最悪
___目の前の少女は異質だった。
何故、異質だと感じたのか。
アルディアよりも身長が低く、髪は黒色。和服のような服装をしているが全身白といった格好をしている。
死装束に近いその格好からも俺とは違う何かの存在であるように本能が語りかけてくる。
あれは、”最悪”であると。
目の前から少女が消えた。
瞬きをしたその一瞬に少女は視界から消え、隣にいたレンが血を吐き倒れている。
俺は、逃げようと身体を動かす。
が、動かない。
動けない。
人は絶体絶命のピンチに陥った時、意識としては逃げようとしているが、身体が反応しない。
レンに攻撃をした少女は、エリアスの方に歩いてくる。
エルメスが、雪の妖精魔法で再び防壁を張るが、少女が接触した途端その防壁が砕け散る。
何度も何度も防御壁が散っていき、少女はエルメスの片方の羽を指差す。
すると、エルメスの羽が、黒いモヤのようなものに覆われ始める。
「何?なんなの…やだ。私の羽が。待って!待ってよ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!」
エルメスは叫ぶが、黒いモヤは最終的に片方の羽を飲み込み、消失させてしまう。
地面に膝をつき、絶望に囚われるエルメス。
少女は、レーチェの方を向き彼女を次のターゲットに設定した。
レーチェは、恐怖のあまり俺同様動くことできない。
逃げ出したとしても、さっきの黒いモヤのようなものを使われたら、結局終わりだ。
なんとかしなければ。
今、ここで動けるのは俺しかいないんだ。
レーチェをみんなを守らないと。
強張っていた足が少し緩む。
走り出せと誰かに言われているようなそんな声が聞こえたような気もした。
エリアスは走り出す。
何ができるわけでもないが、今ここで動かなきゃ駄目だと思った。
物語の登場人物に憧れた青年は、今、ここで物語の香盤表に足を掛ける。
妖精の目の前に、青年が立ちはだかる。
何か特別な力を持っているわけでもない、普通の青年。
「これ以上、みんなを傷つけないでくれ。頼む」
俺は、震える声で必死に訴えかける。
でも、少女の足は止まらない。
俺の目の前に立ち、彼女は俺の瞳の奥を覗く。
すると彼女は、ニヤッと笑い俺を優しく抱きしめる。
「お兄ちゃん、早く私を殺しにきてね」
その言葉を最後に、霧のように彼女の存在は消失した。
心臓の音だけが俺の世界に響き渡った。




