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8/22

俺はお前らに並べたか?

翌日、僕はDJバトルの会場についてセットアップを確認する。


参加者を見ると年上だらけだ。でも僕は不思議と僕は緊張しなかった。これは野球の経験が生きているんだろうと思う。


今までも大事な試合の負ける寸前に打席が回ってくる事もあったし、アウトにするからしないかで勝負が決まるギリギリの状態で難しい打球を処理した事もあった。


だれにも負けない準備をした。その自信が僕を落ち着かせた。


僕の出番が回ってくるとステージに上がる。ステージが明るいので客席は暗くて見えない。

流石に緊張が僕を包む。


でもどこかで今日はナオとクリとジュンが見てくれている。「僕はみんなの隣に胸を張って立ちたいんだ」心の中でそう誓う。



「テツー頑張れー!」

ナオの声がした。その瞬間僕はきっとニコッと笑ったに違いない。ナオのその言葉で緊張が解ける。


フェーダーの動きを軽く確かめてヘッドホンをつける。右手でレコードを動かしフェーダーをオンにする。

「フッーー。」大きくため息。


10分間の僕のセッションが始まった。


会場のライト、観客の声、全てがクリアに聞こえる。


「(ナオの声はあっちからだったな。きっとあそこにいるんだろうな。ナオも見てくれてる。)」


最後にレコードを離しフェーダーを切る。そのフォロースルーで僕は動きを止める。


一瞬静寂が会場を包みこむ。




そして雪崩のように歓声が沸き起こった。

僕は照らされるライトの中肩で息をしながら会場に礼をして離れる。


会場の外でナオが待っててくれた。

ナオは僕を見つけると笑顔で手を振って僕に飛びつく。


「テツ。凄かった。かっこよかった。」

「テツ。優勝してもどこにも行かないでね。」


「何言ってるんだよ。どこにもいくわけないだろ。」


ナオは泣いているようだった。

ナオの涙は喜びと共に少しの不安も含んでいた。


僕の心は常にナオと一緒だし、クリとジュンと一緒だ。


「俺お前らに並べれたかな?」

僕はクリとジュンに聞く。


「何言ってるんだよ。お前は最初から俺たちと友達だろ?お前が何者でもそれは変わらねーよ。ナオも泣くな。ナオが泣いてうろたえているテツ見てみろ。だらしなくていつものテツと変わんないだろ?」


ナオが顔を上げて僕の顔を見る。

「テツ…何その顔。変なの」


僕達はそのナオの言葉で笑いに変わった。

この空間いつまでも続くといいな。本当にそう感じた。


その後に結果発表があった。


結果僕は優勝…



とはいかなかったが2位となった。

今回参加メンバーの中では最年少で2位だった。


僕の名前が呼ばれた時に会場がどよめいたのでよっぽど珍しかったのだろう。


表彰式の後にバトルに参加したメンバーで検討を称え合った。

何人かから「君めっちゃクールだったよ!」ってレコグニションを貰った。しかも参加していた何人かのDJの連絡先を交換する事ができた。


このバトルの参加で僕はDJ仲間が増えるきっかけとなった。この一歩が未来の可能性を広げる第一歩だった。



僕は着替えてみんな待つ入り口まで向かった。

今回の経験は僕を一回り成長させた。

なんかいつもと違う景色が広がっている。そんな気にさせた。


「あっテツ…2位おめでとう!せーの!」

コンビニで買ってきたクラッカーを会場の入り口でナオとクリとジュンが鳴らす。


「あ、やべ」

警備員が駆けつけてくる。


「逃げるぞー」

ジュンが走り出す。


「何やってんだよもう!」


「いやクラッカーはナオのせいだぞ!」


「えへへへごめーん!」


やっぱりこのみんなと一緒に過ごすこの時間が好きだ。僕はここが僕の居場所だと再確認する事ができた。


DJバトルから数日経ったある日、僕はナオと放課後いつものように会っていた。


「ねえ、テツ。ちょっとお願いがあるんだけど」

横浜駅のカフェでナオと話していると、彼女が不意に切り出した。


「お願いって?」

コーヒーを飲みながら顔を上げると、「えへへ、ジャーン!」と言ってナオがバッグから何かを取り出す。それは、ナオの学校の文化祭のチケットだった。可愛らしいイラストが描かれたそれを、ナオはテツの目の前に差し出す。


「これ、うちの学校の文化祭のチケット。テツ、来てくれる?」


「文化祭か。女子校の文化祭って、行ったことないからな…」

テツはチケットを手に取りながら答える。ナオの学校に行くのは楽しみだが、少し緊張もする。


「それでね、クリとジュンも誘ってきて。3枚あるから!」

ナオが指を3本立てながら言う。


「えっ、俺だけじゃダメなの?」

思わず口をつくと、ナオはクスッと笑った。


「なんで?別にいいけど、テツだけだと緊張しちゃうでしょ?それにクリとジュンも楽しめると思うよ」


「まあ、確かにあいつらなら勝手に盛り上がりそうだな」

テツは苦笑しつつ、ナオの言葉に頷いた。


「じゃあ決まりね!当日は案内するから、絶対来てね」

そう言ってナオが満足げに笑う姿を見て、テツは少し照れながら「分かったよ」と返事をした。


「(…あの名門女子校の門を堂々と通る事ができるとは…可愛い子もいっぱいいるに違いない!楽しみすぎる!)」


僕は心の中で興奮した。


「ねえねえなに考えてるの?」


「いや、なんか入っちゃいけないところに入る背徳感というか興奮するなって…。」


「ふふっなにそれ?変なの。可愛い子いっぱいいるけど気を取られてたら殴るからね!」


なんか最近、ナオがヒトミに似てきた。


土曜日の午後。

ナオの学校の文化祭に足を運んだテツは、校門をくぐった瞬間から、その華やかさに圧倒されていた。女子生徒たちが笑顔で楽しそうに話し、教室や廊下はカラフルな装飾で彩られている。


