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キャットヤンキー?

「ねえミキ、テツ先輩って彼女いるのかな?」

校庭の片隅で、少し興奮気味に隣にいる友人のミキに聞いてみる。


ミキは「うん」と頷きながら、少し興味を引きながらもどこか冷静な口調で答えた。「なんか有名な話でさ、元町の女子高にすごい可愛い子がいて、その子と付き合ってるらしいよ。ほら、あの学校の子たちが時々話してるの聞いたことあるじゃん。それに、テツ先輩ってクラブでDJとかやってて遊んでるって噂もあるし。」


「遊んでる?」アオイはその言葉に少し疑問を抱いた。


今日出会ったテツは、どこか不器用で無邪気に感じられる一面があって、いわゆる「遊び人」とは程遠い印象だった。


少なくとも、自分が感じた「本当のテツ先輩」は、そんな軽いタイプには見えなかった。


「なんか遊んでる感じには見えなかったな…でも、女子校のしかも可愛い女の子と付き合ってるとは!」アオイは少し驚き、半分感心したように笑みを浮かべた。「不器用そうで、やるじゃないかテツ先輩。」


ミキはその反応を面白そうに見つめながら、にやりと笑った。「でしょ?うちの学校でも密かにファンが多いらしいよ。噂だけど、勉強もできてスポーツも上手いし、あのクールな雰囲気が良いらしいしね。」


「ふーん…」アオイは少しだけ拗ねたような顔をして、唇を尖らせた。「まあ、ライバルがいたほうが燃えるってもんよ。でも、なんか…テツ先輩ってただの遊び人とは違う気がするんだよね。」


ミキは興味深そうにアオイを覗き込み、「え?それって本気で狙うってこと?」と尋ねた。


アオイは力強く頷いた。「うん!だって、今日あんなに楽しそうな顔をしてくれたんだよ?私が誘って一緒にバスケしたら、なんだか自然に笑顔になってて…私がもう少し頑張れば、もっとテツ先輩のことを知れるかもって思ったんだよね。『遊んでる』って噂が本当かどうかも、確かめてみたくなっちゃったし。」


ミキは少し心配そうに眉をひそめた。「うーん…テツ先輩って、DJバトルで準優勝してから超有名人だし、横浜の有名な怖い人とも友達らしいし、元町の彼女って噂の子もかなりきつい性格らしいよ。去年の文化祭にきてて2年の先輩がテツ先輩と話してたら猫のような眼で睨まれたって。それでついたあだ名はなんとキャットヤンキー」


「キャ、キャットヤンキー!?元町の女もなかなかやるじゃないか。大丈夫だって、ミキ。私はそういうのを怖がるタイプじゃないし、むしろ…私が今、これほど気になるってことは、もう一歩踏み出してみる価値があるってことだと思うんだ。」


「そこまで思うって、なんか珍しいね。」ミキは少し呆れつつも、そんなアオイの気持ちを真剣に感じ取っている様子だった。


アオイは小さく息を吸い込み、改めてテツのことを思い浮かべた。


先輩の手を引いた瞬間、普段の無邪気な自分とはまた違う面が引き出される感覚があった。「私ねテツ先輩と同じ中学だったの。それで憧れてたっていうのもあるんだけど、やっぱりテツ先輩のことをもっと知りたいんだ。」


「ふふっ、アオイらしいけどね。でも、元町の彼女って子とバチバチにならないようにね。先輩の周りには意外とそういう噂が多いから。」とミキは少し冗談交じりに釘を刺すように言った。


「わかってるって!まずは、テツ先輩の心を少しでも揺さぶれるように頑張るだけだよ。」アオイは明るく笑い、そう言って決意を新たにした。


ミキはそんなアオイの姿に少し呆れつつも、彼女の真剣さに心を打たれたのか、「応援するからさ、何かあったらいつでも相談してよ」と、静かに声をかけた。


アオイは友人の言葉に勇気をもらいながら、心の中で再び決意を固めていた。


「ありがとう、ミキ。高校生になったテツ先輩がどういう人なのか、自分の目で確かめてみるよ。」


「…ヘックション(誰か噂している?)」

アオイがキャットヤンキーに宣戦布告をしている事など知らずナオは机に向かい、教科書を広げていた。けれど、どうしても集中できない。浮かんでくるのはテツのことばかりだ。


(テツ何してるかな?…)


少し距離を置こうと決めたはずなのに、その決意とは裏腹に彼への気持ちは募るばかりだった。


「…どうしても会いたい。」


思い切って自分の気持ちを口にしてみると、胸の奥にあったもやもやが少し晴れる気がした。でも、ただ「会いたい」だけでは理由にはならない。彼にどう思われるかも少し心配だった。


(会いたい理由…何かないかな?)


ナオは頭を抱え、自然にテツと会える口実を考え始めた。


(「相談がある」って言う?いや、相談したいことが特にあるわけじゃないし…)


(何か届け物があるってことにする?でも、それもわざとらしいなぁ。)


(「勉強教えて!」ってテツから勉強で教わる事は何にもないな)


思考が行き詰まり、ため息をついたその時、ふと目に留まったのは本棚に並んだテツから借りた漫画だった。


「あっ…これだ!」


ナオは漫画を手に取り、ページを軽くめくってみた。夢中で読んだ記憶が蘇り、思わず微笑む。


(この漫画を返すついでに、続きも借りたいって言えば自然だよね!それに勉強の息抜きって理由なら、変に思われないはず!)


名案が浮かび、ナオは心の中で小さくガッツポーズをした。さっそくスマホを取り出し、テツに電話をかける。


「…もしもし、ナオ?」


電話に出たテツの声が聞こえた瞬間、心臓がどきりと跳ねた。


「うん、あのね、前に借りた漫画、読み終わったから返したいなって。それで、もしよかったら続きも貸してもらえないかな?」


自分でも驚くほど自然に話せたことに少しホッとする。


「なるほどね。確かに息抜きも大事だよな。でも、ナオが漫画を返すためだけに電話してくるなんて珍しいな」と、テツが冗談交じりに言った。


その言葉に、ナオは一瞬言葉に詰まり、恥ずかしさを隠すように笑った。「まあ…そうかもね。久しぶりに声聞きたくなったっていうのも、あるかな。」


短い沈黙が流れ、テツが少し優しい声で答えた。「そっか。ありがとう、ナオ。」


その言葉に胸がじんわりと温かくなり、ナオは思い切ってもう一言尋ねた。


「テツ、勉強はどう?順調?」


「ナオと約束したからな。これは絶対にやり遂げるよ。俺にとっての最優先だよ」


テツの真剣な声に、ナオは思わず顔が熱くなった。以前よりも強い決意を感じさせる言葉に、彼の成長を感じたからだ。


「(私も頑張らなきゃ)じゃあ、漫画を返しに行くね!」ナオは軽い調子で続けた。


「うん、待ってるよ。いつか決まったら教えて。」


「…あ、あし、あした、明日でもいいかな?すぐ読みたいから、テツの学校の近くまで行くよ。」


「えっわざわざそんな来なくてもいいのに。漫画重いでしょ?俺がそっち行こうか?」


「いいの!予定がなくなったし、気分転換にもなるしね。」


電話を切ったあと、ナオはほんの少し胸が満たされたように感じた。テツと声を交わすだけで気持ちが落ち着き、会える約束ができたことで明日が待ち遠しくなった。


「早く明日にならないかなー」


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