母性花(ぼせいか)
子供たちはきいママ子家の雛たちと怪談で盛り上がっていた
ひとりだけ怪談に加わらずに隅っこでスケッチプックに真剣な面差しで絵を描いている雛のゴロにキーモは話しかける
「ゴロちゃん、何描いてるの?」
「また母性花描いてるのか?」
サブロに言われゴロは頬を染めながらキーモに絵を見せてくれた
スケッチブックにはゴロが色鉛筆で描いたピンクの薔薇や桃色タンポポが溢れるように華やかに咲いている
「わぁ…綺麗だね~淡くて優しくて…」
感動しているキーモに気を良くしたゴロは説明し出す
「今日のママの母性花だよ 毎日違うお花がママの後ろにたくさん咲くんだ」
「ふぅん…そうなんだ ねぇ母性花って何なの?」
「子供だけに見える母性豊かな母親の背後に咲く花だよ
キーモちゃんのママも咲いているぞ」
「ハトたろちゃんっ」
「パパ、見て」
ハトたろは五男のゴロちゃんをお膝に乗せスケッチブックを眺めると涙を流した
「ああ…素晴らしいよ ゴロ…
きいママ子ちゃんに見せてあげなさい
お前は本当に天才的な芸術家だ!!」
「うんパパ、ママに見せてくる」
ゴロちゃんがきいママ子に見せるときいママ子は涙ぐみながらその絵を綺麗な額縁に入れている
「ありがとうね ゴロちゃん。なんて綺麗なんでしょう!!
ママ、これを寝室に飾るわ」
「あら、ゴロちゃん、母性花を描いたの?」
「毎日描いてくれるのよ 姉さま、見て」
キニーがその絵を見て感動している
「素晴らしいわ…母性花は子供にしか見えないのよね…
あなたへの愛情が伝わってくる
きいママ子らしい優しいお花だわ」
「ねえママ、母性花って子供にしか見えないの?
でもハトたろちゃんがキニママーも咲いてるって言ってたよ
ハトたろちゃんは大人なのにどうして見えるの?」
「ああ、それはね…兄さんは心が雛だからよ
外見もペンギンの雛みたいだけど ふふふ
それにきいママ子の母性をとても愛しているからね」
「たしかにハトたろちゃんは…モフモフで雛にしか見えない」
ママの説明になんとなく納得したキーモだった
「でもぉ キーモもミーモも見えないよ!ママの母性花、見てみたい」
「キーモちゃん、なら…目を閉じて大好きなママを想いながらゆっくりと深呼吸してごらん…」
ハトたろに言われたようにキーモは瞳を閉じて息を深く吸って吐いた
スーハー…スーハー…
「ゆっくり目をあけて…きみのママを見てごらん」
すると…キニーママの後ろに
ピンク色の枝垂れ桜が溢れんばかりに咲いている
「ママ…綺麗…キーモも母性花描きたい! ゴロちゃん、キーモにスケッチブック貸してくれる?」
「いいよ、色鉛筆も貸してあげる」
「きいママ子は溢れる母性の女神だからな
なんたって ぼくは彼女の優しい母性にノックアウトされたんだ はっはっはっはーはっは…」
「いやですわ…あなたったら…」
※
「…という体験談だぜ おおーん
スネイプパパは霊感強いからしょっちゅう不思議な体験するんだ」
騎士に変身して子供たちに実話怪談を語る魔性犬ハスキーのルディにしがみつきながらミーモはキーモがいないことにようやく気付いた
「あれ…キーモがいない
ねぇ 怪談聞かないの?」
怪談会を抜けて一心不乱にスケッチブックに何かを描いているキーモをミーモは首をかしげて見つめていた
「ねぇねぇ 何を描いてるの?」
「ママの母性花 すっごく綺麗なの! ミーモも見てごらんよ」
「母性…花…?」
「はっはっは ぼくが見方を教えてあげよう おいでミーモちゃん」
「いらない ミーモは怪談のほうがいいもん
ねぇキーモ、行こうよぉ」
「わかったからちょっと待ってて
描けたら行くよ」
「…わかった…はやくね」
不服そうに唇をとんがらがしてミーモは怪談会に戻っていった
「いやいや、あの子がいちばん甘えん坊さんなのになぁ 怪談のほうがいいか はっはっはっ」
「ミーモは怖い話が大好きだからね~」
カキカキカキ……
真剣にスケッチブックに向かうこと30分後…
「できた~ママ、パパ、見て」
それは息をのむほどの素晴らしい絵だった
絵が得意な芸術家肌のキーモはキニーの背後に咲く母性花の枝垂れ桜をなんとも幻想的に美しく描いている
「あら! すごいわ
私、こんなに綺麗な桜が咲いているの?
嬉しいわキーモ コージュ、見てちょうだい」
「…なんて…綺麗なんだ…キーモ! お前は天才だよ」
「いやいや、見ていると胸が熱くなる…見事だなぁ」
「まあ…美しいわ…私…涙腺が…いやですわ…涙が止まらない…
キーモちゃん、素敵な母性花ね」
「すごいよすごいよ♪ 今度からぼくと母性花を描いて見せ合おうよ
キーモちゃん!」
「うん! いいよぉ ゴロちゃんのお陰で素敵な発見が出来たんだもん」
キニーは涙ぐんでキーモの描いた絵を額縁に入れてリビングルームに飾っている
「キーモちゃん、本当にありがとう…ママ大切にするわね
色鉛筆とスケッチブック買いましょうね
それでまた描いてくれる?
ママ、楽しみにしているわ」
「わかったぁ キーモ、明日から毎日ママの母性花、描くね
そろそろ怪談会に戻らなきゃ
ミーモがいじけてるからっ(笑)
ゴロちゃん、いこう」
「うん ミーモちゃんはキーモちゃんが大好きだからね~」
パタパタパタ
「子供は神様からの贈り物ですわ…」
「本当だな…きいママ子ちゃん」
きいママ子の言葉に頷きながら 手を繋いで怪談会へと戻るキーモとゴロを大人たちは眩しそうに見つめていた