トンネル内で出会った謎の青年から三月に視える過去の記憶。全員が手をつないだ瞬間、仲間を守りたいという由真の強い願いが、奇跡を引き起こす!……がそう上手くはいかないよな。
前回のお話はーー
トンネル崩落で閉じ込められたカズマたち。絶望の中、由真は『テレポート能力』が偽装だったと告白する。それでも二人は何も変わらず、再び脱出の道を探しはじめる。
「ああ、よかった。話し声が聞こえて……」
突然、暗闇から声がして青年が現れた。
崩落に巻き込まれた人だろう。
確認したつもりだったのに、まだ要救助者がいたことに驚く。
「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」
反射的に由真が駆け寄ると、青年は安堵した顔でその場に座り込んだ。
「ワタクシたちは、SSS養成校の生徒です。ワタクシたちの仲間が先に出ていますから、救助はすぐ来ますよ。大丈夫ですよ」
「ありがとう。実は、暗いのが苦手でして……」
銀髪のきれいな眼鏡の似合う青年は顔面蒼白で震えている。
カズマと由真は、脱出方法をめぐって口論を続けていた。
だが三月には――正直、どうでもよかった。
簗瀬はいずれ来る。
来なければ、それまでのことだ。
「手、つないでくれますか?」
不意にかけられた声に、三月は顔を上げた。
青年は、穏やかな笑みを浮かべて両手を差し出している。
どこにでもいそうな笑顔――なのに、なぜか心がざわついた。
戸惑いながらも、三月はその手を取る。
冷たい。
けれど、ただの冷たさじゃない。
触れた瞬間、胸の奥までひんやりとした波が広がっていく。
――吸い込まれる。
水の底を覗き込んだような、澄んだ水色の瞳。
光を映すたびに、色がゆらめく。
人のものとは思えないほど、静かで、深くて、どこか哀しい。
ふわりと、軽いめまいに似た感覚が走った。
一瞬、呼吸の仕方を忘れる。
慌てて視線を外す。
けれど、ぎゅっと手を握られ、三月は再び顔を上げさせられる。
「視てください」
耳元で囁かれる声。
知っている!
心臓が跳ねた。
「僕のすべてを――あなたの、その目で」
その言葉に、三月の呼吸が止まった。
じっと瞳を見続けることで、その人の記憶を読み取る。
それが三月の『視る力』――。
SSSのリミッターで、今は封じられているはずなのに。
次の瞬間、視界がふっと滲んだ。
暗闇の向こうで、光の粒が生まれていく――。
次の瞬間、三月の中に流れ込むビジョン。
それは、相手の過去。
ッ!!!!
全身を駆け抜ける衝撃。
色鮮やかに映し出される一人の男の姿。
仕草。
声。
背中。
笑顔。
そのすべてを――三月は知っていた。
「僕は敵ではありません」
動くことすら許されない三月の耳に、青年が囁く。
その表情は、どこか満足げだった。
「本日はご挨拶だけ……。僕ならここから脱出できます。助けたいでしょう? あの方たちを」
水色の瞳が、カズマと由真に向けられる。
一瞬だけ、空気が張りつめた。
その色は、寒いほどに澄んでいる。
黙り込んで脱出方法を考え込むカズマ。
繋がらないスマホに苛立つ由真。
「二人には、何もしない?」
問いかける三月に、青年は執事のように一礼してみせた。
「トンネルの出口まで、皆様をお送りいたします」
雰囲気を一変させて、気弱そうな青年は震えながら由真に尋ねる。
「あの、本当にここから出られるんでしょうか?」
青年が、かすれた声で由真に尋ねた。
初めて出会ったときと同じ――気弱そうで、守ってあげたくなる存在。
その姿に、由真の正義感がビシッと反応する。
「もちろん、大丈夫ですよ! 必ず助けが来ますから!」
由真スマイル、全力解禁。
天使の笑顔で青年を手を握ると、その場の空気まで明るくなるようだが……
勢いで言ってんなぁ。
心の中でカズマは苦笑した。
しかし、由真が『いつもの由真』に戻った証拠だと安心した。
「手、つないでると安心しますね……」
青年がホッとした顔を見せると、由真のテンションはさらに上がる。
「ホラ、カズマ君も!」
「え?」
差し出された手に、カズマはフリーズした。
「手! 早く! カズマ君は三月とつないで。三月はお兄さんとつないで――ほらっ、早く!」
こうなった由真は止まらない。
手、握れって……。
差し出された由真のきれいな手……これを握れって??
カズマにはハードルが高い。
だが、従うしかない。
「三月も!」
由真が強引にカズマの手を掴み、さらに目で三月に促す。
三月も静かにカズマの手を握った。
こうして四人の手が輪を描く。
「円陣よ!」
由真が満面の笑みを浮かべる。
「ライブ前とかにアイドルグループがやってるでしょ? あれ、やってみたかったの!」
完全に自分のためだった。
同じことを考えたのか、カズマと三月の視線が一瞬合う。
やれやれ、と心で肩をすくめた。けれど嫌味はない。
「みんなでつながってると安心しますね。……ところで、SSSの生徒さんって、やっぱり超能力があるんですよね?」
青年の問いかけに――由真の心がギクッと跳ねた。
「え、ええ! もちろん優秀な方ばかりです。ご安心ください!」
嘘じゃない。
実際、SSSには優秀な超能力者が大勢いる。
……ただ、ここにいる自分は違う。
何もできない自分が、悔しかった。
もしも、力があったら……。
今だけでいい。
自分の大切なものを守るのがSSS――守りたい!
仲間を守れる力が欲しい。
由真の心が、強く願った瞬間。
熱い。
全身を駆け抜ける火照り。
まばゆい光に包まれて、四人の体がふんわりと浮かび上がる。
そして次の瞬間――。
激しい痛みが、カズマの両手を貫いた。
「ッ……!」
つないでいた由真と三月も同じだった。
思わず手を離してしまう。
何が起こったのか。
誰も分からなかった。
トンネル内で決死の消火活動が行われる中、簗瀬の叫びが響き渡る。
「はーなーせー! 俺は行くんだぁぁぁぁぁ」
「教官、危ないですよっ!」
「やなっちゃんが死ぬでしょーがっ!」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
体を押さえ込む幸太と陸を引きずりながら、簗瀬はトンネルに入ろうとする。
今回の危険性を考慮しプロフェッショナルジョーカーが出動したが、只今の任務は我を忘れた馬鹿のお守り。
「邪魔するなぁぁぁぁぁぁー」
鬼の形相で幸太と陸を振り払うと、今度は後ろから迫る壁に羽交い絞めされる。
「簗瀬! お前まで救助対象になってどうすんだ!」
厳しく一喝するのは、プロフェッショナルジョーカー隊長・大久保実。
御歳55歳にして鍛え上げられたムキムキマッチョは健在。
元自衛隊上がりの隊長は、SSSと自衛隊のパイプ役でもある。
今回の研修でも、古巣の自衛隊と協力して生徒たちを鍛え上げた熱血漢。
「お前の生徒だ! 信じてやれ!」
さすがの簗瀬も、この巨体に羽交い絞めされては身動き取れない。
やっとおとなしくなった、と思った瞬間、頭上に強い光を感じて目がくらむ……。
その光が収まると、目の前にはトンネルの中に居るはずの由真と五月が現れた。
お読みいただきありがとうございました。
次回、川崎支部トップチーム・ロザリオの名物お嬢様登場です!!




