すると――
「いやエリー、火、消せないじゃん」
遠慮ゼロの追撃が横から入った。
有名カフェのデリバリードリンク片手にディレクターチェアにふんぞり返り、自撮りアングルを研究中の相模原ルナ。
小悪魔ツインテールにわざとらしいウインク。
働く気はゼロ。
やる気よりSNSの『いいね』を優先するタイプ。
「救助現場ってバズるんだよねー。お、バズってる! 救助者、運が良ければ助かるんじゃない?」
自分以外のことは完全に他人事で、興味はすぐにスマホに戻る。
「弱めることはできますわよ! あたくしが行けば問題ないのではなくて!」
エリーが食ってかかると、また別方向から冷静な声。
「歩いていくの? 無理あるでしょ」
常に涼しい顔の川崎雅がコーヒーの紙コップを優雅に傾ける。
全体的に諦観をまとい、ストレス耐性が無駄に高い。
感情の波形が心電図より平坦な女。
「……江ノ島、どう思う?」
そして雅に視線を向けられたのは、神奈川支部ロザリオ唯一の男性、江ノ島大樹。
目つきは常に『眠い』の一歩手前の薄さで寝ていると勘違いされやすい。
鶴子におしぼりを渡し、ルナに充電器を用意し、エリーのサポートに奔走する雑用係である。
とはいえ、これでもれっきとしたドライバーだ。
攻撃系能力者とペアを組むのがSSSの基本で、仕事をサボりがちなルナの相方はレアケース。ほぼエリー専属と言って差し支えない。
すなわち――
一蓮托生。
運命共同体。
巻き込まれたら最後。
「……どうしましょうね?」
江ノ島は目をさらに細くし、乾いた笑いを漏らした。
「江ノ島! もちろん行きますわよね!? 助けを待ってる人がいるんですのよ!」
エリーはご立派な縦ロールをバサァッと揺らし、当然のごとく江ノ島へ詰め寄る。
「自分の正義感に、江ノ島の命まで巻き込むつもりか!」
横浜隊長の一喝がテントを震わせる。
「っ……」
さすがのエリーも事の重大さを理解した。
そして、しおらしく頭を下げた。
「そう……ですわね。あなたにまで命を賭けろとは言えませんわね。ごめんなさい、江ノ島」
暴走はするが、素直に謝れるのも彼女の魅力。
悪役令嬢ルックスなのに好感度が高いせいで、一部では「転生悪役令嬢」などと呼ばれている。
お読みいただきありがとうございました。
次回、名物お嬢様の憧れの王子様。脳内劇場はどこまでも続く?




