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野外訓練帰りのバスを襲うトンネル崩落の予知。迫る土砂、飛ぶ岩、唸るマイクロバス! 生徒たちの命運は、カウントダウンと“ぽーん”に託された――!

前回のお話はーー

愛車180SXを修理に出した幸太は、代車を拒みカズマの車に同乗する。 穏やかな走行の中で、眠りに落ちた彼は―― 裕一と過ごした懐かしい日々の記憶を夢に見る。

 SSSの任務は、無限と言えるほど様々な種類がある。

 一般知識として基本は最低条件。

 養成校では、広く浅くその基本を学ぶことが重視される。

 学校内で出来ないことも多く、野外活動も定期的に行われている。


「実に有意義な野外活動だったなぁ!」

 一クラスが乗れる大きさのマイクロバスを、簗瀬は上機嫌で走らせる。

 バックミラーに映る生徒たちは口を開く気力もなく、ぐったり静まり返っている。

 超能力主義のインテリ優等生ほど、体力が無いのは定石。

 根拠はないが、馬鹿ほど体力は強い場合が多い。

 その例に漏れず、簗瀬は立派な体力馬鹿だ。


 学内では出来ない山岳部での野外活動。

 6月に毎年、新入生に課せられている恒例行事だが、自衛隊が全力で協力してくれるありがたいプログラムは自衛隊そのもの。

 迷彩服がズラリと並ぶ姿は圧巻通り越して最後には恐怖になる。

 トラウマを抱える者も少なくないと言われるくらいその内容は過酷だ。

 生意気な口を叩いている奴らが、顔面蒼白で魂抜けかかっている姿は愉快だ。

 毎年の事ながら、帰りの運転は最高に気分よく鼻歌でも歌いたい気分。


「静かだなー、寂しいなぁー。遠足のバスはにぎやかにしようぜ? こんな静かだと眠くなるだろー。キレイなバスガイドさんいたらなぁ。由真、お前で我慢してやる。歌え!」

「はぁ? なんですの? その適当さ! 勝手に音楽でもかけといてください」

 さすがの生徒会長も、体力には限界がある。

 引きつった笑顔で言い捨てると、アイマスクを装着して徹底無視。


「過酷な訓練の後に運転してんのよ? 俺だって寝たいのよ。少しは気ぃ使えよぉー。カズマぁ」

「知らねぇよ」

 運転席後ろのカズマは限界というより、教師の扱いが雑なだけだ。


 昼休みにサーキットで練習していたカズマのクラウンEV。

 あの時、確かにコイツはドリフトをした。

 あれは、偶然だったのだろうか?

 教習や送迎用のセダン車は慣れているとして、今回始めてオフロードでの自衛隊用ジープさえも乗りこなし、クラスで1番と認める動きを見せた。

 この上達の早さは異常だ。

 もっとこう、走りに特化した車――スポーツカーに乗せてみたくなる。

 思考の長く続かない簗瀬にとって、静まり返った車内は退屈この上ない。


「俺だって寝たいのよぉ」

「教官、ウルサイ!」

 運転以外の全ての訓練で高得点を叩き出した由真の運動能力は見事ではあるが、体力の消耗も高得点。

 由馬に怒鳴られた簗瀬は、「少しは教師を敬えよ」と文句を言いたい。


 車内は静まり、寝息やイビキが聞こえカズマも退屈にウトウトし始める。

 平日の昼間は車も少なく流れはスムーズだ

 単調な運転に、簗瀬は飽きて大きく欠伸を一つ。

 長いトンネルを抜ければ、スカイ東京はもうすぐだ。


 トンネルに入ると、一定間隔のオレンジのナトリウムランプが感覚を麻痺する。

 かつて首都高のトンネルを150キロ以上のスピードで駆け抜けると、光はオレンジの筋となり時空をワープしているような錯覚に陥った事を思い出す。

 同乗者の多いマイクロバスの80キロ程度の速度では、オレンジの光は、独立した単体として認識できる。

 時折、あの光の世界が恋しくなる。

 愛車シルビアで一人だったら、アクセルを踏んでいたかもしれない。

 そんな自分が可笑しくなり、自嘲気味に笑う。

 自分は何を求めているのか?


