魔界からの案内人2
「ミーモちゃんは幽霊をよく見るのかな?」
スタジオに向かう車で田峯に聞かれミーモは即答する
「今回がはじめてです」
「キーモはたまに見るけど…気のせいだって思ってます」
「なるほど! キーモちゃん、それは賢いよ 霊はこの人は見えてるって思うと頼るからね」
「わんっ わんわん くぅーん」
「そうか ルディくんはよく見るんだね」
「田峯ちゃん、ルディの言葉がわかるの?」
「僕は犬飼いでね 小さい頃から犬によく話しかけられて世間話していたよ(笑)」
「すっごーい、どんなことお話しするの?」
「キーモも聞きたい」
「わんわんあなたには犬飼いの匂いがします 犬種は何ですか?」って聞かれてねヨークシャテリアですって答えると
嬉しそうに尻尾をふって「私は柴犬です。最近、夏が暑すぎて散歩がいやになってて」とかね(笑)
「なんか面白い(笑)」
「犬はおりこうさんだよ たとえば道を歩いてて遠くからやってくるでしょう、で、あ、可愛いなって思ったり、声をかけると振り向かなくても
尻尾をふってありがとうってサインを送るんだ」
「ミーモもわんちゃん大好き! ルディは初めてできたお友達なの」
「そうなんだね きみが投稿してくれたルディくんとの怖かった体験談、詳しく聞かせてくれるかな?」
「うん、あのね…」
あれは一か月くらい前、キーモとルディとお散歩していたら大きなお屋敷があって
いつも通っていた道なのに…こんな立派なお屋敷にどうして気が付かなかったんだろうってキーモと不思議に思ったの
そしたら…キーモがもっと近くに行ってみようって言いだして…
でも、知らない人のおうちだしって悩んでいたらルディが
わんわん! (入らないほうがいいぞ)って言ったんだけど…
突然、お屋敷の二階の窓が開いて綺麗な女の人が私達と目が合うとにっこり笑っておいでおいでって手招きしたんだ
「可愛らしいお嬢さんがた、入っていらっしゃいな。美味しいお菓子がたくさんあるのよ」
そういわれてつい入ってしまったの
その女性はワンピースを着て髪をアップにしていて清楚な感じの優しそうな人だったので安心してお茶とお菓子をご馳走になったんだけど
何故かルディを見て少し嫌そうにして「わんちゃんはお外で待っててくれないかしら 私、犬が苦手なのよ」って言われて困っていたら
ルディが突然、牙を剥いて吠えだしたの
わん! うぅぅぅ ぐるるるる わん! わわん (ふざけるな! この子達になにするつもりだっ)ってすごく怒ってその女の人を威嚇しだして…
でもね ルディはすごく大人しくて私達にも吠えたことなんかなかったからキーモが私の袖を引っ張って
「帰ろう ミーモ、遅くなるとママが心配するよ」って言うから「おねえさん、お菓子ごちそう様でした、帰ります」って言ったの
その途端…
女の人の顔がすごく怖い顔になって
「どうして帰るの? 来たばかりじゃない お菓子が気に入らないならもっとたくさん持ってくるから帰らないで」
あまりにひきとめるので怖くなってキーモとルディと手を繋いで帰ろうとしたら一瞬で目の前に移動して両手を大きく広げてね
「待ちなさいよ…帰さないわよ…帰らないで…私をまたひとりにするの?」
女の人は両目から真っ赤な涙を流してミーモたちに迫って来て怖くて動けなくなったの
その時、ルディが大きな魔性犬に変身して真っ赤に光った目と牙を剥いて女の人に飛び掛かっていったら女の人は悲鳴をあげて蹲ってしまったの
わんわん!! ううぅぅぅぅぅ わわん (ふざけるな! この子達に手を出すな)
ふたりとも俺の背中に乗って!しっかり掴まってろよって言われて私達はルディに掴まりながら窓を破ってお屋敷から出ると
「いかないでぇぇ!! いかないでぇ!! マキーシャ!!マキーシャァァァァァ」って泣きながら叫んでいたの
怖かったけど何度も何度も叫んでてすごく悲しそうだった
田峯と鳩代はミーモの話を聞き終えると暫く考え込んで
「これは現場に行ってみるか…だがハトモコちゃんに来てもらったほうがいいかもしれない」
「そうね、番い姉妹の大魔王だからきーちゃんも一緒に来てもらいましょう ミーモちゃん、話してくれてありがとう いまからスタジオに向かうから
そこで待っててくれる? 私達はそのお屋敷にこれから行くから」
「ハトモコちゃんときぃちゃんも来るの? ならキーモも行きたいよ ママも一緒だし」
「そうね鳩代、私達にも同行させて頂だい ハトモコにすぐ連絡するわ」
※
数分後 話を聞いたハトモコと番いのきぃちゃんの鳩姉妹が騎士の江戸を連れて飛んできた
「鳩代姉さん、知らせてくれてありがとう 間違いないわ 離れ離れになった番い姉妹の姉のほうが妹を求めて地縛霊になっているのよ」
