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十年前の崩落事故――助けられた命と、残った痛み。あの日の轟音が、簗瀬の胸を再び揺らす。

前回のお話は――

トンネル崩落の中、生徒たちは無事に要救助者を助けることが出来た。その直後、犬猿の仲であった由真と五月がついに激突する。

 今にも一触即発で睨み合う二人の間に、必死にカズマが飛び込む。


「喧嘩してる場合かよ!」

「お前は黙ってろ!」

「カズマ君は黙ってて!」


 体制を崩して尻餅を着いたカズマを見た五月は小さく「うっ」と呻きよろめく。


「カズマッ! 大丈夫?」

「えっと、み、三月?」

「怪我、してない?」

 いつも釣り上がっている目尻は垂れ下がり三月と入れ替わっているのが分かった。


 そのころ、トンネルの外ではマイクロバスがトンネルを抜けた。


 SSS神奈川支部の救急隊やレスキューが救護体制完璧で待機している。

 救急隊員が生徒たちを労いながら、要救助者たちを救急テントへ運ぶ。

 重圧から解放され、要救助者となる生徒も数人いるが、軽症者しかいないのは奇跡のようだ。


 要救助者のために設置されたテントは、ずらりと並んでいた。


「大丈夫ですか?」

 そのテントの1つに、SSS所属の若い看護師が、様子を見にやってくる。

 中には、筋肉質な大柄の男がひとり座っていた。


「どこか痛いところはありませんか? それにしても、すごく鍛えていらっしゃいますね」

「タンクローリーの運転手なんてやってると、自然とこうなるんですよ。腕だけじゃバランス悪いんで、他も鍛えてたら趣味になっちゃいまして!」


 筋肉ムキムキマッチョの子犬系カワイイ笑顔――最強である。


「そ、そうなんですね。どこか具合が悪くなったら、すぐ言ってくださいね。あ、はい、お水です」


 看護師は顔を赤くしながら、そそくさとテントを後にした。


 静けさが戻ると、男はちらりと腕時計を確認する。

 そして、目を閉じた。

 思い浮かべるのは、あのタンクローリー。

 ハンドルの感触。ドアの縁の冷たさ。

 触れた記憶が、鮮烈に蘇る。


 バチン。


 指を鳴らす。

 目を開けた男の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。


 ズゴオオオオォォォォッ!!


 怒号のような爆音が、トンネルの奥から響き渡る。


 その音は、三人を迎えにマイクロバスで引き返していた簗瀬にも届いた。

 簗瀬は即座にブレーキを踏み込む。

 車体が揺れ、タイヤが軋む。

 ヘッドライトの先に広がる闇が、何かを孕んでいるように見えた。

 暗くて何が起きたか分からない距離。

 簗瀬はタンクローリーがあったことを思い出す。

 爆発したのだろう。

 火災が発生していては奥へは行けない。

 焦りを隠すことなく簗瀬の顔が歪むが、さすがは大人。

 判断は鈍らず、消防車を呼びにマイクロバスは出口まで全速力で引き返す。

 最悪のシナリオを考えてしまう自分を押さえ込むが、払拭出来ない。

 これじゃ十年前と同じだ!

 もう、二度と同じ想いはしないと誓ったハズなのに……。


 自分の大切なものさえ守れなくて――何がSSSだ。


「くっそぉ、俺は、俺はまた助けられないのかよッッ!」


 ありったけの大声で叫び、震える拳がハンドルを殴る。


 十年前。東京を襲った巨大地震。

 何度も続く余震に、街は壊れ続け、誰もがただ生き残ることに必死だった。

 政府は発生から七二時間を過ぎた段階で、救助活動を打ち切った。

 だが――SSSだけは違った。 

 政府の決定を不服とする警察や自衛隊の一部も、命令には従わず救助活動を続けた。

 今のSSSには、その時に命令違反で解雇された者たちも多い。

 当時は個人事務所だった『SSS影山探偵事務所』に過ぎなかった自分たちも、必死に現場へ走り続けた。

 助かる命、助からない命が次から次へと自分の横を通り過ぎて、何時間がたったのだろう?

 誰もが疲労で限界に近い状況の中、何度目かの余震で弱っていたトンネルが崩落した一報が入る。

 数台の車が閉じ込められているらしい。手渡された名簿に目を走らせ、簗瀬は息を呑む。

 そこには「聖新女子大学」の名があった。

 ――三ヶ月前、親友の妹が入学したばかりの大学だ。


 幼馴染みでもある親友の年の離れた妹は、生まれた時から見ている。

 ずっと一人っ子で兄弟が欲しかった願いが叶ったようで、本当の妹のように可愛い。

 小さい頃は『信二おにいちゃん』と呼んでくれたのに、大学生にもなると『信二さん』とその呼び名は変わり、少し寂しかった。


 その車に乗っているかどうか分からない。


 希望は、残酷に裏切られる。名簿の中に、その名はあった。

 なりふり構わず、必死に救助活動が夜を徹して行われ……また、ここでも助かる命と助からない命の落差を思い知る。


『こなっちゃん! 小夏っ!』


 虫の息で、親友・小早川裕一の妹、小夏は生きていた。


 生きていてくれた。


 全身傷だらけで、一刻を争う状況は予断を許さない。

 救急車に乗り込み、まだ被害の少ない神奈川の病院に向かう。

 小夏の手を握りながら、神に祈る。

 自分の命で助かるなら、喜んでこの命を差し出そう。

 悪いコトもいっぱいして来た。神に祈れる立場じゃないことは分かっている。

 それでも今は、このコだけは……。


『……………に…ちゃ、ん』

『こなっちゃん! 小夏っ! 大丈夫だから! 大丈夫だからな!』


 何が『大丈夫』なのか自分でも分からないのに、そんな陳腐な言葉しか出てこない。

 苦しそうに小夏は目をうっすらと開ける。


『兄ちゃんすぐ来るからな! 頑張れよ! ごめんな、兄ちゃんじゃなくて……ごめ』


 自分の不甲斐無さが悔しくて、救えなかった命はどれだけ自分の横を通り過ぎて行ったのか?

 自分の大切なものさえ守れなくて……何がSSSだ!


『あり、がと、う……しんじ、おにい、ちゃ、ん……』

『こ、なつ……?』


 簗瀬は押しのけられて、救急隊員が手早く処置をしている様を後ろから見ていた。


 神奈川の病院で緊急手術が間に合った小夏は、奇跡的に一命を取り留めた。

 しかし、医学的には外傷も異常もないのに、その足が動くことはなかった。

 医師は、地震によるPTSD――心的外傷後ストレス障害と位置づけた。


 もう少し、早く助けていれば……自責の念は今でも消えない。


お読みいただきありがとうございました。

次回は、明かされる由真の能力の秘密とは!

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