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いきなりスカイ東京に置き去りにされた……なんでオレ、SSS養成校に強制入学してるんだよ?

 東京は死んだ。


 西暦20xx年7月7日夕刻。

 首都直下型地震はすべてを壊した。

 突然付き上げるような衝撃は一瞬で、何が起きたか分からない。

 高層ビルが崩れ、地上にはガラスの雨が降る。

 あちこちで爆発音が響き、火の手が上がる。

 体感、光景、音……その全てで人々はこれが地震だと気が付く。

 揺れが収まり、我に返ると電気も通信もライフラインが断たれている恐怖に襲われる。


 逃げる――ドコに?

 助けて――誰に?


 叫びも、祈りも……届かない。

 各所で上がった煙は、まるで魂のように空を覆い尽くした。

 7月7日――織姫と彦星が出会えるはずだった空に星はない。

 絶望の中で見上げる空に、星はない。

 闇だけが支配する暗黒のように……。


 スター・ロスト・タナバタ。


 星の光さえなくした日。


 日本政府が――死んだ夜。


 ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ 


 十年後――。

 都市を崩壊させた巨大地震から10年。

 東京は、巨大地震から復興した都市として世界的な観光地になっている。

 世界中を注目させた新都市は、空に浮かぶ都市――スカイ東京。

 大都市と呼ばれる都市ひとつが崩壊したのだ!

 瓦礫処理など不可能に等しい。

 それより復興を優先した政府は、その上に都市を建設することを選んだ。

 東京23区

 江戸川区から大田区まで『C』の型に強力な支柱に支えられた地上350メートルの空中都市。

 東京中心の高層ビルが倒壊した姿は、観光の目玉と言っても過言ではない。

 高層ビルが崩れた中央区周辺は、ご丁寧に上から見下すように瓦礫が見える作りが悪趣味。

 巨大地震から立ち上がった日本のパフォーマンスは、やり過ぎなくらいがちょうどいい。


『地震を未来への教訓として』


 瓦礫を見せることで、海外からの観光客にわずか10年足らずで復興した国家力と建築技術を強烈にアピール。

 復興のためには莫大な費用がかかる。

 国の中心都市が崩壊することは、国の崩壊を意味する。


 破綻した国の行き先は、世界のテーマパークになる事。


『ようこそ! 世界最先端の未来都市・スカイ東京へ』


『地震から復興した未来の国』


 最大の魅力は安全・安心・エコロジー。

 原子炉は全て廃炉とし安全性を、地球を汚すエネルギーも徹底排除し、発電は最先端技術によるエコ発電……。


 まさに世界が!

 時代が求める国!


 日本は、世界の最先端都市という仮面をかぶった。


 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー


 震災前、お台場と呼ばれた場所に、SSS養成校はある。


 広大な敷地の一角。

 学内サーキット場。

 

 狭い車内には、ツンとしたガソリンの匂いが漂っている。

 チチチ……鍵を回すと、グォン! とエンジンが唸り震える。

 鉄の獣の咆哮のような重低音が、胸の奥の『何か』と共鳴しーー心地がいい。

 空気が震え、轟音が全身を駆け抜ける。

 全身を流れるように、マフラーの奥から吹き出す熱と音。

 体が車と同化した瞬間、『それ』は目覚める。


 それが車ってもんじゃねぇのかよ!


 音のしないEV車。

 いつも明るい世界。

 空は高くて青い……。


 こんなのッ!!


 サーキット場で行われる、カリキュラムの運転講習。

 校内とはいえ本格的な作りで、毎年カードライバーたちの競技やコンテストなどが行われている。

 車が衰退しAIカーが主流だが、車は人が操るという理念は創設時より変わらない。


 助手席の教官は、高速で迫ってくる壁を、悟った目で眺めている。


 ああ、なんだか懐かしい感覚。

 そうだ!

 花やしきのジェットコースターだ!


 ガンガンに体が振り回されるスピード感。

 スリル!

 大好きだったなぁ。

 懐かしい、あの頃が見える……って!

 待て、待て。

 この動き……コレ、車だよ。

 クラウンEV。

 ごく普通の教習車。

 元首都高の走り屋として、スピード感、スレスレの壁は慣れているが……。

 コレは、一般大衆車の動きじゃねぇだろ!


「スピード出し過ぎ!」


 チッ!

 運転席で小早川カズマ(コバヤカワカズマ)が返事の代わりに舌打ちを返す。


 教師に向かって舌打ちかよ、この野郎!

