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マリアの過去

今から100年ほど前…


私はルーマニアの王族の血を引く貴族の姫だった


フランソワとの出逢いは13歳の時…


一般教養として父は私にフランス語を身につけさせる為に友人の息子のフランソワを住み込みの家庭教師として雇い

屋敷で一緒に暮らすようになったのだ


艶やかな黒髪に憂いのある瞳、ぽってりした唇…すんなりした長い手足に優雅な物腰の彼に私はひと目で恋に落ちた


勉強嫌いで語学の苦手な私にフランソワは優しかった


妖精や精霊の伝説や歌を交えてフランス語を学ぶ楽しさを教えてくれたのだ


私は日に日に彼に惹かれ恋心が募っていったが…17歳だった彼からすれば13歳の私は子供で恋愛の対象になどなるはずもなく

彼は私を妹のように可愛がってくれていた


恋人になれなくとも彼のあたたかい眼差しに見守られ薔薇園を散歩したりピクニックに行ったり時には馬に乗り遠出をして楽しい

ひと時を過ごせればそれだけで嬉しかった


「そんな大切な人を何故、殺めてしまわれたのです?」


ハトトコの問いかけにマリアは悲し気にうっすらと微笑んだ


『もっともな質問だ…』


幸せな日々はそう長くは続かなかった


1年後、フランソワの父親が結核の病で倒れ彼は後を継ぐために急遽、フランスに帰国することになったのだよ


そればかりではなくフランソワには両親が決めた許嫁(いいなずけ)がおってな…


愛しい人が目の前からいなくなるだけでも苦しいのに既に決まった女性がいたなんて…彼が他の女のモノになってしまうなんて

私の神経が耐えられなかった


どんなに彼を想ったところで叶うはずもないと絶望した私はメイドにこっそりと頼んで毒薬を用意させた


「それを…飲ませたのですね…」青ざめながら悲しそうに訊ねるトトにマリアは静かに頷いた


彼が帰国する前日の最後の晩餐の後で…私はフランソワを部屋に呼び寄せ一緒にお茶を飲んで欲しいとお願いした


優しい彼は拒むはずもなく…私の勧めるままに熱いミルクティーを口にしようとしてふと、ティーカップを置き、上着の懐から小さな箱を取り出すと…


私の目の前で箱を開けて美しく輝く真紅のピジョンブラッドのルビーの指輪を見せてくれた


「綺麗でしょう? あなたの誕生石ですよ…暫く会えなくなってしまいますが…あなたは僕のかけがえのないお姫様だ。

本当は誕生日にと思っていたのですが…手を貸してごらんなさい…」


彼は長く美しい指でルビーを私の左手の薬指にそっとはめると口づけをした


「忘れないで…必ず、あなたを迎えに来ます!」


「フラン…ソワ…」


これは…夢? 予期せぬ贈り物と彼の想いを知った私はぼぉーっとする頭でぼんやり彼を見つめていた


私の煎れたミルクティを口に含んだ彼に気付いた時、彼は苦しそうに眉間に皺を寄せていた


「フランソワ、ダメ! それ以上飲まないで!!」


彼は唇の端からひと筋の血を流しながらも私を恨みもせず優しい眼差しで見つめながら手を握ってくれた


「あな…た…が…?」


「ごめんなさい、ごめんなさいっ、あなたを誰にも渡したくなかったの…」


泣きながら謝る私を彼はそっと抱きしめて優しく頭を撫でてくれた


「…仕方のない子だ…初めて会った時から…僕は…あなたの…ものなのに…」


そう言いながら彼は静かに息絶えた…


私は自分の愚かさを悔やみすぐさま同じ毒を煽った…だが人を殺め自害した魂は愛する彼のもとには逝けずこのルビーに閉じ込められてしまったんだ




語り終え震えながらすすり泣くマリアの手をハトトコ姉さんと私は握りしめ新たに誓いました



「ごめんなさい…辛いことを思い出させて…わかりました…明日、彼の生まれ変わりが訪れるまで誰にもこのルビーは売りません!」



翌日…マリアの言った通り夕日が地平線に接吻する時刻、彼はやってきました


カランカランカラン♪


「いらっしゃいませ…ようこそ、素敵な一期一会を…」


フランソワの生まれ変わりの青年は虚ろな眼差しでお店に入ると姉は小さな宝石箱を開けて彼に差し出しました


「ようこそ…パラレルワールドへ…ずっと、あなたをお待ちしていましたよ…」


「マリア…!」


青年はルビーを見た途端、ポロポロと涙を零し跪くと私達に懇願しました


「お願いです! 高価なものなのはわかります。でも、一度には払えません、必ず、お払いしますから分割で…譲ってください、お願いします」


姉は言いました


「お顔をお上げください。お代は結構です…この石はずっとあなたを待っていたので連れて帰ってあげてください…」


彼は驚いたように顔を上げるとポケットから一万円札を二枚出しました


「そんなわけには参りません、今はこれしかないので内金としてお払いしますので待ってください」


そんな彼にトトは言ったのです


「お客様…当店では石が望まない方には例え大金を摘まれてもお売りしません。本当に行きたい方のもとへお売りしてこその一期一会でございます」


青年は泣きながらその指輪を左手の薬指にはめると何度も何度も頭を下げお礼を言ってお店を後にされました


そして私達は聞いたんです


美しく穏やかな声で「ありがとう…」と呟くマリアの声を…





パラレルワールドの商品はみな、魂を持っております。


訪れて下さるお客さまとの一期一会を待ちわびながら…










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