トンネル崩落の中、生徒たちは無事に要救助者を助けることが出来た。その直後、犬猿の仲であった由真と五月がついに激突する。
前回のお話はーー
野外訓練帰りのバスを襲う崩落の予知。迫る土砂、飛ぶ岩、叫ぶ教師! 生徒たちの命運は、カウントダウンと“ぽーん”に託された――!
その頃、マイクロバスの中では――。
生徒たちは、何が起こったのか分からないまま、必死に衝撃に耐え続ける。
アクセルを限界まで踏み込みスピード全開でも、所詮はマイクロバス。
速さも動きにも限界がある。
シルビアのようにはいかなくても、運転しているのは現SSS・No1と囁かれる簗瀬信二。
今魅せなくて、何時この腕を見せるんだ! と勢いに乗りながら、次々と車や落下物をすり抜けて行く。
音が無くなり落下物が無くなるとマイクロバスは停まった。
生徒たちは、永遠のような一瞬、ただ必死で耐えていただけだが、訓練で疲れきっていた体への負担は大きい。
「…………ッッ!」
先頭きって車を降りた簗瀬は、その惨状に言葉を失った。
目の前に広がるのは、あの日と同じ――絶望の光景。
再びその絶望が簗瀬を支配しようとした時、背後から容赦なく蹴り飛ばされた。
「邪魔です、教官」
呆然と立ちすくむ簗瀬を蹴り飛ばし、由真は周囲を見渡した。
外の惨状を確認し、すぐにバスの中へ視線を走らせる。
「みんな大丈夫? 怪我とか、動けない人はココに残って。これより、救助活動を行います。動ける人はお願いします!」
生徒会長らしく声を張り上げるが、動ける者は少なそうだ。
「とりあえず、状況を確認して……あ、救助要請した方がいいよな」
救助は無理かと顔を曇らせた由真の横で、カズマはテキパキと動き出す。
半分くらいの生徒は、気持ちを切り替えたようで立ち上がる。
「教官、本部に救助要請お願いします!」
由真を先頭に、生徒たちはバスを降りて救助に向かう。
その後姿を見ながら、簗瀬は一瞬でも絶望に苛まれた自分を正す。
自分は教師なのにナニをやっているんだ! 簗瀬信二!
「巻き込まれた人たちをココまで誘導。重傷者は、レスキュー来るまで動かすな。出入り口付近の現場確認!」
「はい!」
今出来ることを、その思いだけが全員を動かしていた。
幸い、平日の昼間は車が少ない。
タンクローリーと一般車が数台、ちぐはぐな方向を向いて停まっている。
落下物に直撃された車はなく、大惨事にはならなかったようだ。
それでも巻き込まれた人たちの精神的ショックは強く、生徒たちは出来るだけ平静を装い励ましながらバスに乗せる。
簗瀬の神業と言えるテクニックで、マイクロバスには傷一つない。
この非常時に定員人数など関係ない。
「姫川君!」
確認できる車の救助が一区切りつき、全員がマイクロバスに乗り込む。
最後に乗り込もうとした五月の背中を由真が止めた。
「あなた、予知能力者なんでしょ? トンネルに入る前に全ての車を停めていれば、こんな被害を出さなくて済んだんじゃなくて?」
SSSランク最高位のイツキは能力が高いハズなのに……由真は沸々と湧いてくるような怒りを無視できない。
批判の目を真っ直ぐに受け止めて、五月は嘲笑う。
「お前、何様? 自分が無傷なんだからそれでいいだろ? 他人なんて助けたってなんにもならないんだよ」
「なッッ! あなた――」
「由真!」
怒りで我を忘れている由真を制して、簗瀬は二人の間に入る。
これ以上、イツキを責めるな……簗瀬の瞳がそう言っているように見えて、由真は更に炎上していく。
私の方が正しいはずなのに!
「怪我をしている人もいるんです。教官は先にトンネルを出てください。私は最終確認のため、もう一度見てきます。助けを待っている人がまだいるかもしれない」
頑なに自分の正義を貫こうとする由真は、奥に向かって歩き出している。
「おい! 由真っ! ったくしゃーねーなぁー」
止めても止まらないのも分かる。
確かに、怪我人は一刻もはやく救急隊に引き渡したい。
トンネルの外まで運んですぐに戻れば、数分で戻れるハズだが……どうしても簗瀬には嫌な予感が付きまとう。
「オレも行く。まだ走れる車もあったし、怪我をしている人がいたら運べるし!」
振り向きながら簗瀬に叫んだカズマは、由真の後を小走りで追いかけて行く。
カズマの背中を見送りながら、一刻も早くこの場に戻ってくればいい。
そう自分に言い聞かせて、簗瀬はマイクロバスに乗り込んだ。
「東雲! 待てよ、東雲っ!」
早足でムキになって歩く由真に、カズマはやっと追いついた。
半歩遅れて、カズマはわざと由真の後ろを歩く。
「……姫川君は、超能力があるのに……」
「うん」
「助けられる力があるのに……」
「うん」
「その力を否定してるみたいで……どんなに求めても、手に入ら……」
悔しくて、どうにも出来ないことが歯痒くて……その声は湿り気を帯びていく。
顔の見えない位置から、カズマは付いて行く。
入学したての頃のカズマなら、パーフェクトな生徒会長のこんな姿は驚いたかもしれない。
でもこの数週間、一緒に過ごした時間がある。
『SSS養成校生徒会長』と『由真』という肩書きの違い。
本当の由真は……。
物音のしない、明かりも懐中電灯だけの静かなトンネル内に二人の足音が響く。
その足音に混ざる足音を感じて、二人は振り返った。
「なんだよ、来たんだ」
「……定員オーバー、乗れなかったんだよ!」
不機嫌そうにポケットに手を入れて目を合わせようとしない五月に、カズマは「この非常時に定員オーバーはないだろう」と苦笑する。
「自分だけ助かればいいんでしょう? さっさと行けば! 方向が逆よ? 暗くて方向が分からなかった? 懐中電灯貸しましょうか?」
「ああ、別に、誰が生きようが死のうがボクには関係ないね!」
ぱーんと音がして、由真が五月の頬を殴った。
その速さは、平手だったのか、拳だったのか、カズマには見えない素早さ。
殴った由真の手は、拳になっている。
その前に! この美少年顔を殴れるとかありえないだろ!
「ナニするんだよッ!」
「あたしたちはSSSなのよ!」
お読みいただきありがとうございました。
次回、10年前の地震時に起きた簗瀬の過去。助かる命と助からない命……