「すげぇな…これが女子校の文化祭か…」

テツが呟くと、隣のクリが興奮した様子で肩を叩いてきた。


「おい、ジュン!見ろよ、あっちのブース。可愛い子だらけだぞ!」

「マジかよ!こんなに一気に可愛い子がいるとか、どんな世界だよ!」

「なんかいい匂いするぞここは天国か?俺たちは死んだのか?!」

ジュンも目を輝かせ、すぐにクリと作戦会議を始める。


「じゃあ、俺たちこっち見てくるから、テツは自由に回れよ!」

そう言い残し、クリとジュンは早々に消えてしまった。


「おい、ちょっと待てよ!」

置いて行かれたテツは、女子高特有の賑やかで明るい雰囲気に飲まれ、廊下の隅に立ち尽くしてしまう。


「…俺、何してんだよ…」

心細さを感じながら周囲を見回していると、聞き慣れた声が響いた。


「テツ!」

振り向くと、ナオがこちらに駆け寄ってくる。


「どうしたの?クリとジュンは?」

ナオが首をかしげながら尋ねる。


「あいつら、俺を置いてナンパしに行ったよ」

テツは肩をすくめながら答える。


ナオは「ぷっ」と吹き出し、楽しそうに笑った。

「ほんと自由だよね、あの二人。でもテツを一人にするなんてひどいなぁ」


「いや、別にいいけどさ。女子校の文化祭って、思ったより居心地悪いな…」

視線を彷徨わせるテツに、ナオはクスッと笑みを浮かべる。


「じゃあ、案内してあげる!ついてきて!」

そう言って手を引こうとするナオに、テツは「お、おう」と頷きながらついていく。


ナオが文化祭を案内してくれたおかげで、僕はようやく緊張が解けてきた。教室を改装したカフェや展示を巡るうちに、ナオの友達が近づいてきた。


「ナオ、その人が噂の彼氏?」

ナオの友達がニヤニヤしながら尋ねると、ナオは「そうそう、テツだよ」と軽く紹介する。


友達たちは興味津々で僕を取り囲み、一斉に質問を浴びせた。


「ねえ、テツ君ってDJやってるんでしょ?DJのバトルで準優勝したって聞いたよ!」

「すごいじゃん!動画で見たけど、めっちゃかっこよかった!」

「そのとき、どんな曲つなげたの?セットリスト教えて!」


思わぬ話題に、テツは少し驚いた様子を見せながらも、照れくさそうに頭を掻いた。


「いや、大したことないって…準優勝だったし」

「準優勝でもすごいよ!めちゃくちゃレベル高かったんでしょ?」


友達たちは口々に褒め、僕は少し居心地悪そうにしながらも、「まあ…頑張った甲斐はあったかな」と答える。


その様子を見たナオの友達がさらに追及する。

「ねえ、ナオってそのDJ姿に惚れたの?」

「告白したの、どっちから?」


テツは少し言葉に詰まり、ナオの方を見る。するとナオが慌てて友達たちを制止した。

「もう、やめてよ!テツが困ってるでしょ!」


友達たちは「ごめんごめん!」と笑いながら離れていったが、その場に残されたナオとテツの間には、少し気まずい沈黙が流れた。


「…その、なんかごめんね。友達に話題にされるなんて思わなかった」

ナオがそう言うと、テツは首を振りながら微笑んだ。


「いや、別に。ナオの友達、楽しそうだったし…まあ、悪くなかったよ」


その一言にナオはほっとした表情を見せ、「よかった」と小さく呟いた。


文化祭を巡るうちに、僕は校庭でクリとジュンと再会したが、二人はすっかり意気消沈していた。


「お前ら、どうしたんだよ」

テツが尋ねると、クリとジュンが肩を落としながら答える。


「全滅だよ…声かけた女子全員に断られた…」


「俺なんて、『彼氏いるんで』って、5回連続で同じセリフ言われたんだぞ!どんだけ乱れてんだよ!ナオの学校」


「ちょっとやめてよ!そんな事言うの!」


「しかもさ、最後の子なんて『先生呼びますよ』だぞ!心折れるわ!」


テツは思わず吹き出しそうになりながらも、呆れたように言う。

「お前ら、ちょっとは学べよな…」


そんな二人を見て、隣のナオはクスクスと笑った。


「ほんと、懲りないね。せっかくの文化祭なんだから、もうちょっと楽しみ方を考えたらいいのに」


クリとジュンは肩をすくめながら、「次こそは…」と小声でつぶやいたが、テツは「やめとけ」と一蹴した。


帰り際、ナオがテツを校門まで見送る。


「今日はどうだった?楽しめた?」

ナオが尋ねると、僕はは少し考えてから頷いた。


「最初はどうなるかと思ったけど…ナオが案内してくれたおかげで、結構楽しかったよ」


ナオは満足そうに笑い、「また来年も来てね!」と手を振る。その笑顔に、僕も照れながら小さく手を振り返した。


クリが神妙な面持ちで口を開く

「テツ先帰ってろ。俺たちは来年に向けた作戦会議がこれからある」


「(全くコイツらは…心折れてなんかないじゃん)」


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