夜風
ハルカゼは、1人逃げていた。
自身の力の及ばなかった圧倒的な存在を前にただ逃げるしかなかった。
私を救うために残ってたダリルを置き去りにして。
私は、最低だ。
何が、正義の味方だ。ダリルの方がよっぽど正義の味方だった。
私は逃げて逃げて逃げて島の外れの浜辺まで逃げてきて、浜辺の砂に足を取られ、倒れ込む。
そして、私は逃げ始めてから初めて後を振り返る。
そこには、誰もいない。
月明かりが差し込むこの世界は、淡い光しか縋るものがなかった。
私は、正義の味方になりたかった。
私を救い、ここまで導いてくれたあの人のように。
彼のようになるために、私は足掻き足掻き続け、刀を手に取り力を手に入れた。
そう思っていた。
でも、結局力を手に入れたと思い込んで戦いが快楽となり、自分のためだけにその力を振るう、ただの哀れな人間だったということを今ならはっきりとわかる。
私は、泣いた。
自分の情けなさに、自分の傲慢さに。自分が救えたのに救えなかった命たちに。
「君がハルカゼで間違いはないか?」
ハルカゼの背後を容易に取り話しかけてくる人物がそこにはいた。
ハルカゼは計画しつつ、背後を振り返る。
そこには、ダリルの師匠であるカタリナが立っていた。
「お前は敵か?」
「いいや、味方だよ。君を探しにしたんだ。弟子にお願いされてね」
「弟子?」
「ああ。君のことがよほど心配だったらしい。意識を失う前に私にお願いしてきたからね」
「その弟子って…もしかして」
「私の弟子は、ダリルだよ」
ハルカゼは、その言葉を聞き安堵する。
彼は生きていた。
あの圧倒的存在を前に、弱者でありながら生き延びたのだ。
「彼が無事でよかった…」
「君は、今までいったい何をしていたんだ?」
「私は…」
「戦士としての刃を失って心までも折れたか」
「…」
「これからどうするつもりなんだ?」
「わからない。もう戦う武器もないしそれにどうしたらいいのかもわからなくなった」
ハルカゼは、海の方を見ながらつぶやいた。
波の音がしっとりと聞こえてくる。
それは儚くハルカゼという存在を飲み込んでしまうようなそんな存在だった。
「君の戦いは、まだ始まってもいないだろ?」
「え?」
「間違えて間違えて間違えて、人は成長していく。あいつだっていつも間違いだらけで時には逃げ出したりもしたやつだ。でも、お前を守るために立ち向かった。」
「君が本当に正義の味方になりたいのなら、ここからまた、始めればいい」
___ここから、また始める。
それは、私にとって希望であり最も怖い言葉でもあった。




