第14話『薬師寺さんの豪邸』
──翌日の放課後。
部室で時間をつぶしたあと、俺は一年三組へ向かった。
蓮や雅のクラスだ
ちなみに部室には九条の姿はなかった。
(アイツ……最初は「話聞くでござる」とか言ってたのに、結局逃げやがったな)
教室に着くと、月島と薬師寺姉妹がすでに待っていた。
どうやら俺は思った以上に長居していたらしい。
「すまん、遅くなった」
「大丈夫! 私も今来たところだから!」
雅がにこっと笑う。
「じゃあ行こ~」
京が軽く手を振り、俺たち四人は下駄箱へ向かった。
靴を履き替えながら、俺は何気なく質問する。
「薬師寺の家って、学校からどのくらいなんだ?」
「車で十分くらいかな~」
京が答える。
「意外と遠いんだな」
「いつも迎えがあるから大丈夫! 今日も来てるよ」
雅が元気に言う。
「お、おう……なんか申し訳ないな」
校門を出た瞬間、思わず足が止まった。
そこには、大きめの黒い車が堂々と停まっていた。
しかも、その前には──
白黒のメイド服を着た女性が、まるで執事のような完璧な立ち姿で控えている。
(……現実で初めて見た……! これ、完全に大富豪の家のやつじゃん)
「お嬢様、お疲れ様でございます」
「「ありがと~」」
薬師寺姉妹が手を振って車に向かう。
「月島様もご無沙汰しております」
「うん、久しぶり~」
……え、月島? なんでそんな当たり前みたいに知り合いなんだよ。
俺が思わず月島を見ると、彼女は肩をすくめて笑った。
「この前遊びに行ったんだ~」
メイドさんは今度は俺に向かって、丁寧に挨拶をしてくれた。
「西宮様、お初にお目にかかります。私、久遠柚葉と申します。よろしくお願いしましゅっ……」
……噛んだ。
一瞬の沈黙。
「……よ、よろしくお願いします」
メイドさん──久遠さんは、みるみる顔を赤くして目をそらした。
完璧な立ち姿とのギャップがすごい。
(……まあ、メイドさんだって人間だもんな)
俺と月島は車の一番後ろの席に案内される。
薬師寺姉妹は前の席に並んで座り、車は静かに発進した。
(革シート……めっちゃふかふか……)
窓の外に流れる街並みをぼんやり眺めていると、車はおよそ十分ほどで止まった。
外に出た瞬間、思わず声が出そうになる。
目の前に現れたのは──普通の家よりも一回りどころか四回りは大きい家だった。
さすがにアニメに出てくるようなプールやテニスコートはなかったが、
庶民感覚では十分すぎる、いや、もはや戸惑うレベルの豪邸だった。
敷地には軽く四台は停められそうな駐車場。
玄関を抜けると、吹き抜けの天井と広いホールが目に飛び込んでくる。
おまけに、ピカピカの床が自分の姿を映してて、落ち着かない。
(これ、普通の家って言っていいやつじゃないよな……)
そんな俺をよそに、薬師寺姉妹は軽やかに案内してくる。
「じゃあ、こっちだよ~!」
京が階段を指差す。
「地下にね、私たちの部屋があるの!」
「音が響かないし、快適なんだ~!」
(地下……に部屋!? なんか急に秘密基地感出てきたな)
地下への階段を降りると、そこにはまるで高級ホテルの廊下のようなスペースが広がっていた。
赤絨毯と間接照明、そこに並ぶ四つのドア。
(うわ、ドア一枚で世界が変わりそう……)
「じゃ、まずは私の部屋ね! 私の話、じっくり聞いてもらうから!」
雅が俺の袖を引っ張って、自分の部屋のドアの前へ。
一方──
「私は自分の部屋で待ってるよ~。心春ちゃんもこっちで話そう」
京は月島を連れて、別のドアへと消えていく。
「ちょ、待って! 俺ひとりでいいのか!?」
さすがに焦って声を上げる俺に、雅はにっこり笑って言った。
「お互いの作戦を聞くわけにはいかないしねっ!」
「戦争かよ……!」
そうツッコむ間もなく、雅に背中を押されるようにして雅の部屋へと入っていった。