宝石術師
その手刀は、再び俺の心臓を貫こうとしていた。
前回セレーノで影魔に殺されそうになった時も、いつもより短い時間で多くの思考、いや独り言を脳内でできたと思う。
こういう時に後悔のひとつやふたつ出てくるものだが、なぜか出てこない。
俺はこの終わり方に納得しているのだろう。
アルディアを助けることができた。
物語の登場人物みたく、この物語の中心に足を踏み入れることができたのだ。
だから、後悔などない。
もっと、いろんなことをするはずだったんだけどな。
旅を続けて、レーチェの目的も手伝いたかったし、アルディアとは今とは違う形で出会もしたかった。
ザックとは、もっと信仰を深めてカラクリ技師についても知識しか持ってなかったから知りたかったし仲良くなりたかった。
読みたい本だってまだあったな。
世界を全て見て回って、世界の記録者として本も執筆したかった。
ああ、そうだ。フィーネに謝らないと。
ちゃんと、君のもとに帰ることができなくてごめん。
手刀がもう、目と鼻の先にある。
俺は、受け入れたように目を閉じた。
痛くない。
俺は、ゆっくりと目を開けていくと、あの影魔は俺から距離をとっていた。
正確には俺からではなく、目の前の男に対して距離をとっていたのだ。
___君。よくここまで足掻けたね。そのおかげで間に合った。もう安心するといい。
その男は、俺に向かっていう。
俺よりも比べ物にならないような磨き上げられた体格。
しかし、筋肉質というよりかは、必要なもの以外削ぎ落としたような印象を受ける。
服装もこの場に相応しくない。
そう。いうなれば、商人のような小綺麗な格好をしている。
「あなたは…?」
「私は、ダリル=フォスター。宝石術師だよ」
「宝石術師…?」
「お前は、いったいなんなんだよ」
お前はいったいなんなんだよ。
それを聞いたのは、エリアスじゃなかった。
目の前に戦闘体制に入っているあの影魔であった。
「だから、言ってるだろう。宝石術師だって」
「何を訳のわかんねーことを抜かしやがって。いいぜ、お前から殺してやるよ」
「私はそう簡単にやられたりしないよ。かかってきなさい」
ダリルの挑発に自分から乗り、飛び込んでくる影魔。
俺と対峙していた時より早い。
あいつは、やっぱり俺をたたの”虫”のような弱者だとわかり、遊んでいただけだった。
でも、今回は違う。
やつは、この男を脅威だと感じているのだから。
そのダリルという男は、胸ポケットから”ディメンションノズル”とハンマーを取り出す。
__発掘術 常闇の終わり
そう唱えると、彼の周りの空間が歪む。
その空間に、手に持ったノズルを突き立て、ハンマーで殴ると”何か”が宙を舞う。
それは、異次元から発掘された鉱石。
彼は、左腕につけている腕はに嵌め込む。
___宝石術 "パライバトルマイン”
そういうとダリルの身体の周りが宝石と同じようなオーラを放ち始める。
次の瞬間、襲いかかってきた影魔は、向こう側の壁に吹き飛ばされていた。
何が起きたのか、やつはわかっていなかったが、俺は見ていた。
この男が影魔を殴り飛ばした。
ダリルは、膝をつく影魔に言い放つ。
「君、こんなもので終わりではないだろ?さあ、かかってきなさい」




