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小さいな…

放課後の教室でノートを片付けていたアオイに、息を切らしながら駆け込んできたミキが小声で囁いた。


「アオイ、大変!キャットヤンキーが校門に襲来してる!」


「なんだって!!!」

驚いたアオイは慌てて教室の窓から校門を見下ろした。


窓を見渡すと思いの外たくさんの生徒が窓から外を見ていた。


「あれ元町の女子校の制服だよな」


「もしかしてテツ先輩の彼女じゃない?」


「えっすごい美人」


という声がヒソヒソと伝わってきていた。


そこには、学校の門の前でそんな事を一切気にせず凛と静かに立つナオの姿があった。


整った顔立ちと大人びた落ち着きに、アオイは少し圧倒される。


ミキから「キャットヤンキー」と聞かされ、少し派手目なギャルを想像していたアオイは、その堂々とした雰囲気に予想外の強敵感を覚えた。


(…くっ、、、これは、予想以上の強敵かも。)


けれど、そんなことに怯んでいるわけにはいかない。アオイは自分を奮い立たせ、無邪気で明るい笑顔を浮かべ、ナオの人柄を探るために校門へ向かうことにした。

「私、キャットヤンキーに話しかけてくる!」


「ちょっと、、アオイ!!」

ミキが慌てる。


階段を駆け下りて校門にたどり着くと、まっすぐナオに向かっていった。


「違う学校の生徒の人が何の用ですか?」と、アオイは親しげな口調で声をかけたが、その目には探るような光が宿っていた。


突然声をかけられたナオは少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、静かに答えた。「ごめんなさい。友達を待っているだけなの。」


その言葉にアオイはわずかに眉をひそめ、少し皮肉っぽく返した。「へえ、友達を待つだけでわざわざ違う学校のしかも校門まで来るんですね。ずいぶん親しい友達なんですね。」


ナオはその言葉にカチンときたが、表情には出さずにアオイをじっと見返した。


無邪気で思ったことをそのまま口にするアオイの姿を見ているうちに、ナオは心の中で複雑な感情を抱いた。アオイの純粋な態度がかつての自分と重なって見え、(この子なんか私の昔みたい。私はいつからこんなにも硬くなってしまったの?若さって怖い)と、自分の心の変化を少し寂しく思った。


アオイはナオに問いかける。

「もしかしてテツ先輩ですか?待ってるの」


「ええ、テツの事待ってるの。テツを知ってるの?」


「知ってるも何も同じ学校ですから。テツって呼び捨てなんてずいぶんと仲良いんですね。さすがはキャットヤンキー。私が呼びに行ってあげますよ。美人を待たせちゃ申し訳ないんで」(…なーにが知ってるの?だ)と少し怒りを覚えながら、アオイはナオに返答する。


ナオは聞いたことのない単語に戸惑いながら、

「(ん、今なんて言ったのキャットヤンキーって何?!)本当にありがとう。助かるわ。」と伝えた。


普通は3年の教室に行くのなんか躊躇しそうだがアオイは果敢にもテツを教室まで呼びに向かう。

「テツ先輩。校門に綺麗な女の人がテツ先輩の事待ってますよ」


「君はこないだの?」


「君じゃなくてアオイです。覚えてくださいね同じ中学だったんですよ。むしろ呼び捨てでいいです」


「同じ中学だったの?!えっでも君がなんで?」


アオイが呼びに行ったテツが校舎から現れた。アオイはテツの横に並び、無邪気に笑いながら肩に軽く触れたり話しかけたりして、親しげな雰囲気をナオに見せつけるようにして歩いてくる。


「テツ先輩、待ってる人がいるなんて、人気者ですね!」と、アオイは冗談交じりに明るく声をかけた。


テツは少し戸惑いながらも「まぁ、そういうわけでもないけど…」と曖昧に返し、ちらりとナオの方を見て微笑んだ。「早かったね、ナオ。」


「テツこちらの可愛い女の子はどちら様なの?」


「ああこの子はアオイって言って、俺と同じ中学の後輩でこの間俺がベンチに座って校庭眺めている時にバスケに誘ってくれたんだ」

今までのテツだったら少し慌てて誤魔化しているかもしれない。その堂々とした答えにナオはびっくりした。


同時にナオはアオイとテツのやり取りを見て、二人の関係性がただの先輩後輩に過ぎないことをはっきりと感じ取った。


さらに、アオイの無邪気な親しみ方から、彼女がテツに気があることも自然に察した。


テツがアオイの存在をそのまま受け入れ、正直に話していることにも彼の成長を感じて、ナオは次第に落ち着きを取り戻していった。


ナオは、ふと勝ち誇ったような微笑みを浮かべながらアオイに向き直ると、丁寧に礼を言った。「いつもテツがお世話になっています。アオイさん、テツを連れてきてくれてありがとう。助かったわ」言葉には余裕があり、どこか自信に満ちた視線でアオイを見つめ、「私たち、ちょっと失礼するわね」と続けた。


「いえ、どういたしまして。(…何がお世話になってますだ!正妻気取りか!)」アオイは笑顔を保ちながらも、心の中では悔しさが湧き上がっていた。


ナオはテツと共に歩き出し、アオイを一瞥することもなく校門を後にする。


ナオとテツの背中を見送るアオイの胸には、燃え上がるような闘志が宿っていた。(なんなの、あの自信たっぷりの態度。決めた絶対に負けない!)