…トタッ…(可憐な足音)「鳩代ちゃん、ひさしぶりさん♪」
「ハトモコにきぃちゃん、来てくれてありがとう 詳しくわかるかしら?」
ハトモコは小さなふたつの水晶玉を鳩ポッケから取り出すと羽根をかざし唱え始める
「ねえだまにきぃだまよ…ふたりの過去を映したまえ…」
水晶玉に若い二人の姉妹が映し出された
黒曜石のような美しい長い黒髪の妹と方までのセミロングの姉は仲良さそうに何かを話している
二人とも手を繋いで薔薇園を歩いている
「姉さま、私はもう…永くはないわ…自分でもわかるの」
身体の弱い妹は姉の手を握り呟いている
「魔界の戦でお父様もお母さまも儚くなってしまった 私がいなくなったら姉さまがひとりぼっちになってしまう…私は心配で…」
そう呟くと妹は吐血して寝込んでしまい必死に看病する姉をおいて逝ってしまった
遺された姉は護身用の短剣で自らの命を絶ったが妹の霊と再会できず屋敷に地縛霊となって縛られてしまい何百年も閉じ込められたまま妹が迎えに来てくれるのを待っていた
「このひと 可哀想…妹に会わせてあげなくちゃ! ねーさん、きぃも協力するよ」
「ねえだまにきぃだま 妹さんの霊を映して…」
霧のようなもやの中で涙を流しながら姉を心配している妹が映し出される
「彼女は病気でお姉さんのほうは自死で亡くなっているから再会できなかったのね…この番姉妹大魔王、離れ離れの姉妹を放っておくものですか!
鳩代ちゃん、田峯さん、待ってて…」
…シュッ…
ハトモコときいちゃんは江戸を残して瞬時にみんなの前から姿を消した
「お二人は妹さんの霊を迎えに行ったんです すぐに戻ってきますよ 俺もあとを追いますので鳩代さまは現場に向かってください!」
「OK!」
「鳩代ちゃん、田峯ちゃん、あの人、妹さんに会えるの?」
涙を浮かべて尋ねるキーモとミーモの頭を優しく撫でながら
「もちろんだよ 必ず会わせてあげようね 鳩代、行くぞ!」
一行は幽霊屋敷へと車を走らせた
※
「ここだよ」
数分後…ミーモに案内され鳩代たちは幽霊屋敷に到着すると車を降りて屋敷の窓を見上げる
疲れ切った女性が悲しそうに窓に佇んでいる
「凄い霊気だな…外にいるのに胸苦しくなってくる…」
「目眩がするわね…こんなの初めてだわ…」
『立ち去れ…ここは我が妹と私の屋敷だ…』
凄みを帯びた禍々しい声が聞こえる
「はじめまして 田峯弘樹です あなたの妹さんに会いたくありませんか?」
『妹に…あの子を知っているのか?』
「いいえ ですが会わせてあげることは出来ます」
「ちょっと田峯、そんな風に言いきっていいの?」
「詳しい話をしたいので中へ入れて頂けませんか」
ギイィィィ…
玄関のドアが重苦しい音を立てて開いた
「きみたちは外で待っていなさい」
田峯に言われミーモとキーモは即座に首を横に振る
「ミーモも中に入る そのおねえさんは妹さんと離れて寂しいんだよ! ミーモにはわかる」
「キーモもミーモと離れたらおかしくなっちゃうから…おねえさんの辛さがわかるの! 田峯ちゃん、お願いだよ おねえさんとお話しさせて」
『お前たちは…怖く…ないのか…ここに閉じ込めようとしたのに…』
「なら俺も…お二人と一緒に中に入れてもらおうか」
その声に振り向くとルディが背の高い美しい青年に姿を変えて佇んでいた
「ルディ、ルディが人間になってる!!」
「ルディ…かっこ…いい…」
「ミーモ様、キーモ様、驚かせて申し訳ございません 俺は魔性犬なので大切な方を守る時は騎士の姿になるんです」
「江戸と一緒だね…」
「違うわよきぃちゃん、江戸は騎士なのにあなたに可愛がられたくて柴犬になってるだけだから…」
「おお、俺と同じか…あんたも騎士なんだな」
「きぃちゃんにハトモコちゃん、江戸ちゃん…」
「江戸様、俺は騎士ではありません。魔性犬です。
幽霊さん、あんた、犬が苦手なようだから俺はこの姿になったんだ…」
『お前たち…ぞろぞろとぶしつけにやって来て…私をバカにしているのか…』
怒りを露にする女性の霊にハトモコが近づいていく
「いいえ…我が名は番大魔王ハトモコ…離れ離れになった姉妹を再び再会させ縁を結ぶ」
『番大魔王…聞いたことがある…では…お前が…』
「永い間…辛かったわね…これなるは我が愛しの半身、妹のきぃちゃんよ」
…トタッ…
「我が名は番大魔王の番い姉妹のきいこ あなたの妹さんを連れて来たさん」
『マキーシャをか!!!! ほん…とう…なの…か』
「江戸…彼女をここへ」
「さあ、マキーシャさん、あなたのお姉さんが待ってるぜ」
江戸に呼ばれ妹のマキーシャが姿を現す