 ――その頃。


 平日、午後。

 梅雨目前の貴重な晴れ間は穏やかな青空が広がっている。

 山間に作られた高速道路のトンネル入り口。


 崖の縁に、ひとりの男が立っていた。

 目的の数台の車がトンネルに吸い込まれていくのを、ただ黙って見送る。

 ……後続車はない。音もない。


 その時だった。


 崖面に吹き付けられたコンクリートが、わずかに震える。

 振動が広がり、表面が盛り上がる。

 ひび割れ――鉄筋がねじれ、悲鳴を上げた。


 そこに突き立ったのは、氷の槍。

 鋭く尖った氷柱が次々と屹立する。

 あまりに美しく、そして異様な光景。


 だが、次の瞬間。

 その氷柱が粉々に飛び散ったと同時に激しく崖が崩れ落ちる。


 崩落の轟音が山を揺らす。

 だが、その中心に立つ男の周囲だけが、まるで音を拒絶していた。

 空気が凍りつき、世界が息を潜める。

 そこにいるのは、ただ一人。

 音すら拒むかのように、世界から隔絶された男。

 残されたのは――白い静寂だけだった。


 マイクロバスの一番後ろの席で、隣に座る者もなく黙って頬杖をついて五月は景色を眺めていた。

 山中を走る高速道路の緑深さが瞬間的に歪む。

 オレンジの光、トンネル? そう認識しようとした瞬間、五月の中に流れるヴィジョン。


「簗瀬ェッッ!」

「教師を呼び捨てかよっ! 少しは敬え……」

「トンネルが崩落する!」


 その叫び声に生徒たちも目を覚ます。

 生徒たちは、今トンネルにいることすら分からない。


「マジ? どこから?」

「後ろ!」


 イツキの能力を簗瀬は熟知している。微塵も疑うことなく運転をする姿勢を構える。


「トンネル?」

「崩落?」

  突如飛び出した言葉に、生徒たちはパニック寸前だった。


 生徒たちが騒ぐ中、簗瀬は冷静に一番後ろの五月に集中する。


「全員掴まってろよ! 五月、カウント!」

「5!」

「イキナリ5かよ!」憎まれ口を叩きながら、簗瀬はハンドルを握り五月のカウントに全神経を集中する。

「4、3、2……来る!」


 カウント通りに、後ろからドーンと何かが爆発したような音が迫ってくる。


 がけ崩れの衝撃が、トンネルの奥まで響いた。


 その音を合図のように受け取ったのは、最後尾を走るハスラーだった。

 運転席のピンク頭の青年は、にやりと口角を上げる。


「よし、始まりますよ~」


 妙に楽しそうにハンドルを叩く手に力がこもった。

 その後部座席では、銀髪の男が静かに微笑んでいる。

 微笑みの圧力……車内は微妙な緊張感に包まれる。


「絶対に車に当てないようにね。安全に落として! ――土属性の力、見せる時!」

「む、む、むりだよぉ~っ!」


 呼ばれたオレンジ頭の青年は、半泣きで首をぶんぶん振る。


「大丈夫。天井を“ぽっ”と摘まんで、“ぐっ”と岩にして、“ぽん”と落とす。これでいけるでしょ?」

「ぽっ……ぐっ……ぽん……?」


 運転席からの抽象的すぎるアドバイスを、そのまま指先に込めてみる。

 ――じわじわと、前方の天井が砂となって崩れ出し、宙に漂った。


「そうそう! ぐっと握って!」


 オレンジ頭が拳を作ると、砂はひとつの岩塊へと変わる。


「上手い! じゃあ、そのままマイクロバスの前に――ポーン!」

「ぽ、ぽーん……」


 人差し指を下に振り下ろす。直後、岩がマイクロバスのすぐ前へと落下した。


「あっ……!」


 二人同時に声を上げる。


 マイクロバスはギリギリでハンドルを切り、岩をかわして加速していった。


「よしッ! あの運転手、なかなかの腕ですな! はい、次いきましょう!」

「えぇっー、もう無理だってばぁ!」


 ハスラー内では「ぽつ、ぐっ、ぽーん」の掛け声が繰り返され、次々と前の車、数台に岩が降り注いでいく。

 その軽快な声は、まるで歌声のように車内に流れていた。


お読みいただきありがとうございました。

次回、由真のいら立ちがMAXに! 『SSS養成校生徒会長』と『由真』という肩書きの違いは……

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