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突然ナビが暴走!? 式典送迎のはずが《プロフェッショナル・ジョーカー出動要請》に巻き込まれたんだが!?

前回のお話はーー

勝負に敗れ、初めて“負け”を知るカズマ。 完璧なGT-Rを前に、己の未熟さと向き合う。 再び“上”に戻る決意が、静かに燃えはじめた。

「カズマ君。スカイ東京中央会館で2時から打ち合わせですの。遅れると失礼ですから、1時に校門前にお願い出来るかしら?」


 式典の代表が由真と五月なのは当然の事と、誰も疑問に思わなかった。

 しかし、それ以上に話題をさらったのは、カズマが送迎運転手に抜擢されたことだった。


 校長の説得が効いたのか、五月も打ち合わせには参加している。


 本来なら――待ち時間は車の中で寝ているつもりだった。

 だが、気付けば会議室の隅にカズマ用の椅子が用意されていた。


 ……完全に巻き込まれている。

 どうにも腑に落ちない。


 参加する立場じゃない会議を、ただ眺めているだけ。

 正直、退屈だ。


 そんな中。

 大人たちを相手に、堂々と意見を交わす由真の姿が目に入る。


 ――同じ年齢とは思えない。


 五月は気に入らないらしく、終始黙ったまま。

 けれど、笑顔だけは貼りついている。


 その笑顔ひとつで、美少年はうまく立ち回る。

 好印象は、崩れない。

 ……あれで印象崩れないんだから、ずるいよな。


「ちょっと姫川君。発言してとは言わないわ。そのかわり、私の意見を押すとか、賛同してくれてもいいと思うんだけど?」


 帰りの車内は、由真のオンステージ。

 会議でヒートアップしたままの勢いだ。


「ハイハイ。賛同できる意見があったらね」


 たまに五月が反応しても、由真を逆なでするだけで会話とは言いがたい。

 カズマは運転しながら時折ルームミラーでこっそり様子をうかがう。


 まるで水と油のように仲が悪い2人。


「面倒くさいなぁ、君は」

「だから、少しは会話しなさいよ。生意気だわッッ!」


 完全無敵の生徒会長である由真が、己の感情そのままにぶつける姿は貴重だ。


 特区SSS。

 昔はお台場という観光地だった。


 巨大地震で壊滅した後は、埋立地全てをSSSが本部としている。

 敷地内には、学校や病院、ショッピングセンター……生活に必要な施設はすべてそろっている。


 地上350mのスカイ東京から特区SSSに入るには、スカイ首都高が緩やかな螺旋の下り坂になりレインボーブリッジに入る専用道路になっている。

 レインボーブリッジ入口にゲートがあり、SSSの許可がないと入れない。


 由真は、レインボーブリッジゲートが近づくとスイッチが切り替わるように大人しくなり生徒会長の由真に戻る。


 ……二重人格。

 あの日のこと、ちゃんと五月に謝れていない、

 何度か言おうとしたが、本人にはぐらかされて逃げられたら引くしかない。



 カズマは毎日、昼食も歩きながら済ませてサーキット場へ向かう。

 教習用のクラウンEVが並んでいる。


 エンジンとモーターでは、走り出す時の音でその違いを思い知らされる。

 あの心臓に直接響くようなエンジン音が恋しい。


 その走りを、スタンド席の一番上から見つめる人物――。

 簗瀬は苦々しい顔で頭を掻く。

 立場上、禁煙の場内に逆らう訳にはいかず、そのくわえ煙草に火は付いていない。

 あの車の動きには、ひっかかるものがある。


 イイ女の代名詞みたいなヒールの足音を響かせて、学校トップは隣に立つ。


「なんで校長がここに居んスか?」

「あのコ、どぉ?」


 電子煙草を指先にはさみ、出来る上司の出で立ちで質問を質問で返す意味深な含み笑いは少女のようだ。


「どうもこうも……なんっか、どーも腹立つんスよ、あの動き!」


 三十代後半やんちゃ盛り。ボキャブラリーは十代と変わらない。

 心底歯痒い己の心情に苦悩する。

 クラウンEVは、上から見ていても完璧な走りをしている。

 これなら、すぐに要人クラスを乗せても大丈夫だろう。

 生徒の成長は、教育者としては喜ぶべきなのに、素直に喜べない自分の小ささが気に入らない。


 丁寧に走っていたクラウンが急速に加速しながら、コーナーに向かって行く。


「あの馬鹿ッッ! 突っ込む気か!」


 手すりギリギリまで身を乗り出した瞬間、クラウンEVがドリフトでコーナーの壁スレスレを掠める。

 その動きは自然で、ブレることなく決まる。


「!?」

「へぇ。ヤルじゃない!」

「あ、いや、教えてないっスよ。まだ仮免子供相手にあんなの!」

 俺は教えていない!!

 ドリフトはカードライバー専攻科の授業内容だ。普通の授業で教えるハズがない。


「あの動き、ナニか……感じない?」


 初心者がドリフトをキメた。

 偶然か? 我が目を疑うしかない。

 しかし、やっぱり、それ以上に!


「あああああああああ、ムカつくッッ!」


 簗瀬は煙草を片手で握りつぶす。

 火がついていなかったのが幸い。

 理論理屈より感情が先立つ男、簗瀬信二。

 たとえ火がついていても握りつぶしただろう。


 その答えに校長・冴子は満足し、ニタニタ笑いながら去って行った。


「ちょっと姫川クン。人が話してるのにゲームって失礼じゃない?」

「黙れ」

「なんなのよ、その態度。失礼でしょ!」


 今日も後部座席の由真オンステージは絶好調だ。

 一方的に五月に捲くし立てるが、無視され続けるとカズマにも同調を求める。


 国家プロジェクトの式典は、休日返上で会議に呼ばれる。

 朝から始まった会議は珍しく早く終わり、明るいうちに帰れそうだ。

 学校へ帰ったら、サーキット場で練習して……これからの予定を考えていたが、突然バチンとドアがロックされた。


『はいはーい。初めましてぇー』


 突然、ナビがお姉さんに切り替わる。

 インカム装備のキレイなお姉さんは、ニコヤカなキャンギャル笑顔で手を振る。


「な、ナニ……!?」


 後部座席から由真がぐいっと身を乗り出してくる。

 耳に息がかかりそうな距離。

 一瞬で心臓がバクバク鳴り出した。


 なんでこんな近いんだよ!?

 ドキドキして顔が熱くなる。

 平気なフリしているつもりだが……誤魔化せていない。


『プロフェッショナルジョーカー付きオペレーター・水無月葵(ミナヅキアオイ)です。姫川五月様、出動要請です。運転手・小早川カズマ様、これよりナビ通りに現場までお願いいたします。五月様が四の五の言いやがりましても全力で無視してください。ちなみに、ドアロックは現場到着が確認されないと解除されませーん。それでは、スタートぉ』


 一方的に用件だけ述べると、ナビは動き出していた。

 進行方向を映すモニターに誘導の矢印が動く。


「カズマ君、行くわよ。行かないとドア開かないんだから仕方ないわよぉ」


 え? オレって、送迎任務だけのはずだよな!?

お読みいただきありがとうございました。

次回は、メインキャストのひとり、三月がやっと登場します。

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