小柄で華奢な腰まである見事な黒髪のストレートヘアに猫のような釣り目の瞳の美少女だ
「姉さま…」
「マキーシャ…ああ…マキーシャ…夢なら覚めないでちょうだい…」
「夢じゃないわ ハトモコ様ときぃ様が連れてきてくださったのよ 一人にしてごめんなさい 姉さま、寂しかったでしょう…」
妹に抱きしめられおどろおどろしい姿をしていた姉の霊はみるみる生前の姿へと変わっていった
「やっと…やっと会えたのね…迎えに来てくれたのね…マキーシャ…」
「姉さま…」
固く抱き合う二人に田峯はそっと声をかける
「では…お二人とも…あなた方の安らげる場所へとご案内しましょう」
「もう…離れることはないのですね…」
「約束します 二度と離れることなく一緒にいられますよ」
田峯は優しい瞳で応える
「ありがとう…では…お願いします その前にこの二人のお嬢さんにあやまらなくては…」
姉の霊は座り込むとミーモとキーモに微笑んで涙を流した
「ありがとう マキーシャに会わせてくれて本当にありがとう 怖い想いをさせてごめんなさい」
あやまる彼女にミーモとキーモは微笑んで応える
「おねえちゃんは悪くないよ 辛かったのに我慢して偉かったね 妹さんと仲良くしてね」
「キーモのミントキャンディ二人にあげるね 会えてよかったね」
「…ありが…とう…」
「では…よろしいですか…迷える嘆きの魂たちよ…過去の真実に気付き、愛し合う二人共に本来あるべき場所へと…」
「待ってください、あの…ご迷惑でなければミーモさんとキーモさんに恩返ししたいのです
私達姉妹を守護霊として使い魔にしてくださいませんか?」
「まあ姉さま、わたくしも大賛成ですわ♪」
「マジかよ…安らかな安住の地に行かなくてもよいのですか?」
「はい ミーモさんとキーモさん、そして番い大魔王のハトモコ様ときぃ様にお会いして思ったのです
どうか私たち姉妹をこの優しいお二人の使い魔にしてください」
「素晴らしいわ!よかったわね きぃちゃん」
涙を流しながら拍手をするハトモコ
「よかったね ねーさん、ミーモちゃんとキーモちゃん、二人に守ってもらいなよ 江戸、行くよ。
じゃあね~」
…シュッ…
「はやっ 瞬間移動して帰って行ったわ」
「さすが番大魔王だね~」
感動するミーモとキーモ
「どうする? 二人とも…」
鳩代に聞かれミーモとキーモは同時に嬉しそうに頷いた
「ママ、いい?」
「いいわよ あなた達の名前を教えてもらってもいいかしら」
「申し遅れました わたくしはモール これなるは愛しの妹 マキーシャでございます 奥様」
「わかったわ きっとこれも何かの縁ね モールとマキーシャ、今日から二人をよろしく頼むわね」
「わぁい♪ おねえちゃま達、一緒に帰ろう」
「ありがとうございます! 姉妹共々、命をかけてお守り致します」
「お姉さまったら私たちは幽霊ですわ…」
「そうだったわね…なら…」
キニーがワンドをふると…モールとマキーシャは美しい精霊の姿になった
「あなた達を精霊として蘇生したから改めてお願いね」
ウインクするキニーにキーモとミーモは大喜びで抱き着いた
「ママ、すごぉぉい♪」
「やれやれ…今回は…俺たちの出る幕はなかったな…」
苦笑いする田峯
「そうね…めでたしめでたしでいいんじゃない? スタジオに帰って動画の撮影しましょうか」
「ミーモちゃんとキーモちゃん、ルディくん、動画が出来たら知らせるわね~どうもありがとう」
鳩代と田峯は手を振りながら車でスタジオへと帰って行った
「じゃあ帰りましょうか パパに説明しないとね…」
「ルディもおうちに来るでしょう?」
ミーモに聞かれて即答するルディ
「もちろんです! ミーモ様」
「騎士に変身すると礼儀正しいんだね~」からかうキーモ
「からかわないでください では…元の姿に戻ります…」
ポンッ……
わん、わんわん♪(これでいいかい?)
「ルディ、よかったら泊っていく? 今夜は焼肉よ」
「おぉぉぉーん♪ わぉぉぉーん(肉!!お肉!! 食べたいぜ 食べたいぜ)」
キニーに抱き着き尻尾をブンブン
「はいはい、わかったからヨダレをたらさないでルディ」
「あははは、ルディはやっぱりわんこのほうが可愛いよ」
「もふもふできるもんね~」
あぉぉーん♪
「キニー様、焼肉のお手伝いさせてください わたくし、お料理は大好きですの」
「わたくしもマキーシャとお手伝いさせてください」
「ありがとう 二人ともお願いね」
「ママ、お腹すいた~」
「キーモも セブンポッポに寄ろうよ~」
「いいわよ ママお汁粉が食べたいわ」
空が美しい茜色に染まる夕暮れ時…みんなは笑いながらセブンポッポへと歩いて行った