アオイはぎゅっと拳を握りしめ、心の中で決意を新たにする。


心に強い闘志を宿したアオイの視線は、ナオとテツの後ろ姿を追い続けていた。


その目には、負けじと燃える挑戦者の光が宿っていた。


久しぶりの二人だけの時間。馴染んだ空気の中で、ナオとテツは穏やかに話していた。二年以上もこうして一緒に過ごしてきた二人。ナオが左、テツが右。その並びが自然になり、ふとした瞬間に触れ合う手のぬくもりが、二人にとっての暗黙のルールだった。


テツが静かに口を開く。「最近、いろんなことがあったんだ。カヅキのこととか、カヅキのお母さんに言われたこと。そして、クリやヤマと話して、自分にとっての『軸』について考えるようになった。」


ナオは頷きながら、テツの話に耳を傾けた。彼が何かを一生懸命に考え、前進しようとしている姿が伝わってきた。


「でね、俺の軸が何か、やっとわかったんだ」とテツは少し照れくさそうに笑う。「俺の軸は『まっすぐ生きる』ってことだった。」


「まっすぐ生きる?」ナオは少し首をかしげた。「でも、テツは今までもそうしてきたんじゃないの?」


テツは少し遠くを見るような目で続けた。「そう思ってたんだけど、実際は違ったんだ。環境に流されて、自分を変えたり取り繕ったりしてた。でも、クリやヤマと話して、気づいたんだ。まっすぐ生きるには、3つの強さが必要だって。」


ナオはテツを見つめ、「3つの強さ?」と小さく問いかけた。


テツは指を一本ずつ立てて説明した。「まず、流されない強さ。次に、正直でいる強さ。そして、結果を怖がらない強さ。この3つがあれば、俺は本当の意味でまっすぐ生きられるんだって思ったんだ。」


ナオはその言葉を聞きながら、今日校門で会ったアオイのことを思い出した。アオイと向き合うテツの姿勢に、確かに「流されない強さ」を感じた。


「それで、さっきアオイちゃんにも流されなかったんだね。」ナオは微笑みながら言った。


「うん。けど、やっぱり実際にやるのは難しいよ」とテツは苦笑いを浮かべた。


二人はその後も話を続けた。テツはヤマとヒトミの「人生の軸」についても教えてくれた。


「ヤマの軸は『かっこよく生きる』だってさ。ヒトミは『常に輝いた自分でいること』らしい。」


その言葉に二人は顔を見合わせ、思わず笑い合った。それぞれの軸がその人らしく、少しおかしいけれども妙に納得がいく。


ナオはふと自分の手元に視線を落とし、ぽつりと呟いた。「私の人生の軸って、なんだろう…」


その言葉にテツが少し驚いたように顔を向けた。「ナオ…?」


ナオはテツの横顔を見つめた。以前の彼とは違い、自信に満ちた表情がどこかまぶしく感じられる。迷いや不安を抱えながらも、自分の軸を見つけて歩き出した彼。その姿に、ナオの胸に小さな焦りが芽生えた。


(私は何も変わっていない。テツはこんなにも前を向いているのに…)


そして、校門でアオイに向けた自分の態度を思い出す。(勝ち誇ったような態度を取ったけど、結局、私は何もない空っぽのままじゃない…)


「小さいな…」ナオは思わずそう呟いた。


「ん?ナオ、今なんか言った?」テツが問いかける。


ナオは咄嗟に笑って「なんでもないよ」とごまかしたが、胸の奥には漠然とした不安が広がっていく。


(私の人生の軸って、なんだろう。私も探さないと。)


ふとした沈黙の中、テツがナオの沈んだ表情に気づき、そっと肩に手を置いた。その優しいぬくもりに、ナオの胸が少しだけ温かくなった。


「ナオ、大丈夫だよ。焦らなくてもいい。自分の軸なんて、すぐに見つかるもんじゃない。でも、俺はナオが絶対に見つけられるって信じてる。」


テツの言葉が、ナオの中に広がる迷いを少しずつ和らげていく。彼の言葉には迷いがなく、まっすぐな優しさが感じられた。


ナオは小さく息を吸い込み、そっと笑顔を浮かべた。「ありがとう、テツ。そうだよね、焦らなくてもいいよね。」


テツと話すことで、ナオの心の中に少しだけ明るい光が差し込んだ気がした。自分もきっと、いつか彼のように迷いを乗り越え、自分らしい道を見つけられるはずだと信じたかった。


(私の軸…私らしい生き方。それを見つけるために、少しずつでも歩き出さなきゃ。)


ナオはそっとテツの手を握り返し、彼の隣で笑顔を浮かべた。そんな彼女の姿を見て、テツも安心したように微笑んだ。


二人の間に流れる馴染んだ空気は変わらないまま、ナオの胸の中に新たな決意が芽生え始めていた。



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