 齢三十後半にして、昔はヤンチャだった雰囲気が抜けない運転教習教官、簗瀬信二(ヤナセシンジ)は露骨にムカついた顔。


「お前さ、無能力なんだろ?」


 全てを変えた巨大地震は、人の能力も変えてしまった。

 地震直後から、『超能力』が目覚める人間が現れた。

 ほとんどは子供に多く、専門家は『地震による精神的苦痛からの突然変異』と位置づけた。


「能力ないヤツがSSS(ココ)で生きてくのに車の運転は重要よ?」


 SSS――スペシャル・シークレット・サービス


 元々は政府が国民の信用回復のために作られた施策だった。

 巨大地震以降、警察や自衛隊よりも早く現場に入り、国民からの信頼で名を上げた。

 今では国から警察と同等の法的権利が与えられている治安維持企業だ。


「能力者じゃないんだから、関係ねぇだろ? 国の管理」

 大きな声では言えない事も、ここは車の中。

 つまり密室!

 生徒を知るにはこれ以上のチャンスはない。


「ココに入ればリミッター外れるからなぁ」

 流行病のように増えていく能力者に脅威を感じた国は、その能力を制御する特殊な『リミッター』で存在と能力を管理している。

 超能力は震災時に子供だった者に多く、医師は震災のPTSDと位置付けた。

 子供たちは、義務教育卒業時に国からの管理の象徴である『リミッター』について選択させられる。

 国の管理から逃れるには、SSSに入り『国家に忠誠を誓う』こと。

 ……結局は永遠に自由になることは許されない。

 そんな子供たちの学び舎が『SSS養成校』である。


「まぁ、超能力をより強くしたい! なんて奇特な奴もたまにはいるが……」

 SSSは、能力を活用するための『ブースター』を独自開発し、任務に活用することで国をもしのぐ力を手にしている。


「あ、アレだ? 正義のヒーローに憧れちゃってる、のかー?」

 警察+自衛隊+探偵業=正義のヒーロー企業。

 子供たちの憧れで、テレビ、ネット、街頭広告、どこを見てもSSSの名が躍る。

 日本中に支店を持ち、新人育成のための養成校はエリート校として人気が高く、能力を持たない者でも受け入れている。


 ニタニタと笑う簗瀬にいら立ちを隠せないカズマは声を荒げる。


「来たくて来たんじゃねぇよ! こんなトコッッ」


 大人の上手。

 からかいにまんまと引っかかったと大人は笑う。


「だよなぁ、その反応!」


 それ以上は聞かない簗瀬に見透かされてるようで面白くない。


「好きなんだろ、車?」


 見透かされてるようで……気に入らない!


 ぐぉんと簗瀬の体が重力を感じると、高速で目の前に壁が迫ってくる。

「カベ、壁、壁だよ!」


 カズマがハンドルを動かすと、白い車体はデタラメな動きで壁に向かっていく。


「いや、だからさ、余計に近づいてどうすんだよ? スピード落とせ、スピード!」

「スピード、ねぇ…」

 加速しやがった!!

 スレスレの壁が流れていく感覚が速くなり、体により重力を感じる。

 まぁまぁ、思春期の反応っでヤツだな。

 うん、わかるよ? 俺、大人だし……。


「だからブレーキだって! アクセル踏んでどうすんだよっ。ブレーキだよ! ブレーキ」

「ブレーキ、ねぇ? あ! ブレーキってどこ?」

「左だよ。左を踏めっ」

「ひだりってどっちだっけー?」


 車はますます滅茶苦茶な動きを繰り返す。

 ……他に教習中の車がいないのが不幸中の幸い。


「左? えっと、箸持つのは右だろ? 左ってどう言えばいいんだ?」

 簗瀬はスピードが加速し、壁が迫ったり離れたりを繰り返す中でふと考えに夢中になる。

 AT車において、足で操作するのはアクセルとブレーキしかない。

 右か左。

 アクセルとブレーキ。

 ………

 愛車シルビアはMT車だ!

 運転は体で覚えるモノ!

 AT車なんて乗ったことねぇんだよ!


「あーもー面倒くせぇ」


 シートベルトを外すと、簗瀬は身を乗り出し運転席を後ろまで下げる。

 それと同時にカズマの体が、ハンドルからもブレーキからも遠ざかる。


「だからAT車は嫌いなんだよぉぉぉ」

 教習車特有の助手席のブレーキを踏み込みながら、片手でハンドルを操作する。

 クラウンEVの車体はギリギリのところでやっと停まった。


「つまんねぇ……」


 心底つまらなそうな仏頂面で車から降りたカズマに、露骨に笑い声と皮肉がかけられる。

 クラスでも超能力が高い優等生グループだ。


「だっせぇなぁ」

「無能力、だからねぇ?」

 カズマがイジメの対象になっているわけではない。

 分かっているからこそ、カズマは無視を貫くが本能的に舌打ちしてしまった。


「次の教習、よろしいかしら?」


お読みいただきありがとうございました。

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